IT分野における北欧諸国の台頭には目覚しいものがある。3月に世界経済フォーラム(WEF)がまとめた調査“世界ITランキング”では、10位までにデンマーク、スウェーデン、フィンランド、アイスランド、ノルウェーなど5ヵ国がランクイン。通信インフラの整備に加え、政府の指導力などが高く評価された結果だ。
今回はこんな北欧のIT企業の中から、ノルウェーのOpera Softwareを訪問する機会を得た。Opera SoftwareのCEO、Jon von Tetzchner氏らがブラウザーの開発に着手したのは1994年のこと。まだ独立した企業としてではなく、ノルウェー最大手の通信会社Telenorの研究プロジェクトという形を取っていた。
当時は、WWWを世界に広めたブラウザー『NCSA Mosaic』が登場したばかりで、このMosaicが発展的に進化した『Netscape Navigator』(1994年冬のリリース)やマイクロソフトの『Internet Explorer』(1995年)も、まだリリースされていなかった。
以来Opera Softwareは、ブラウザーの発展とそれに関連した標準技術の開発に貢献してきた。最近では、HTML規格において、この10年来のもっとも大きなアップデートと言えるHTML 5の仕様策定にも中心的な役割を果たしている。
北欧に拠点を置く、インターナショナル企業
Opera Softwareの本社は、首都オスロの中央駅からトラムで15分程度離れた市街地にある。石造りの建物の3階がOpera Softwareのオフィスだ。働く社員は250名ほどで、広いパーティションで区切られた大部屋を3~4人で共有するゆったりとした空間で、各自が作業を進めていた。
従業員のうちノルウェー出身者が占める割合は約半数。残りは米国や他のヨーロッパ諸国、インドやブラジルなど約40ヵ国から集まった外国人だという。
オフィスには、多様な人種、文化的背景を持つ人々が協調して働く、インターナショナルな光景が広がる。社内でのコミュニケーションも英語が中心だ。日本の企業にはない「ゆとり」を感じさせる一方で、北欧を拠点としたローカルな企業という、訪問前の先入観とは少々異なる雰囲気が筆者には新鮮だった。
取材でお話をうかがった、人事担当の上級副社長Anne Stavnes氏も母国はアメリカだという。彼女はノルウェーで働くことに関して以下のように話す。
「私自身はもともと米国人ですが、ノルウェーのワーキングカルチャーは、米国とはずいぶん異なる面があると感じています。日本の方も近い印象を持つのではないでしょうか? 石油は出るし、社会システムも整っている。これが彼らの生活に、強い安心感を与えるのだと思います。休みも多く、国民の祝日だけで26日、これ以外にも週末の休みや長期の休暇があります。私には15歳になる娘がいますが、ものすごくリラックスしているというか、親として少し心配になるくらい快適に過ごしています」
しかし、Opera Softwareはこういった典型的なノルウェーの企業とは少し異なる文化を持っているとStavnes氏は説明する。
「重要なのは、文化的に社員をノルウェーのスタイルに合わせるのではなく、それぞれのアイデンティティーを保ちつつ、一緒に生活していくことです。それが円滑な仕事につながっていくと思います」
さまざまな文化的な背景を持った社員が協業する“マルチカルチュアル”な企業としてOperaは成功しているとStavnes氏は話す。そして、企業として重要なのは、安定した生活に安穏とするのではなく、前に進むためのメンタリティーを保ち続けることだと指摘する。
「慎重にならないといけないのは、従業員の間にハングリー精神を維持させることなんです。彼らを前に進ませて、お互いに影響しあえるような環境を作らないといけない」
同じように重視しているのは、経験を積んだエキスパートの育成だ。Opera Softwareでは、入りたての従業員や海外からやってきた従業員に対して、経験豊富な先輩から、細かなサポートを受けられるメンター制度を取り入れている。メンターは仕事上のアドバイスはもちろん、文化の異なる外国からやってきた従業員の家族などのサポートも行なうのだという。
「Opera Softwareでは定期的にエキスパート向けの講習会を実施しています。成長するにしたがって責任を持つことの重要性を教えているのです」
Opera Softwareで働いていく上で最も重要なことはパッション(情熱)であるとStavnes氏は言う。休暇も多く、社会制度としても整った環境で働けるノルウェーだからこそ、企業や個人として前に進んでいく雰囲気作りが重要になる。
同時に感じたのがOpera Softwareが北欧に本拠を置きながら、常にグローバルな視点で製品開発を行なっているということだ。ただしそれは、ひとつのルールを世界市場に広く浸透させるといったアプローチとは異なっている。
さまざまな国々の文化的背景を尊重しつつ、世界で広く受け入れられる製品を作る。Operaブラウザーの特徴のひとつに多言語対応やカスタマイズ性の高さがあるが、こうした特徴は言語や文化的に多様なヨーロッパに位置すること、40ヵ国から集まった従業員ひとりひとりのバックグラウンドを製品の中に生かすというOperaの社風に負うところが大きいのではないだろうか。
※次回は、Operaブラウザーの今後の進化に焦点を当てながら、Operaの3つの柱について見ていきます。
