【JSTnews4月号掲載】特別企画 第7回 輝く女性研究者賞(ジュンアシダ賞) 受賞者対談
自分の興味を追求し、社会貢献も可能に。これまでの道のりとこれからの課題
2026年04月10日 12時00分更新
中野知香(左)。九州大学 応用力学研究所 海洋プラスチック研究センター 助教/原祥子(右)。東京科学大学 脳神経機能外科学分野 講師(キャリアアップ※) ※大学における男女共同参画及びダイバーシティの推進に関わる教員
女性研究者の活躍推進の一環として、持続的な社会と未来に貢献する優れた研究などを行っている女性研究者を表彰する「輝く女性研究者賞(ジュンアシダ賞)」。2025年に開催された第7回の同賞受賞者である、九州大学の中野知香助教と東京科学大学の原祥子講師(キャリアアップ)に、女性研究者としてお互いの立場や課題についてお話しいただいた。
海洋プラスチックともやもや病
仕事の見直しで出会ったテーマ
中野 私は、海洋マイクロプラスチックの動態を研究しています。具体的には海のどのような場所に、どんなタイミングでマイクロプラスチックが集まるのか、それらがどう生物に影響を与えるのかの分析です。今はタイに拠点を置いて、タイランド湾で調査をしています。
原 世界に役立つ研究で、素晴らしいですね。小学2年生の娘が「プラスチックモンスターをやっつけよう! きみが地球のためにできること」(高田秀重監修)という本を読んでいて、海のプラスチックごみに興味を持っています。
中野 ありがとうございます。原先生の研究分野である「もやもや病」、実は初めて病名を聞きました。
原 脳の血管が細くなって、もやもやと異常な血管が発生することから付いた名前で、国際的にも「Moyamoya disease」と呼ばれています。そこから手足の力が抜ける発作、脳梗塞、脳出血を起こすこともありますが、症状がまったくない人もいます。今のところ、もやもや病の原因はわかっておらず、治療法も確立していません。もやもや病に関わり始めた当初は磁気共鳴画像法(MRI)による検査方法の研究をしていましたが、最近は患者さんのデータを集めて、起きやすい症状や患者さんが生活する上で何に注意をすればいいのかといった研究もしています。
中野 どうして、もやもや病を研究しようと思ったのですか?
原 もやもや病の患者さんを多く診ている病院に勤務したのがきっかけです。高校生の頃から脳の研究をしたいと思っており、大学時代には基礎研究もやりましたが、私は目の前にいる患者さんのためにできることを模索することに研究の意義を感じるタイプでした。結局、基礎研究ではなく臨床に進んで研究も続ける道を選びました。中野先生が今の研究を始めたきっかけは何ですか?
中野 大学院では海洋物理学を学び、博士号取得後は日本気象協会に勤めていました。仕事は楽しかったけれど、改めてこの先の人生を考えてみて、もう一度研究にチャレンジしたいなと思ったんです。そんな時に、新しく海洋プラスチックごみの研究が始まるからと、大学時代の恩師からポスドク(博士研究員)のポジションを紹介いただいたのがきっかけです。高校生の時から国際的な仕事をしたいと思っていたのも大きいです。
研究と家庭を両立する秘訣
何かを選んで何かを捨てる
中野 原先生は、ダイバーシティ推進の活動にも携わっていますよね。私は、ダイバーシティについてはあまり考えずにここまで来たので、そういう活動を続けられてきた先輩方がいるんだということに、今回初めて気付きました。女性研究者を取り巻く環境は、だいぶ変わってきていると思いますか?
原 最近は女性の研究者も増えましたが、私が研究者になりたての頃は周りにほとんどいなかったですね。私は早い時期に結婚、出産したので、当時は今より保育園に入れるのが大変で、それには苦労しました。
中野 私は2025年8月に日本人研究者と結婚して、タイで一緒に暮らしています。現在妊娠中で(取材当時)、このままタイで出産、子育てをする予定です。公立の幼稚園は言葉の壁があるし、タイではベビーシッターを雇うことも多いので、今回の受賞でいただいた賞金で研究室に保育施設を作って、ベビーシッターさんに来てもらえたらと、検討しているところです。原先生は、研究と家事・育児をどのように両立されてきましたか?
原 研究室で子どもを見られるのはいいですね。わが家では夫と分担していて、子どもにもできることがあれば積極的にお手伝いしてもらっています。1回10円でお風呂掃除とか。喜んでやってくれていますよ。
中野 わが家は家事分担の話はあまりしていません。夫は年下で、研究者のキャリアをスタートさせたばかり。今はとにかく実験をして、論文を書かないといけない時期で、授業をやって研究をやってとなると、家事は私がやろうという感じです。子どもが生まれて、キャリアのステージが変わってきたら、その都度話し合えばいいのかなと思っています。
原 それでいいと思います。あまりきっちり決めると疲れてしまうから。研究者は、男女を問わず若手の時に業績を作っておくことは重要ですよね。私は、一番の若手の時に出産・育児をしたので、当直回数も手術の症例数も他の人より少なくなってしまいました。そこで、私が取った対策は「やることを絞る」です。研究に力を注ぎ、手がける手術を絞り、研究を強みとした結果、今のポストに就くことができました。女性に限りませんが、仕事を続けていく上で、何かを選ぶ代わりに何かを捨てるというのも大切なことだと思います。
中野 妊娠中は船に乗っての調査ができないんです。ただ、研究室ではお互いに協力し合う体制があり、時には別の人が代わりに調査に行ってくれるような良い関係ができているため、大変助かっています。
研究者への道も女性の選択肢
気負わずにまずチャレンジを
中野 理系に進む女性の人数を増やしたいという話をよく聞きますが、そのためには、小さい頃から理系に興味を持ってもらうことが大切だと思っています。タイでは国の施策として、国内全土から小中学生を招待して科学技術を紹介するイベントがあるんです。
原 それはいいですね。私の娘は「将来は研究者になる」と言っていて、科学の本を図書館でたくさん借りています。そうやって生まれた興味や関心の芽を大切に育てていくことが大事だと思います。私が聞いたことがあるのは、親に「研究者になったら結婚できない」と言われたとか。女性が理系の研究者になることはごく普通のことで、1つの選択肢だというのを示していけるようになればいいと思います。
中野 今の高校生、大学生にアドバイスするとしたら「その時やりたいと思ったことをやってみる」ですね。研究者を目指したけれど、途中で別の道に行ったとしても、新たに選んだ道が正解ならそれでいいし、それまでの経験は無駄ではなく、きっと何かの役に立ちます。
原 本当にそうですね。私のように、基礎研究をやってみたけれど向いてなかったという例もありますし、やってみて違っていたら方向転換すればいいんですよ。でも、研究者って自身の興味を追求してお給料がもらえますし、研究内容によっては社会貢献もできる幸せな仕事です。今回の対談が、これから研究者を目指そうという若い世代の後押しになればうれしいですね。研究に興味がある人は、気負わずにまずチャレンジしてみたらいいと思います。
長女(試験勉強)、次女(漢字ドリル)とこたつで書類仕事。写真提供:原さん
海洋プラスチックSATREPS 日タイ合同調査 日本チーム参加者(左から東京海洋大学 荒川教授、九州大学 アルフォンソ准教授、中野さん、九州大学 ジャンダン助教、東京海洋大学 内田教授)。 写真提供:中野さん
第8回 輝く女性研究者賞(ジュンアシダ賞) 応募受付中
募集期間:2026年4月1日(水)~6月30日(火)日本時間正午まで
応募要項など詳細はウェブページをご覧ください。
https://www.jst.go.jp/diversity/about/award/
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