さまざまなタイプの磁石を近づけてみると変化もさまざま
今回の磁性流体トイは時計のような機械仕掛けを全部取り払い、人間が直接磁石を動かす超アナログ仕様だ。ところがこれが予想以上に面白い。付属マグネットだけではなく、手元にあったサイズや磁力の異なる磁石を近づけてみると、磁性流体の立ち上がり方、尖り方、広がり方が少しずつ変わる。
さらに磁石を2個使って左右から引っ張れば、黒い流体はどちらへ行くべきか迷ったように伸び、分裂し、時には両側へブリッジする。上下左右から磁場を与えると、たった一塊の黒い液体とは思えないほどダイナミックに姿を変える。
ただし、面白いからといってボトルの栓を開け、中身を取り出して遊ぶのはお勧めしない。磁性流体は微細な磁性粒子とキャリア液などから構成されるコロイドであり、この製品について液体の具体的な組成や安全性情報までは確認できない。NASAの技術資料でも磁性流体は、磁性粒子をキャリア液に安定分散させたものとして説明されている。別の格好いいボトルに移し替えたい誘惑には駆られるが、筆者としてはメーカーが密封した状態のまま楽しむことにしたい。
そして磁石以上に少し気になったのがボトル内の気泡である。気泡は磁性流体とは反応せず、傾ければ当然ながら液体中を移動する。9年前のリキッドメタル・ウォッチでも気泡が黒い球体を分裂させ、意図しない「第三の球」が出現することがあった。今回も気泡は邪魔者であると同時に、磁性流体の動きをさらに予測不能にする脇役と考えれば、それもまた楽しい(まずは、百聞は一見にしかずで、磁石に吸い寄せられて変形する黒い磁性流体を以下の動画で見ていただきたい)。
強力な磁石をボトルの底から近づければ、普段は平べったく横たわる黒い流体が一斉に立ち上がり、まるで黒い剣山のような姿になる。電池もモーターもCPUもAIもアプリも要らない。必要なのは60年以上前に生まれた磁性流体と永久磁石、そして暇な人間一人だけである。
ストレス解消玩具としては科学的
なかなかコスパにすぐれた玩具を衝動買いできた
購入価格は約1400円。ストレス解消玩具と呼ぶには科学的で、科学教材と呼ぶにはあまりに無目的。そしてアートと呼べば何となく高尚にも見える。仕事中に頭が煮詰まった時、寝る前にスマホを見る代わりに、磁石を片手に黒い物体をニョロニョロ動かしているだけで意外に時間を忘れる。
職場に1個、寝室に1個、キッチンに1個……と言いたくなるが、強力な磁石が付属するので、磁気カードや磁気記録媒体、磁石の影響を受ける機器などには近づけない方がよい。そしてなにより小さな子供やペットのいる家庭では、磁石の誤飲を防ぐため手の届かない場所で管理したい。
かつてNASAが無重力空間でロケット燃料を動かそうとして生み出したテクノロジーを、60年以上後の筆者は机の上でウニやハリネズミに変身させて遊んでいる。技術の進歩とは、必ずしも目的に向かって一直線に進むものではないらしい。約1400円でNASAからAliExpressまで60年以上の技術史を行ったり来たりできるなら、これはなかなかコストパフォーマンスの高い「戦略的衝動買い」なのである。ヽ(^o^)丿

今回の衝動買い
・磁性流体玩具
・購入:AliExpress
・価格:約1400円
T教授
日本IBMでThinkPadのブランド戦略や製品企画を担当。国立大芸術文化学部教授に転職するも1年で迷走。現在はパートタイマーで、熱中小学校 用務員。「他力創発」をエンジンとする「Thinking Power Project」の商品企画員であり、衝動買いの達人。
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