Mr.ウォーカー玉置泰紀が厳選! おすすめスポット/アイテムベスト5 第17回
「“カフェ”に集う芸術家―印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまで」展が開催中
【“カフェ”展で絶対に観るべき名画ベスト5】35年ぶりの至宝も来日・約130点が集結! 三菱一号館美術館「“カフェ”に集う芸術家」展が開催中!
2026年06月17日 17時00分更新
没入必至! “カフェ”展だからこその見落とせない名画ベスト5
【第5位】色彩の魔術が誘う、健全で明るい夜の世界《(ポスター作品群)》 作者:ジュール・シェレ
作品の特徴: 赤・黄・青の三色のみの色版を重ね合わせることで表現された、多彩で繊細なグラデーション。
話題性・見どころ: 1881年出版自由法の制定(出版・表現の自由法の制定)による規制緩和を受け、パリの街角にポスターが氾濫した時代。シェレは施設の特徴よりも、明るく開放的な女性たち(シェレット)を中心に描くことで、夜の世界の健康的な魅力を伝えた。商業デザインの力で大衆を惹きつけた天才の視覚効果は必見だ。
【第4位】都市の娯楽の象徴となったノスタルジーの風車《ムーラン・ド・ラ・ギャレット》周辺の作品群 作者:ルノワール、ゴッホ、ロートレックなど
作品の特徴: 同じ場所を描きながらも、画家によって全く異なる表情を見せるモンマルトルの象徴。
話題性・見どころ: もとは粉挽きの風車だった場所が、産業化とともに屋外の舞踏場へと姿を変えた〈ムーラン・ド・ラ・ギャレット〉。ルノワールが祝祭の光景として描いたこの場所を、ゴッホ(《モンマルトルの風車》1886年、油彩、カンヴァス、石橋財団アーティゾン美術館蔵)やロートレック、ユトリロらが、群衆の喧騒や人間の孤独といった全く異なる視点から描き出している点に注目したい。
あわせて、多くの芸術家が当時の都市の熱気を描いていることにも注目したい。一例を挙げれば、ロートレックが描いた、イギリスの「シンプソン・チェーン社」が開発した新型の自転車チェーン(シンプソン・レバー・チェーン)をフランスで売り出すための広告ポスターだ。
1890年代のパリは空前の自転車ブームで、各メーカーが技術を競い合っていた。シンプソン社は「自社のチェーンを使えば、テコの原理でより強いパワーを生み出せる」と大々的にアピールしており、そのパリ支店のプロモーションとしてロートレックに制作が依頼された。
実はロートレック自身、大のスポーツファンであり、特に自転車レースの熱狂的な観客として競技場に足繁く通っていた。当時の流行であったダンス・ホールや自転車レースを描いた作品からは、19世紀後半の都市に暮らす人たちの息遣いが聞こえてくるだろう。
【第3位】生まれ変わった近代都市パリの息吹《ポン=ヌフ》 作者:カミーユ・ピサロ
作品の特徴: 歷史や神話ではなく、「今を生きる人々」と活気に満ちた都市の気配を捉えた眼差し。
話題性・見どころ: オスマン男爵による大規模なパリ大改造によって、街は全く新しい姿へと変貌した。ピサロやルノワールといった印象派の画家たちは、整備された大通りを行き交う人々を、ボードレールの言う「現代性」の体現としてキャンバスに定着させた。近代都市の鼓動が聞こえてくるような作品だ。
【第2位】近代都市の享楽と孤独をえぐる鋭い視線《舞台裏―青のシンフォニー》 作者:ジャン=ルイ・フォラン
ジャン=ルイ・フォラン 『舞台裏一青のシンフォニー』(1900~1923年頃)。油彩、板。公益財団法人大原芸術財団大原美術館(Ohara Museum of Art, Ohara Art Foundation, Kurashiki) 所蔵
作品の特徴: 華やかな娯楽空間の裏側に潜む、視線と関係性のドラマ。
