世界的なメモリの価格高騰が続く中、怒った米国のユーザーたちが訴訟に踏み切った。
米国の個人14人と法人3社が2026年6月25日、半導体大手3社が不当にメモリ(DRAM)の価格を引き上げるカルテルを形成したとして、米国カリフォルニア州北部地区連邦地裁に訴えを起こした。提訴されたのは韓国のサムスン電子、SKハイニックス、米国のマイクロン・テクノロジーの3社とその米国子会社だ。3社は世界のDRAM市場で、およそ9割のシェアを占めている。
原告側は、2022年以降の4年間、3社が協調してメモリを減産した結果、価格がおよそ700%上昇したと主張している。メモリ大手各社は近年、AIのデータセンター向けのメモリ生産に力を入れる一方で、PCなどコンシューマー向けのメモリは減産が続いている。この結果、日本でも2025年の秋ごろと比べて、2026年7月上旬の時点で、メモリの価格は3~4倍に跳ね上がっている。訴状を読む限り、3社が明らかな合意に基づいて減産や価格の引き上げをしたかどうかは不明だが、この訴訟が今後、どう展開するかは気になるところだ。
自作PCの愛好家たちが起こした裁判
この訴訟の原告には中小企業が3社含まれている。いずれも顧客の要望に基づいて、カスタムのPCを組み立ててくれる事業者だという。個人の原告については、PCの自作や、ノートPCのメモリ増強のため、Amazonや小売店から被告企業のメモリを購入した人たちだ。この訴訟の原告はつまり、アスキーの読者層とも重なる、コアなPCユーザーたちと言っていいだろう。
原告らは昨年から続く、メモリ価格の高騰で、個人としては最も大きな影響を受けた人たちだろう。コアなPCユーザーたちが、最近の高止まりを嘆いたり、怒ったりするのは当然だ。これまでメーカーからデスクトップPCを買うよりも、自分でパーツを買ってきて組み立てた方が、安くて高スペックのPCを手に入れることができたが、メモリの高騰でPCの自作にも手を出しづらくなってきた。そうではあっても、集団訴訟まで起こしてしまうのは、訴訟社会の米国らしい動きだ。
AI向けのメモリ増産は「口実」?
近年のメモリ価格の高騰は、爆発的なAIデータセンター向けのメモリ需要の増加が原因だ。エヌビディアのGPUには、HBM(High Bandwidth Memory:高帯域幅メモリ)と呼ばれるメモリが使われる。HBMは、従来のDRAMと比べて3~4倍の面積が必要とされる。しかし、メモリの生産に使える設備の面積は限られている。このため、DRAM大手各社は2024年以降、DDR3やDDR4といったPC向けのメモリを減産して、HBMの増産に踏み切った。
しかし、訴状によれば、原告側は、コンシューマー向けのメモリを減産または撤退し、HBMの生産を強化したというのは、価格釣り上げの「口実」だったと主張している。
原告側は「HBMへの同時的な転換、及び従来型DRAMからの同時的な撤退は、従来型DRAMの供給及び生産量を制限し、価格及びマージンを押し上げるという反競争的効果を除けば、経済的合理性を欠く」と述べている。
2025年12月には、被告の1社であるマイクロン・テクノロジーが、Crucialという、一部の人にはおなじみのメモリのブランドの製造を止め、消費者向けの市場から撤退すると発表している。
AI向けのメモリの需要が高まったが、工場の設備は限られている。そこで、より利益の大きなデータセンター向けのメモリに注力します、というのが、メモリ大手各社の説明だ。
個人向けのメモリ市場も需要は急増
若干解せないのは、メモリ大手各社がやはり需要の高まっている、個人向けのメモリを増産しない点だ。「今後は、企業向けの製品に注力します」という戦略は理解できる。しかし、個人のPCにAIのモデルをインストールして、ローカル環境でAIを使う用途などで、個人向け市場におけるメモリも需要が急増している。大手PCメーカー各社のサイトを見ると、Mac Miniなどを中心に、32ギガ、64ギガ、96ギガといった、これまでは見たことのない大容量のメモリを積んだPCは入手困難であるか、入手できるとしても高すぎて手が出ない。
大手3社が個人向けメモリの生産を縮小または撤退し、企業向けに力を入れる一方で、中国系などの新興メモリメーカーが売上を伸ばしている。
原告側の訴状を読む限り、状況証拠は大量に示されているものの、メモリ大手3社が共謀して価格カルテルを形成したとする明確な証拠は示されていない。3社がカルテルを行ったかどうかは不明だが、やはり、現在のメモリの価格は異常と言っていいだろう。
各社が価格と品質の両面で競争を繰り広げ、消費者が手に入れやすい価格でメモリが売られている状況が健全で望ましい市場であるはずだ。そう考えると、やはり大手3社に挑戦する、第4の勢力が必要なのだろう。現在、大手DRAMメーカーは日本国内には存在しないが、消費者向けのメモリ市場を狙う日本勢は出てこないだろうか。
筆者──小島寛明

1975年生まれ、上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒。2000年に朝日新聞社に入社、社会部記者を経て、2012年より開発コンサルティング会社に勤務し、モザンビークやラテンアメリカ、東北の被災地などで国際協力分野の技術協力プロジェクトや調査に従事した。2017年6月よりフリーランスの記者として活動している。取材のテーマは「テクノロジーと社会」「アフリカと日本」「東北」など。著書に『仮想通貨の新ルール』(ビジネスインサイダージャパン取材班との共著)。
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