マクニカ デジタルインダストリー事業部の阿部です。前編では、2024年から2026年にかけてのハノーバーメッセの変化を振り返りながら、エージェンティックAIとフィジカルAIの現在地について見てきました。成熟度は違えど、どちらの領域も急速に進化しています。
しかし、2026年のハノーバーメッセで私が最も印象に残ったのは、個々の技術そのものではなく、多くの参加者が口にしていた「今年は難しかった」という言葉でした。その理由を考えていくと、今年のハノーバーメッセが本当に伝えようとしていたものが見えてきました。
「今年は難しかった」の本当の意味
2026年のハノーバーメッセについて一言で振り返ると、「今年は難しかった」になります。会場でも何度も耳にしました。日本から参加していた製造業の方々とも話をしましたし、付き合いのある企業の方々とも意見を交わしましたが、多くの人が同じような感想を持っていました。
展示されていた技術そのものは以前よりわかりやすくなっています。エージェンティックAIが何を目指しているのか、フィジカルAIがどの方向へ進もうとしているのか、その全体像はむしろ理解しやすくなっています。なのに難しかった。その理由は技術そのものではなく、展示の読み解き方です。
今年は多くの企業が事例とその成果を語っていました。在庫が削減された、生産性が向上した、業務効率が改善した。どれも魅力的な話です。しかし、本当に知りたいのは、その結果が生まれるに至るプロセスであり、変化点です。なぜ成果が出たのか、どの業務が変わったのか、現場では何が起きていたのか。展示会という情報収集の場では、成果そのものよりも、その成果を出すに至ったプロセスの中で自社で取り入れられる要素を見出すことが重要です。
さらに前回お話ししたClaudeの進化に伴うPoCレベルで良ければ、比較的簡単に事例は作れてしまうので、それが運用可能なレベルの事例なのかもぱっと見ではわかりません。展示会という場では説明できる時間に限りがありますし、説明する側も必ずしもプロジェクトの当事者とは限りません。聞く側も、どこを深掘りすれば本質にたどり着けるのかを考えなければなりません。だからこそ今年は、展示を見る側のリテラシーがこれまで以上に問われる展示会だったと思います。
これは見る側だけの話でなく、出展者側へインタビューした際も、同様のことを言っていました。実際の運用の中でセキュリティや業務品質、バージョンアップへの追従やアクセス制御など運用に耐えられるレベルなのか。PoC的に試してみて効果は出たものの実際の運用までは考えられているのか。それらを展示会の場で見せるのは難しく、差別化が困難だと悩みながら出展していたとのことです。
こうした状況の中、ハノーバーメッセに参加した方々と帰国してからもディスカッションを続けていますが、自社としてこれからどうAIに向き合うか? 変化に追従する為の内製化をどう行うか? スピードとガバナンスをどう両立するか? など、AIとの向き合い方を喧々諤々と議論している状況です。
特に内製化の議論では、コードを書ける人から、業務への適応、AIを前提としたワークフローの構築、自社としての目的に応じたポリシーの設定/状況に合わせたアップデートができる人材を如何に増やすかということが主題になってきています。
10年以上DX支援という立場で仕事をしてきましたが、やはりツールやシステムありきの話に終始してしまうことも正直多かったです。しかし、このAIのスピード感と体験が早くなったことで、ビジネスとIT、業務部門とIT部門の融合が一気に進んできていることを感じます。
さらに、こうした展示会を訪れたとき、何を見るかが重要になっています。自分が何を知りたくて、何を持ち帰りたいのか。これが明確でないと、膨大な展示や事例の中から本当に価値のある情報を見つけ出すことは難しい。これまでさまざまな展示会やイベントを継続して見てきて感じるのは、一つの展示だけを切り取っても全体像は見えないということです。
2024年に何が語られ、2025年に何が変わり、そして2026年に何が当たり前になったのか。そうした流れの中で初めて見えてくるものがあります。2026年のハノーバーメッセは、技術の進化を確認する展示会であると同時に、その技術をどう読み解くのかが問われる展示会でした。そして、本当に問われていたのは、技術の性能ではなく、その技術を使って何を実現したいのかという問いでした。
問われているのは技術ではなく私たち
エージェンティックAIは確実に進化しています。フィジカルAIも、まだ発展途上とはいえ着実に前進しています。以前であれば、技術がまだ成熟していないし、もう少し様子を見ようという議論も成立したかもしれませんが、今年のハノーバーメッセでは、そうした空気はほとんど感じず、もう言い訳ができないところまで来たという感覚に囚われました。
もちろん課題として、運用の問題があり、制度やルールも整備途上です。それでもできるかどうかではなく、どう使うかが議論されていました。特にエージェンティックAIについては、その変化が強く、アイデアがあれば試せて効果検証まで持っていけるようになり、以前なら数ヵ月かかっていたことが、もっと短い時間で実現できるようになっています。だからこそ、これから企業に求められるものも変わっていきます。
これまでは、ITのことはIT部門へ、システムのことはベンダーへ、という進め方でも成立していましたが、AIを業務へ適用するということは、単にシステムを導入する話ではなく、業務そのものをどう変えるのかという話です。どこに価値を作り、何を競争力にするかは、自社でなければ決められません。そう考えると、これから内製化の意味が大きく変わると思っています。
内製化といってもシステムをすべて自社開発するという意味ではなく、自社の業務をどう変えたいのかを、自分たちで考えることです。そのためには業務を理解している人と技術を理解している人を結び付ける存在が欠かせません。現場を理解している人、業務を理解している人、データを理解している人、そして技術をどう活用するかを考えられる人。そうした人材や組織の力が、これまで以上に重要になります。
どれだけ優れたAIがあっても、どれだけ優れたロボットがあっても、それをどの業務に適用するのかを決めるのは人です。どのデータを使うのか、どんな成果を目指すのかを決めるのは人です。技術の進化によって、できることは確実に増えました。しかし、その技術を使って何を実現したいのかという問いは、以前より重くなっています。
これから差になるのは技術そのものではなく、自分たちの業務を理解し、自分たちの意思で変革を進められる組織と人材を持てるかどうか。2026年のハノーバーメッセで私が持ち帰ったのは、新しいテクノロジーの知識だけではなく、技術がここまで進化した今、これから本当に重要になるのは、私たちが何を目指すのかを自ら決めることなのだという実感です。
AIをどう使うのか、フィジカルAIをどう活用するのか、ではなく、その技術を使って、私たちは何を実現したいのか。2026年のハノーバーメッセで私が最後に持ち帰ったのは、テクノロジーではなく問いでした。私たちは、どう生きるのか。
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