話題性・見どころ: 踊り子たちを見つめるシルクハットの男性が描かれた本作。ドガの影響を受け、劇場やカフェを主題に探求したフォランの視点は、近代都市特有の享楽とその裏にある生々しい人間模様(孤独や欲望)を浮き彫りにしている。この系譜が後のロートレックへと受け継がれていく歴史的転換点としても重要だ。
【第1位】35年ぶりに上陸した、バルセロナが誇る至宝《マドレーヌ》 作者:ラモン・カザス(1892年)所蔵:ムンサラット美術館 / 技法:油彩、カンヴァス
作品の特徴: バルセロナの近代美術(ムダルニズマ)を牽引した画家が描く、美しさと哀愁が同居する世紀末の空気感。
話題性・見どころ: 「カタルーニャのロートレック」とも呼ばれたカザスの代表作であり、なんと35年ぶりに日本へやってくる超貴重な作品だ。本作はカザスが〈ムーラン・ド・ラ・ギャレット〉に間借りしていた時期に制作された。特に注目したいのはその構図で、彼女の視線の先にある賑やかな店内が、背後の鏡に映し出される光景として描かれている。鏡の中に都市の賑わいを封じ込めた構図は、印象派の都市生活表現の系譜を示す重要なポイントとなっている。
バルセロナに誕生した〈クアトラ・ガッツ〉は、カフェであると同時に、19世紀末のスペインを代表する芸術家集団の名前でもあった。その筆頭画家ラモン・カザスはグラフィック・デザイナーの側面も持ち、カタルーニャの芸術運動「ムダルニズマ」を広めたことでも知られている。スペインのムンサラット美術館が所蔵するカザス作《マドレーヌ》は、19世紀芸術の中心地だったモンマルトルの“カフェ”文化を伝える重要な作品のひとつ。バルセロナから約1時間半の山奥、カトリックの聖地ムンサラット修道院が擁する美術館から、同館の誇るマドンナが35年ぶりに来日する貴重な機会となる。
芸術家グループ「クアトラ・ガッツ(Quatre Gatz、4匹の猫)」は、カザス、ルシニョル、ロメウ、ウトリーリョの4人によって結成された。彼らは1896 年、パリの前衛的なキャバレー〈シャ・ノワール〉に倣い、グループと同名のカフェを開店。芸術家や知識人が集う文化拠点として人気を博した。
店内では絵画やポスターの展示、演劇や音楽など多彩な芸術活動が展開され、バルセロナの現代美術運動「ムダルニズマ」を牽引した。アール・ヌーヴォーの影響を受けたデザインや装飾も特徴で、建築から工芸まで幅広い分野に刺激を与えた。ピカソも若き日にこのカフェに通い、後の創作に繋がる大きな影響を受けている。
以下は、会場の説明より。
ラモン・カザス 『マドレーヌ』
画面中央の赤いブラウスをまとってテーブルに腰かける女性は、通称マドレーヌ、本名はルイーズ・オルタンス・ボワギヨーム。彼女はモンマルトルの<ムーラン・ド・ラ・ガレット)に出入りしていた実在の人物。本作のほか、ロートレックやサンティアゴ・ルシニョルの作品にもモデルとして登場する。
マドレーヌは壁際に一人で座り、足先は画面右へ、上半身はテーブルに傾き、顔は正面を向きながらも視線は画面左へと流れる。この姿勢は、静止した座像に内在的な回転運動をほのめかし、観者の視線を画面内に循環させる効果を生んでいる。
テーブル上のゴブレットに注がれたワイン(と思われる)や、彼女の右手の車は、19世紀末パリのカフェ文化を象徴する細部と言える。同時に当時としてはいささか挑発的であった「カフェで一人、酒と煙草を嗜む女性」という主題を明確に提示している。
それは公共空間における「尊敬/不徳」の境界が可視的には曖昧であった状況において、しばしば売春(あるいはdemi-monde(半社交界])を想起させうる記号として機能していたからだ。本作に漂う、誰かを待っているかのような仕草は、群衆のなかの孤独や疎外感という主題をも浮かび上がらせ、それはボードレールが論じ、マネや印象派の画家たちが繰り返し描いた近代都市の感性と響き合っている。
