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Mr.ウォーカー玉置泰紀が厳選! おすすめスポット/アイテムベスト5 第17回

「“カフェ”に集う芸術家―印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまで」展が開催中

【“カフェ”展で絶対に観るべき名画ベスト5】35年ぶりの至宝も来日・約130点が集結! 三菱一号館美術館「“カフェ”に集う芸術家」展が開催中!

2026年06月17日 17時00分更新

文● 玉置泰紀(エリアLOVEウォーカー総編集長)

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左:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック『アリスティド・ブリュアン』(1893年)。グワッシュ、酒彩、紙。ひろしま美術館所蔵。
右:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック『アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレーにて』(1893年)。リトグラフ。三菱一号館美術館所蔵。

名画が誘う、19世紀カフェ文化の熱気

 東京・丸の内の三菱一号館美術館にて、「“カフェ”に集う芸術家―印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまで」展(2026年6月13日〜9月23日)が開幕した。

 本展は、国内屈指の印象派および近代絵画コレクションを誇る「三菱一号館美術館」と「ひろしま美術館」が初めて共同で企画した特別な展覧会だ。両館の珠玉のコレクションを中心に、マネやルノワール、ゴッホ、ピカソといった巨匠たちの名作約130点が集結している。

 本記事の冒頭の写真で並んでいる2つの絵画は、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの手によるものだ。ロートレックはアリスティド・ブリュアンから依頼を受け、キャバレー宣伝用のポスターを制作した。

 左側の作品はそのポスターのための油彩の習作。トレードマークの鍔広帽子と赤いマフラーを身に着け、ニヒルな笑みを浮かべるブリュアンの姿は、皮肉屋の彼の性格やパフォーマンスを連想させる。右側の、油彩画を経て完成したポスターは、衣装の黒とマフラーと鮮やかな赤のコントラストが目を引く仕上がりとなっている。

 ではどうして、ロートレックほどの有名な芸術家が、キャバレーの宣伝用ポスターを手がけたのだろうか。

 なぜなら、19世紀後半のパリやバルセロナにおいて、キャバレーやカフェは単なるくつろぎの場ではなかった。新たな芸術が生まれる「最前線の基地」だったのだ。

芸術家たちはなぜ、カフェやキャバレーに集まったのか

 現代のカフェがくつろぎの場だとすれば、当時のカフェやキャバレー、ダンスホールは、飲食や娯楽を楽しむだけではなく、新たな芸術が生まれる場所であった。それは、サロン(官展)からの脱却と共に、芸術が群衆に溶け込む新しい時代の始まりでもあった。

 1897年、カタルーニャ出身の画家カザスはモンマルトルの有名店〈シャ・ノワール(黒猫)〉に倣って、バルセロナに〈クアトラ・ガッツ(4匹の猫)〉を開店。若きピカソも通った。そして、ピカソは“カフェ“を舞台にロートレックやカザスが描いた悦楽や孤独に多大な影響を受けて、「青の時代」へと向かっていったのだ。

 19世紀後半のパリ、若きモネやルノワールたちはマネを慕ってモンマルトルの〈カフェ・ゲルボワ〉に集まり、それが引き金となって、後に印象主義が生まれたことはよく知られている。総合芸術の実験場でもあったキャバレー〈シャ・ノワール(黒猫)〉では、画家リヴィエールによる洗練された影絵芝居が人気を博し、平面的なシルエットや色彩は、ボナールやヴァロットンら未来のナビ派たちに影響を与えた。

テオフィル・アレクサンドル・スタンラン『シャ・ノワール巡業公演』(1896年)。リトグラフ。京都工芸繊維大学美術工芸資料(AN. 4829)。

 1881年にオープンしたシャ・ノワールは、『シャ・ノワール』誌の創刊、影絵芝居の導入、ポスターにスタンランらを使うなど、19世紀末の視覚芸術の進展に大きな役割を担った。なかでも1885年頃からはじまる影絵芝居は、のちの映画やアニメーションの原型ともいわれ、当時から大きな話題を呼んだ。その反響に目を付けたサリスは1892年、影絵をフランス各地で上映しはじめた。その巡業のためのポスターを制作したのがスタンランで、大胆な構図と色彩のポスターは話題を呼び、シャ・ノワールの店自体の視覚的アイコンとして定着している。

 またロートレックは〈ムーラン・ルージュ〉や〈カフェ・コンセール〉の常連となり、彼がダンサーや歌手たちを描いたポスターは一世を風靡した。一方、彼と同じ画塾で学んだゴッホは歓楽街の熱狂とは距離を保ちながらも、モンマルトルで花開いた芸術潮流に身を置いていた。パリ大改造を経た当時の“カフェ”では、芸術家や文化人の議論が活発に展開され、新しい芸術表現がつぎつぎと発表された。

 異質なものが混じり合うことで生まれる摩擦や新たな発想こそ、豊かな芸術の創造になくてはならないものだったのだ。本展では、教科書では伝えきれない重要なアートシーンに光をあて、19世紀の“カフェ”が芸術にもたらしたものを再考する。

三菱一号館美術館の“カフェ”展が「人生を豊かにする知的冒険」になる3つのポイント

1. 両館のコレクションが融合! 巨匠たちの熱量を空間ごと追体験できる

 印象派や近代絵画の質・量ともに圧倒的な両館のコレクションが交わることで、サロンの権威から飛び出してカフェに集った画家たちのエネルギーが、カフェという空間軸を通してより立体的に浮かび上がる。

2. 絵画だけじゃない! 版画やポスターに見るメディアのハック

 特権階級のものだった芸術が、ポスターやリトグラフという複製技術を通じて一気に大衆の街角へ溢れ出した時代。芸術家たちがどのように商業メディアを活用し、人々の視覚をハックしていったのか、そのクリエイティブな戦略を読み解く面白さがある。

3. パリからバルセロナへ。都市を横断するセレンディピティの快感

 1881年開店のパリのキャバレー〈シャ・ノワール〉に影響を受け、バルセロナではカザス、ルシニョル、ロメウ、ウトリーリョの4人が共同で1897年に〈クアトラ・ガッツ(4匹の猫)〉を開店した(1903年まで営業)。文化の波が国境を越えて連鎖し、若きピカソの道を拓いていくという、歴史の横断的なつながりを一つの会場で体感できる。

次ページ: “カフェ”展だからこその見落とせない名画ベスト5はこれだ!
 

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