「おしゃべりスラミィ」を冒険の相棒に進化させた技術的知見
「ドラクエXの世界観を壊さない」Gemini実装 プロンプトからセキュリティ、サーバー設計まで工夫の数々
2026年08月19日 08時00分更新
“ドラクエの相棒AI”としての振る舞いをどう実装するか
ここからは、プロンプト制御を中心としたエージェント実装の工夫を紹介する。
まずは、スラミィへの「性格の付与」だ。佐久間氏は、「ゲームの世界に入り込んだかのような自然な会話を実現するためには、正しい日本語を返すだけでは不十分。AI自身に『一貫した個性』があり、プレイヤーの個性も理解した上で言葉を交わす必要がある」と語る。
そこでスラミィでは、システムプロンプトでAIの性格を定義。好きな呪文や語尾、背景情報などを予め設定している。また、MBTIを参考にしたゲーム内の性格診断の結果も反映することで、よりプレイヤーに寄り添う対話を実現している。
さらに、会話を重ねるごとに性格が変わる仕組みも実装している。内部的に「親密度」のパラメータを設け、独立したAIが会話内容を評価して経験値として加算していく。例えば、スラミィを怒らせると経験値は入らないが、新しいことを教えるなどして喜ばせると経験値を得られる。この親密度に応じてプロンプトが選択され、最初は他人行儀だった関係性が、やがて「友だち」「相棒」へと発展し、言葉選びやユーザーの呼び方などが変化する様子を再現している。
音声においても、自然なキャラクターボイスを目指してプロンプトで最適化を図っている。「音声生成はGemini Live APIを利用しているが、デフォルトボイスのままだとゲームキャラクターとしては棒読み感が否めなかった。そこで、感情ごとに演技指導のプロンプトを用意した」と佐久間氏。
例えば、喜びを表現する場合は、「明るく弾むように」、疑問を表現する場合は「語尾のイントネーションを調整するように」指示している。演技や技術的な指導をすることは、AI特有のゆらぎへの安定化にもつながっているという。
また要件の中でも、「相棒として振る舞うAI」として重要視されたのが、スラミィ自身から話しかける機能だ。これは特定のタイミングにおいて、裏側でリクエストを代行することによって実現している。例えばバトル勝利時には、「初めてこのボスを倒したので褒めてください」というプロンプトがリクエストされている。
直近の出来事や指示を覚えているのも、相棒として必要な振る舞いだ。スラミィでは、プレイヤーとの会話ログを短期記憶として「AlloyDB Session Service」に保存。直近のログをRAG的に取得し、ユーザーのリクエストと共に送っている。
ただし、リソースの観点で無期限には保存できない。そこで、Agent Runtimeの「MemoryBank」によって、適切なタイミングで重要な情報だけを“長期記憶”の対象として抽出し、保存している。その際に、既に存在する記憶と矛盾がある場合は、新しい記憶を優先するかたちで統合する。
続いては、ゲーム内のテキスト表記ルールを守るための仕組みだ。「読点は空白にする」「1行当たりの文字数」といったUI上の制約に加え、会話の内容に応じてスラミィの表情もコントロールする必要があった。
これらを満たすためにGemini APIを活用しており、生成されたテキストは、空白の挿入や改行処理、感情判定を経た上で、スラミィの表情と共にUIへ表示される。「自然言語処理的な手法も選択肢にあったが、ルールが複雑な中で、プランナーが直接プロンプトで調整できるのがGemini APIの良いところ」(佐久間氏)
また、世界観の遵守において最も重要な役割を果たすのが、セキュリティレイヤーだ。佐久間氏は、「おしゃべりスラミィのようなサービスでは、プレイヤーが何を入力するかが予測できないため、多少のレイテンシを受け入れて、できる限りのセキュリティ対策が必要」と強調する。
スラミィでは主に4つの対策を講じている。1つ目は、スラミィとしての振る舞い方や世界観の遵守を指示する「Safety instructions」。2つ目は、スクウェア・エニックス独自のアルゴリズムである「NG Word Check」。
3つ目は、Gemini APIによるレベルに応じたフィルタリングである「Safety Filter」。そして最後は、プロンプトインジェクションやスラミィとしてふさわしくない応答をサニタイズするGoogle Cloudのセキュリティ機能「Model Armor」だ。
なお、Safety Filterでは最も厳しいレベルを設定する一方で、Model Armorでは、一部でゆるめの設定にとどめている。それは、当初は現実の住所を出力させないように適用していたが、ゲーム内のアストルティアなどの地名も話さなくなってしまったからだという。
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