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マクニカ×ASCII連載 第3回

ハノーバーメッセ2026で見えた変化【前編】 エージェンティックAIとフィジカルAIの現在地

2026年09月07日 11時00分更新

文● 阿部幸太(マクニカ)

提供: マクニカ

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 マクニカ デジタルインダストリー事業部の阿部幸太です。ハノーバーメッセに行く楽しみの一つにホワイトアスパラがあります。旬の時期が2週間と短く、ホワイトアスパラ目当てで旅行する人がいるほどの名物で、お客様をお連れするときも「ホワイトアスパラを食べましょう」と誘うと、「じゃあ行きたい」という方もいらっしゃいます。

 今年もホワイトアスパラを楽しみにしながら「ハノーバーメッセ2026」に行ってきました。今回は、ハノーバーメッセで見えてきたものと、そこから私が考えたことを整理してみたいと思います。今年は例年以上に展示されている技術よりも、その先にある問いが印象に残る展示会でした。

マクニカ デジタルインダストリー事業部 事業部長代理・エバンジェリスト 阿部幸太

 ハノーバーメッセ2026、振り返ります。

ハノーバーメッセは何を映してきたのか

 ここ数年、継続してハノーバーメッセを見てきましたが、2026年はこれまでとは大分違う印象を受けました。振り返ってみると、2024年のハノーバーメッセは脱炭素が大きなテーマでした。バッテリーパスポートをはじめとする環境関連の取り組みが注目を集め、会場全体もその方向を向いていました。また、その前年となる2023年にChatGPTが登場して、生成AIについての展示や議論が始まっていましたが、この時点ではまだ新しい技術として紹介されていただけでした。

 その翌年となる2025年は環境関連が影を薄め、ITとOTの融合をテーマとした展示に変わります。製造業のDXについて語るとき、これまではIT側からの視点が中心になることが多かったのですが、エッジデバイスの性能向上やセンシング技術の進歩によって、実際の製造現場で取得されるデータを活用するための環境が整い始めた結果、これまで理想論として語られることもあったIT/OT連携が、現実的なテーマとして扱われるようになります。デジタルツインをはじめとした取り組みも含め、製造業のDXが本当に進み始めるのではないかという期待感が広がったのが2025年でした。

 そして2026年。去年までの変化からAI一色だったCESと比較して、ハノーバーメッセでは、よりITとOTの融合が地に足のついたユースケース共にみられるのではないかと期待しながら訪れたのですが、実際に会場を見て回ると、展示の中心にあったのはエージェンティックAIでした。もちろんヒューマノイドなどのフィジカルAIの展示も数多くありましたが、蓋をあけてみればCES以上にAIに振り切っている印象を受けました。

 展示会全体の中心となっていた「エージェンティックAI」、大きな期待を集める「フィジカルAI」、これらの技術が実際の業務に近づいたことで、これまで以上に重要性を増した「データ」。2024年が脱炭素、2025年がITとOTの融合と進み、2026年はエージェンティックAIとフィジカルAIが大きなテーマとなりました。

 しかし私が持ち帰ったのは、それらの技術そのものではありませんでした。

2026年はAI一色に塗りつぶされた印象

エージェンティックAIが当たり前になった世界

 2026年のハノーバーメッセを象徴するキーワードを一つ挙げるなら、間違いなくエージェンティックAIです。会場内はエージェンティックAIという言葉を聞かないブースはないほどでした。

 その中で少し変わった確度で注目を集めていたのが、PLC(プログラマブルロジックコントローラー)で利用されるラダー言語を解読してマニュアルを作成し、対話ベースでプログラムの修正を行ってくれる現場寄りのAI活用です。裏側でどこまでの処理が走っているかの深堀は出来ていないですが、シンプルに現場に寄り添い現実の課題を解決する好例と思いました。

 これには、ドイツでもラダーを書ける人が引退しており、新しく採用する人がラダーを覚えることはないという背景があります。現場のAI適応が、人材を採用する上でも重要なポイントになってきていました。

 今まで生成AIを使った業務改善事例やユースケースを作る際、業務をタスク分解して、そのタスクを生成AIで代替して効果検証した上でそれを組み合わせ業務にした場合、一部がAIに置き換わったとして、業務として効率が上がるかという設計と検証が難しかったため、ここ数年は実際に生成AIがどこまで使えるかを証明するための事例やユースケースを出すことが求められていました。

 ここ1年でClaudeが時計の針を一気に進め、エージェンティックAIが登場したことにより業務そのものを置き換えることが可能になったため、その事例とユースケースが急激に増えたことが今年の特徴でした。しかし、下記のように作られたユースケースや事例が氾濫したため、一見して違いがわかりにくいという新たな課題が表出しました。

