2026年8月になって、米国の暗号資産(仮想通貨)規制が大きく動き始めた。
証券取引委員会(SEC)は8月18日、暗号資産の発行と資金調達に関する新しい規則案を公表した。米国の証券法では、証券を売って資金を集める企業は、監査済みの財務諸表を含む詳細な書類をSECに登録し、その後も開示を続ける義務を負う。事業者が負う手間も費用も大きいのだが、暗号資産の発行者は、自分が売るトークンが証券に該当するか否かがはっきりしないまま、この重い手続きを迫られるリスクがあった。
規則案は、登録義務を一定の範囲で免除する。初期段階のプロジェクトであれば、最大500万ドル(約7億8000万円)までを、ホワイトペーパー形式の簡易な開示で調達できる。もう一段上の枠として、12か月間に最大7500万ドル(約117億円)まで調達する道も用意されたが、こちらは監査済みの財務諸表と、その後の定期的な報告が条件になる。
暗号資産を用いたスタートアップや新規事業の立ち上げが容易になる内容で、業界側の要望に沿った規則案だと言える。
翌19日には、トランプ大統領がホワイトハウスに暗号資産業界の経営者とSEC、商品先物取引委員会(CFTC)の両委員長を呼び、上院に対して法案の可決を呼びかけた。さらに20日、CFTCのセリグ委員長は「CLARITY法案が民主党の妨害によって停滞し続けるのであれば、CFTCは現行の権限を用いて、暗号資産市場の規制体制の構築に着手する」と述べ、議会の決着を待たずに規則をつくる考えを示した。
トランプ政権は、暗号資産業界に有利な規制の導入に前のめりな姿勢を隠していない。そしてこの動きは、大統領の親族らのビジネスとも密接に結びついている。
大統領の関連企業に信託銀行の免許
この一連の動きが始まる直前の8月14日、財務省の通貨監督庁が、トランプ大統領の一族が関わる企業に対し、全米で営業できる信託銀行の免許を予備認可している。
2026年6月9日のロイターの報道によれば、大統領一族が関わる暗号資産関連の事業は以下の4つがある。
●ワールド・リバティ・フィナンシャル(WLF)
●TRUMPミームコイン
●アメリカン・ビットコイン
●ALT5シグマ(現AI Financial Corp.)
ロイターは、この4事業で大統領一族が2026年4月末までに23億ドル(約3600億円)を得た一方、外部の投資家がほぼ同額を失ったと報じている。一族が自ら拠出した資本は「合計100万ドル未満」だという。
4事業のうちWLFは、トランプ氏の息子たちと、中東担当特使を務めるスティーブ・ウィトコフ氏の息子たちが2024年9月に立ち上げた企業だ。トランプ氏自身は「名誉共同創設者」とされている。
通貨監督庁が予備認可したのは、このWLFと間接的に共通のオーナーを持つ「ワールド・リバティ・トラスト・カンパニー」という企業だ。頭取には、ウィトコフ特使の息子であるザック・ウィトコフ氏が就く。
同社は、WLFがすでに発行しているドル連動型ステーブルコイン「USD1」の発行と償還を、現在の発行者から引き継ぐ計画だ。USD1の時価総額は40億ドル(約6200億円)規模とされる。信託銀行の免許を得ることで、この事業を全米で展開できるようになる。
予備段階ではあるが、現職大統領の一族が関与する企業が銀行免許を得るのは米国史上初めてだと報じられている。通貨監督庁には、利益相反を懸念する意見が寄せられた。
議会の暗号資産法案は宙に浮いたまま
大統領の一族の関連会社が免許を得た直後に、規制当局が新たな規則案づくりに動き出す。この流れはかなり露骨なものに見えるが、野党の民主党は、これに歯止めをかけようとしている。
議会では、暗号資産を証券とコモディティ(商品)に切り分け、SECとCFTCの管轄を確定させる「デジタル資産市場CLARITY法案」が、2025年7月17日に下院を通過したものの、上院の審議は止まっている。9月15日以降に審議が再開される可能性があるが、可決には民主党の協力が欠かせない。
上院で示された法案には、連邦政府の公職者と配偶者が、在職中にデジタル資産を発行・後援することを禁じる規定が盛り込まれた。大統領と連邦議員も対象に含まれ、保有する暗号資産や暗号資産企業への投資は、売却するか、自らが支配しない信託に預けることが求められる。違反には、司法省が1日あたり最大25万ドル(約3900万円)の制裁金を科すことができる。
しかし、この規定に公職者の子どもは含まれない。大統領一族の暗号資産事業は、いずれも息子たちが前面に立っている。さらにこの規定には期限があり、次の大統領が就任する2029年1月20日に失効する。民主党側は、倫理条項としては不十分だとして、採決に応じていない。
こう着状態が続くなか、規制当局は法律の下に位置づけられる規則を先につくることで、業界の要望に沿った制度を確立させようとしている。CFTCの委員長の発言は、その意図をはっきりと言葉にしたものだ。
一連の流れを整理すると、議会が暗号資産の法律をつくれずにいる間に、行政機関が規則で制度を固めてしまおうという動きに見える。しかも、その制度の受益者のなかに、制度を設計する側の一族が含まれている。
政治家の蓄財に極めて敏感な日本で暮らしていると、トランプ大統領がその地位を存分に活用した暗号資産ビジネスは、認められるものではないと感じてしまうが、米国の暗号資産規制は、何らかの形で着地することができるだろうか。
筆者──小島寛明

1975年生まれ、上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒。2000年に朝日新聞社に入社、社会部記者を経て、2012年より開発コンサルティング会社に勤務し、モザンビークやラテンアメリカ、東北の被災地などで国際協力分野の技術協力プロジェクトや調査に従事した。2017年6月よりフリーランスの記者として活動している。取材のテーマは「テクノロジーと社会」「アフリカと日本」「東北」など。著書に『仮想通貨の新ルール』(ビジネスインサイダージャパン取材班との共著)。
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