【番外編】マドレーヌと並ぶ目玉! 日本初公開のルシニョル作品
《マドレーヌ》の35年ぶり来日と並んで本展の大きな目玉となるのが、サンティアゴ・ルシニョルによる《カフェ・デ・ザンコエラン》。日本初公開となる本作は、19世紀末のパリを舞台に、異郷の地で結束したカタルーニャ出身の芸術家たちの濃密なネットワークと、当時の都市娯楽文化の見事な交差点を見せてくれる。
左端で断ち切られた人物や、飲食する男女、斜めに連なるテーブルに、ドガやロートレックの影響が感じられる
以下は会場の説明より。
サンティアゴ・ルシニョル 『カフェ・デ・ザンコエラン』
本作は、19世紀末パリのカフェを舞台に、カタルーニャ出身の芸術家ネットワークが確かに存在したことと、都市娯楽文化との交点を描き出す作品。ルシニョルは1889年のパリ万博期に渡仏し、カザスらとモンマルトルに集い異郷の共同体を形成しました。題名の「アンコエラン(支離滅裂)」は、諧謔的・反アカデミックな運動であり、展覧会や仮装舞踏会を通じて1880年代から90年代にかけて広く展開した。
少なくとも1886年から1892年には、ピガールに近いフォンテーヌ通りに〈カフェ・デ・ザンコエラン〉を掲げる店が存在したことが知られている。本作は実在の場を写すものではなく、当時のカフェの雰囲気を再構成した架空の場面として理解される。
画面にはシルクハットのカザスが座り、カザスに隠れる位置に批評家カルレス・コスタ、後景の新聞を読む男性はウトリリョ、その隣で壁に背を向けて座る彫刻家のエンリク・クララソが描かれている。点在するテーブルや酒瓶、天井から吊るされた鉄製の飾り、壁の展示作品、外光の差す開口部などは、夜の社交と昼の都市生活の対比を示している。さらに、友人たちの肖像を群像のなかに散りばめたことは、制作と鑑賞を“遊び”として成立させるアンコエランが掲げたシニカルな態度を共有する企てと親和的だ。
【開催概要】
「“カフェ”に集う芸術家 ―印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまで」展
会期: 2026年6月13日(土)~ 2026年9月23日(水・祝) ※8月4日以降一部展示替えあり
会場: 三菱一号館美術館
開館時間: 10:00~18:00(祝日除く金曜日、第2水曜日、7/25(土)、9/19(土)~9/23(水・祝)は20:00まで)※入館は閉館30分前まで
休館日: 祝日・振休を除く月曜日(※ただしトークフリーデーの6/29、7/27、8/31は開館)
観覧料(当日): 一般 2,300円 / 大学生 1,300円 / 高校生 1,000円 / 中学生以下無料
公式サイト:https://mimt.jp/ex_sp/cafe/
編集後記:「対話の喪失」に、カフェの熱気で寄り添う
日々の忙しさに追われ、顔を突き合わせて激論を交わしたり、一つのテーマについて仲間と語り明かしたりする機会が減ってしまった現代人。SNSの短いテキストだけで繋がった気になり、一種の“対話ロス”に陥っている人は少なくないだろう。
そんな私たちの前に、19世紀の熱狂の舞台「カフェ」が丸の内に現れる。マネやピサロが捉えた新しい都市の姿も、ロートレックが見つめた夜の哀愁も、すべてはグラスの音と人々の熱気の中で産声を上げたものだ。
「カフェ」とは単なる喉を潤す場所ではなく、異なる才能がぶつかり合い、新しい時代を切り拓くイノベーションの揺りかごだった。
この世はせわしない。けれど、すばらしい。美術館の静謐な空間で130点の名画と向き合った後は、ぜひ近くのカフェに立ち寄り、あの時代の芸術家たちのように、誰かと熱く語り合ってみてはいかがだろうか。
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