実際には液体金属ではない「リキッドメタル」
磁性流体を楽しむ玩具を衝動買い
今から9年前の2017年、筆者は文字盤上を動き回る2個の黒い球体で現在時刻を表示する「リキッドメタル・ウォッチ」を衝動買いして、本連載でご紹介した(謎の液体金属が時を知らせる「リキッドメタル・ウォッチ」を衝動買い)。これは「Metallium(メタリウム)」と呼ばれる謎の特殊物質を使った、3万7800円の極めて怪しい腕時計だった。
ところが先日AliExpressを徘徊していて、どこか懐かしい黒い物体に再会した。今度は時刻さえ教えてくれない。ただ磁石で引っ張って遊ぶだけの「磁性流体玩具」である。
そもそも磁性流体(Ferrofluid)は、見た目から想像するような「液体金属」そのものではない。微細な磁性粒子を液体中に安定して分散させ、外部の磁場に反応するようにした流体である。そして意外にも、そのルーツをたどるとNASAの宇宙開発に行き着く。
1960年代初頭、NASA Lewis Research Center(現在のGlenn Research Center)のStephen Papellは、無重力下でロケット燃料をどうやってエンジン側へ送り込むかを研究していた。そこで燃料に微細な酸化鉄粒子を分散させ、電磁石で燃料そのものをポンプ側へ引き寄せる方法を考案した。
最終的にこの方式がロケット燃料供給に採用されることはなかったが、磁性流体はその後、半導体製造装置のシールやスピーカー、工業用途、さらにはアートへと活躍の場を広げていった。
そんな60年以上の歴史を持つテクノロジーが、2026年にはAliExpressで約1400円のストレス解消トイになって筆者の机の上にやって来た。パッケージの中身はいたってシンプル。透明な液体を満たした角型ボトルの中に黒い磁性流体が封入され、それを外側から操る強力なマグネットが2個付属している。
磁石をボトルに近づけると、それまで底で黒い水たまりのように寝ていた磁性流体が突然むくむくと起き上がり、磁石に向かって移動する。さらに近づけると表面から無数の鋭い突起が現れ、ウニやハリネズミ、あるいは正体不明の黒い生命体のような姿に変化する。これは磁場と表面張力などの釣り合いによって生じる磁性流体特有のスパイク状パターンで、NASAも磁性流体の特徴的な現象として紹介している。
ここで思い出すのが、9年前に紹介したリキッドメタル・ウォッチだ。文字盤には「時球」と「分球」と筆者が勝手に命名した2個の黒い物体があり、内部の磁石に追従して現在時刻を表示していた。気泡の影響で球が分裂したり、時には富士山型に変形したりする怪しさも含めて楽しい腕時計だった。
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