―― なぜ、そこまで欧州にこだわったのですか?
久夛良木 1つは欧州が最大の文化の発信源だということ。そして、先に言ったように商売的には面倒な場所。そこを落とせたら、どこへ行っても成功できると思ったからですよ。実際初代PSでは、世界最大の市場を形成できました。
―― ネットワーク戦略も最初から世界を意識して展開されるのですか?
久夛良木 最終的にはそうですが、ネットワーク自体のインフラが国によってかなり違いますので、まずは日本ですね。
―― ネットワーク時代になると、どんな点が一番変わってくるんでしょうか?
久夛良木 従来のDVD-ROMなどのメディアは物理的に属性が決まっていて、固定されたメディアの中でいろんなものを決めればよかった。ところがネットワークというのは、1秒ごとに進化していく。つまり、コンテンツもミドルウェアもプラグインも理屈から言えばいつでも変えられるんです。バンド幅もどんどん拡がってくる。つまりネットワークをメディアにした途端に、クライアントというものが固定されてはいけないということになる。
―― クライアントを問わないということですか?
久夛良木 そうです。映画やゲーム、音楽といった従来別々のパッケージメディアで提供されていたものがPS2の上で融合を果たせた。次はクライアントを問わない世界です。今はどんなに頑張ってもドリームキャストのCD-ROMとPSのCD-ROMは相互のハードでは使えない。それがネットをメディアにした途端、ハードは何でもよくなるのです。クライアントというより、マン・マシン・インターフェイスという感覚になる。
―― コンテンツも変わってくるでしょうね。
久夛良木 一般の人々に一番身近なブロードバンドである、放送も融合してくるでしょうからね。放送コンテンツの中でもゲームに一番近い、スポーツが最初に融合されるでしょう。今、アメリカではNFLのフットボールのゲームが売れていますが、リーグや選手会と組んだ本格的なものがパッケージでバンバン出ている。これに通信が融合されると、シーズン中に誰かが故障したりトレードがあったりした場合もリアルタイムにゲームデータを更新することができる。流通効率としてはパッケージのほうが勝るけれど、バンド幅が広い高速なネットワークを誰もが使えるようになれば、デジタルデータはダウンロードしてハードディスクにリッピングするようになりますよ。
―― メディアミックスなんてものではなくて、リアルワールドがミックスされる世界ですね。本物の試合を見ながら、ゲームを楽しむような。
久夛良木 そんな時代がもうすぐそこまで来ている。PCがWindows 95以降、クロックやいろんなものが進化してきた理由は、ネットにつながったからですよ。パッケージソフトが主たる用途であったなら、こんなにPCが進化する必要はなかった。インターネットにつながったが故に、1GHzのクロックが要求され、100GB以上のハードディスクが出てきた。PCって、チップなどの要素技術自体ははるか昔に全部完成していて、95が出てくるまで値段が下がったとか小さくなった程度の進化しかなかったようなものです。Windows 95の段階でPCはやっとHTMLで情報交換できる、紙やコピーのレベルに到達できたといえるんじゃないですか。
―― なるほど。
久夛良木 PS2もテレビもこれからネットにつながっていくと、PCがWindows 95に出会ったときと同様の進化を遂げると思います。
―― ハードのスペックというかキャパもどんどん変わるのでしょうか。
久夛良木 変わるでしょうね。変わるというか、ネットワークに溶けていくと思う。
―― 溶けていく?
久夛良木 ええ。1軒の家の中で、テレビのモニタが壁ごとにあって、さらにマン・マシン・インターフェイスが随所にある。そこが無線か家庭内のイーサネットなどにつながっているという感じです。送り出す側としては、ホームサーバのようなものが存在しているかもしれない。イーサネットは必ずどこの家にもある時代になって、ホームゲートウェイが光ファイバにつながっている。そのホームサーバの中にはClip Onのような録画用ハードディスクも編集用の機能も入っている。いろいろとスレッド管理されていて、マルチタスクで処理をしていければいい。そんなネットワーク化されたAVシステムを、ソニーの安藤(社長)も僕も考えている。
―― そんな、ホームゲートウェイに相当する製品を、早ければ2002年頃にソニーさんがつくるとしますよね。その中の1つの輪の中にPS2も溶け込むカタチで存在していくのですか?
久夛良木 ネットワークを使ってデータのアップロードがある程度柔軟にできるようになったら、どこにあっても同じなんですよ。IPv6につながるようになればなおさらです。