最近、「フィジカルインターネット」という新しい言葉を耳にするようになった。
「フィジカル」という言葉は、「物質の」や「身体の」といった意味だが、モノのインターネット(IoT)とはまた別の話のようだ。
2021年10月には、経済産業省と国土交通省が「フィジカルインターネット実現会議」なる有識者会議を立ち上げた。
実はこの言葉は、デジタルに直接的に関連する用語ではない。
現実の世界にインターネットの通信の考え方を落とし込み、物流ネットワークを効率的に運用する仕組みを指す言葉だ。
フィジカルインターネットが注目を集める背景には、物流危機がある。
ネット通販の普及で、輸送に対する需要は増えている一方で、輸送能力は限界に近づきつつある。
フィジカルインターネットの実現を目指す取り組みは、目の前に迫る物流危機に備える取り組みだ。
需要増と人手不足
フィジカルインターネットを理解するうえで、まず押さえておく必要がある前提として、輸送の需要増加と、物流業界の人手不足がある。
アマゾンや楽天をはじめとしたインターネット通販の普及で、小口の輸送の需要は増している。
筆者がネット通販サイトで購入した品物の履歴を振り返ってみると、単3の充電池8本や、浄水ポットのカートリッジなどをそれぞれ別の日に注文している。
購入するごとに輸送が発生することになり、ドライバーの視点で考えると、行き先が増えることになる。
こうした状況に拍車をかけたのが、コロナ禍だ。ネット通販の需要は一気に跳ね上がった。いまよりもさらに外出を控えていた2020年や2021年初めは、ネット通販で食品を買うことも多かった。
2014年の厚生労働省の調査によれば、全産業の所得の平均額は480万円だが、大型トラックのドライバーは422万円。労働時間は全産業平均は2124時間に対して、大型トラックは2592時間にのぼる。
つまり、大型トラックのドライバーは、他の業種で働く人たちより468時間も長時間働いているのに、年間の所得は58万円少ない。長時間労働で、もうからないという事実を示すデータだ。
物流業界では、ドライバーの高齢化が進み、人手不足で人員の確保が困難になっている。結果として、ドライバーたちが長時間働く傾向はさらに強まっている。
ワーストシナリオだとは思うが、2000年に約100万人いたトラックのドライバーが、2050年には約50万人に減少するとの予測もある。
日本ロジスティクスシステム協会の報告書など、すでに輸送の需要は供給を上回っているとの分析も存在する。
同協会の調査結果によれば、2020年度には、企業の売上高に物流コストが占める割合は5.38%。前年度の調査から0.47ポイント増加している。
物流に必要な標準化
調べてみると、すぐに手を打たないとまずい状況なのではと考えさせられる。
そこで登場するのが、インターネットの通信方式にならった標準化だ。
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