またAI活用の展示は前述の「事例型」と「ツール型」に大きく分かれていました。

 ツール型はPLMやMES、CADなどあらゆるシステムにAIが機能として追加されていき、類似検索や課題抽出と対策のレコメンデーションやコードの自動生成などあらゆる機能がAIをベースに紹介されていました。この分野の進化は著しいですが、ツールを使っている人に興味が限定され、かつ既に使い込んでいる人ほど既にベンダーからロードマップなど聞いていることが多いので、展示会としての目新しさが少ないのは否めませんでした。

 とはいえ以前なら多くの開発工数や専門知識が必要だったことが、PoCレベルであれば短期間で試せるようになったことは非常に大きな進化です。会場で数多くのユースケースや試行事例が語られていたことでもそれが伝わってきます。「こんなことができる」「こういう業務に使える」というイメージが具体化し、2026年はAIの活用が本格的に加速しています。

 製造業の現場においても、実際の業務の中でどう活用していくのか、という観点から、如何に業務で使える品質を担保するか、運用に耐えられる仕組みをどう構築していくかに論点が移ってきことを肌で感じました。その中でAIを前提とした業務の再設計を継続的に行うための内製ケイパビリティを如何に確保するかが重量な課題として議論されていました。

フィジカルAIは何を変えるのか

 エージェンティックAIと並んで、2026年のハノーバーメッセで大きな注目を集めていたのがフィジカルAIです。会場には数多くのヒューマノイドロボットが展示されていました。

 特にヒューマノイドのダンスは素晴らしく、多くの来場者が足を止めていましたが、ちょっと前までは目新しさのあったロボットのダンスにも見る側のダンス疲れも感じました(踊りがすごいのはわかったけど、で、どう業務に適応するの?)。

フィジカルAIは何をやらせるのかというユースケース側の成熟度がまだ高まっておらず、展示のユースケースでは従来のピッキングがほとんどでした。車体に上半身が人型で2本指のロボットに顔をつけてヒューマノイドと呼ぶ必要があるのかという点は皮肉を交えて疑問を呈する声も散見しました。

 実際の業務で考えると、今の環境/レイアウトそのままで考えるのであれば、車体が通れない、段差があるなどそのまま適応できないケースが想定されるため、二足歩行であれば、現場を変えずに適応できる。また人の作業をベースに学習させることが出来る利点もあるかもしれませんが、振動や搬送物の落下/破損などを考慮すると、インフラとセットで考慮をした上で、キャタピラや4足歩行などの選択肢もあるかも知れません。ロボットアームも5本指である必要性がどこまであるのか?何をどう掴むか、豆腐のように繊細なものを掴む必要があるのか?掴んだ上で方向を動的に変える必要があるのか?など、ここも先に何をやらせたいのかが深まらないとリアリティが出てこないという意見が多かったです。目的が明確になったときは5本よりも6本、8本の方が良いかも知れません。本当に考えるべきなのは人型かどうかではなく、どの業務の何をやらせるのかという議論になっていました。

「何ができるか」から「どう使うか」へ移る途中にある

 今年のハノーバーメッセでは、フィジカルAIによって製造現場がどのように変わるのかを見たいと思っていましたが、この業務をどのように変えるのかというところまでは、まだ十分に語られていませんでした。その意味では、フィジカルAIはまだ発展途上の段階にあるのかもしれません。

 その中で、日本から参加した方々が一様に危機感を感じていたのが、会場のロボットのほとんどが中国製でNVIDIAの技術でトレーニングをした点です。日本として、この分野で付加価値を出していくにはどうすれば良いか。まだユースケースが追いついていないからフィジカルAIはまだ来ないと思って何もしなかったら、取り返しのつかない後れをとってしまわないか……という観点でした。

 技術の進歩そのものは非常に大きく、多くの企業が本気で取り組んでいることも伝わってきました。

 人間を完全に代替するのはまだ難しい。しかし、ロボットが活躍できる領域は確実に存在する。その需要や活用方法がまだ十分に整理されていないことに対する対策として、まずはトライをしようという企業が多かったのは一つ大きな転換点だと思いました。日本の企業として使いこなしを徹底して、実際使う中で何ができて、何ができないのか、できない理由が何なのか。演算能力なのか、センシングなのか、フィードバック速度なのか。使いこなしてわかった課題を分解して技術要素と照らし合わせて、初めてロードマップが見えてくる。そうやりながら、フィジカルAIは少しずつ活用領域を広げていく段階にあるように見えました。

 重要なのはロボットの形ではなく、どの業務を担うかという視点でした。人間そっくりのロボットが普及する未来というよりも、用途ごとに最適化されたさまざまなロボットが増えていく未来。重要なのはロボットの形ではなく、どの業務を担い、どのような価値を生み出すのか。その問いへの答えを探している段階なのだと思います。

 ここまでハノーバーメッセ2026で見てきた、進化した技術の現在地について語りました。次回の後編では、会場で感じた違和感の正体と、ハノーバーメッセが私たちに突きつけていた問いについて考えてみたいと思います。

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  • 角川アスキー総合研究所