フロイトさんがいろいろおっしゃるので
―― じゃあマシーンを作るアーティストとしての話も伺いましょう。「寿司ボーグ☆ユカリ」とか「メロディナイフ」のような殺戮系の作品がそうですけど、何か男に恨みでもあるんですか?
スプ子 恨みはないですけど、私、三池崇史とタランティーノが大好きなんで。それに少しおちょくるくらいがちょうどいいと思っておりまして。これはイギリス人的なブラックユーモアかと思いますね。笑ったけど、これって笑っちゃいけないんじゃないか? とか、面白かったけど、それで良かったのか? と、笑った後で少し考えさせられるような。
―― たしかに、何かしらオチというか笑える要素がありますよね。
スプ子 「フロイトがチンコエンビー※とか言ってるけど、私はそう思わない!」そんな作品を作っても、誰の興味もひかないじゃないですか。でもああいう形で「チンコ最高だしぃ」みたいな感じで言えば、逆にサーカスティック(皮肉)ですよね。
※ チンコエンビー : フロイトが提唱した精神分析用語「penis envy」。女性の男根羨望をあらわす
―― なんだか爽快に連呼してますもんね。
スプ子 でもあの曲は生理痛の時に書いたんですよ。今日勉強しようと思ったのに、お腹いたいー、何もできないー。だったらチンコの歌でも書いてやろうかと。
―― やっぱりそれは何か……。
スプ子 あ、そうだ、チンボーグって作品見ました?
―― はい、画像だけ。あれは、なんというかぺ、ペニ……。
スプ子 私の心拍数に合わせて勃ったり萎えたりするんです。ドキドキすると勃ったり、がっかりすると「ういーん」ってモーターで下がるんですよ。初めてプレゼンした時は緊張してチンボーグが下がりませんでした。
―― あ、それは分かる! って、いや違うな、何言ってんだオレは。
スプ子 オーディエンスの前で「今からちょっと、気持ちを沈めるんで……」と数分沈黙したあと、チンボーグがウイーンと下がったとき、会場から拍手が起こりました。嬉しくなったら、また上がりましたけど。
―― 器用だなあ。いや、心拍数の変化なんでしょうけど。しかし、なんでそんなものを作りましたか。
スプ子 フロイトさんがいろいろおっしゃるので、1週間装着してみて、私の心理に変化はあるのか、そういう実験をしたんです。オシャレなカフェでチンボーグを装着して、オシャレにカプチーノを飲む写真を撮ろうとしたら、「自分たちを写真の背景に写されるのは嫌だ」と拒まれましたけど。オシャレな人たちに。
―― また何もそんなところで撮らなくたって。
スプ子 京都造形大学でチンボーグについて講義したときは「美人なのにこういうぶっ飛んだことをしていて、勇気がでました!」と、大勢の女子生徒が立ち上がって賛同してくれて、すごく感動しました。「その形の修正液を作りたかったんですよ!」って相談しにきてくれた乙女もいました! すごく嬉しかった!
―― 乙女がそんな……。ところでカラスと会話する「カラスボット☆ジェニー」はジェンダーと無関係な気がするんですけど。
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サイボーグ・フェミニズム |
スプ子 私は「サイボーグ・フェミニズム」という言葉をよく使うんですけど、それはダナ・ハラウェイ※の「サイボーグ宣言」で有名になった言葉なんですね。彼女が最近書いた「When Species Meet」という本では、人間と動物の境界線について論じる方向にシフトしているので、その影響もあります。自分と自然との関係をテクノロジーでどう発露するか、ということなんです。
―― 実際、会話は成立してるんでしょうか?
スプ子 ケンブリッジ大学でカラスの知能を研究している教授が二人いるんですけど、彼らがカラスの声を沢山持っているんですね。それをロボットの中に入れて鳴らすと、他のカラスだと思って返事をするんです。
カラスの群れがいるところで「ここは危ないぞ」と言うと、他のカラスが真似して「ここは危ないぞ」「危ないらしい」「危ないぞー」って、一気に広まるんです。面白いですよ!
※ ダナ・ハラウェイ : アメリカのフェミニズム科学論者。人間、動物、機械の境界線をジェンダーとテクノロジーの視点で論じる。日本語訳の単著に「猿と女とサイボーグ」がある。1985年に書かれた「サイボーグ宣言」は「サイボーグ・フェミニズム」に収録
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