このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

HPEが3年かけて構築した“後付けではない”ソブリン基盤とは

「日本は“真のソブリン”を実現する素地がある」 HPE幹部が語るデジタル主権の本質

2026年03月26日 09時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 地政学的リスクへの意識が高まる中、「ソブリンクラウド」「ソブリンAI」への注目が高まっている。だがその定義は曖昧で、提供する側のソリューションも一律に比較できない。

 3年前からソブリンに取り組んできたというHewlett Packard Enterprise(HPE)のフィル・モットラム(Phil Mottram、エグゼクティブバイスプレジデント 兼 最高営業責任者を務める)氏は、「多くのソブリンシステムは“後付け”に過ぎない」と警鐘を鳴らす。

 2026年2月に東京で開催された「HPE Discover More AI Tokyo 2026」に合わせ、モットラム氏とバイスプレジデント 兼 グローバルセールス担当CTOを務めるスコット・ウィースト(Scott Wiest)氏に、デジタル主権の本質とHPEの対応について話を聞いた。

(左)HPE エグゼクティブバイスプレジデント 兼 最高営業責任者 フィル・モットラム氏 (右)バイスプレジデント 兼 グローバルセールス担当CTO スコット・ウィースト氏

3年をかけて構築した“disconnected(非接続)基盤”

 かつては政府機関を想起させたソブリンだが、近年では企業ニーズも高まっている。「欧州や日本、カナダ、オーストラリア――。どの地域でも、企業がソブリンを要件として挙げるようになった。政治情勢の変化が、企業の意思決定にも影響を及ぼし始めている」とモットラム氏は語る。

 HPEがソブリン対応に本腰を入れたのは約3年前だ。それまで同社のプラットフォームは、クラウド接続を前提とした設計が主流だった。「業界全体がクラウド接続による管理の簡便さを追求してきた。だがソブリンの文脈では、そうした利便性よりもデータの統制が優先される」とウィースト氏。そこで同社が約3年かけて構築したのが、“disconnected(非接続)”を前提とした製品群だ。

 エンタープライズ向けには、「HPE Private Cloud Enterprise」によるエアギャップ型のプライベートクラウドに加えて、NVIDIAと共同開発した「HPE Private Cloud AI」を用意する。数分でAIワークロードを立ち上げられるターンキー型のシステムで、エアギャップオプションを備え、セキュリティ要件の厳しい組織でも導入できる。モットラム氏は、「通常、AIワークロードの立ち上げには2~3か月かかるが、事前構成済みのシステムによりわずか数分と大幅に短縮できる」と補足する。

NVIDIAとの共同開発による「HPE Private Cloud AI」。小規模から大規模まで幅広いラインアップをそろえる

 政府機関や大規模なソブリン実装向けには、NVIDIAと共同開発した「Sovereign AI factory」を提供。「セキュリティ・コンプライアンス・コントロール」の3つの柱を設計段階から組み込んだソリューションであり、NVIDIA Blackwell Ultra GPUやNVIDIA AIエンタープライズソフトウェア、HPEのインテリジェントコントロールプレーン、ストレージ、サービスを統合したフルスタック構成をとる。データ主権を確保した環境で、AIのトレーニングから推論までを一貫して運用可能だ。

 ストレージ面では、2025年10月、「HPE Alletra Storage MP X10000」が外部ネットワークへのアクセスを制限した環境でも運用できるようになった。ネットワーク管理のAruba Central、クラウド管理基盤のGreenLake、マルチクラウド管理のMorpheusも同様であり、AIだけでなく既存のITインフラ全体をソブリン対応できる体制が整っている。「相当な時間と開発投資が必要だった。今では、世界中のどの市場のソブリン要件にも対応できる」(ウィースト氏)。

 加えて、同社が世界各国の要件対応で基準とするのがNIST(米国立標準技術研究所)フレームワークだという。「NISTは世界共通の基盤。これを満たせば、各国の要件は細部の調整で対応できる」とウィースト氏。事例として、米国防情報システム局(DISA)は、Private Cloud Enterpriseを採用し、オンプレミスのエアギャップ管理を備えたNIST準拠のプライベートクラウド環境を構築している。また、英国のネオクラウド事業社Carbon3.aiとは、HPE Private Cloud AIで、国ごとのコンプライアンス要件に対応したAI環境を運用している。

AIの先にある“80%の守るべきもの”

 最近では、主権をAIにまで拡大したソブリンAIという言葉も聞かれるようになった。ただし、ウィースト氏は、「ソブリンAIを語りたがるのはAIが最も注目されているから。しかしソブリンクラウドで動くワークロードのうち、AIが占めるのは20%程度を占めるにすぎない。残りの80%は、政府や企業が日常的に動かす業務システム。AIに対応していない部分についても、データの外部流出を防ぎサイバーレジリエンスを確保した基盤が必要だ」と強調する。

 HPEのソブリン対応製品群はAI専用ではない。Private Cloud AIを補完するPrivate Cloud Enterpriseは、ベアメタル、コンテナ、仮想化といった汎用ワークロードをカバーするエアギャップ対応プラットフォームであり、両者はひとつの共通コントロールプレーンで管理される。脱VMwareの選択肢として、ワークロード移行により仮想化コストを最大90%削減できるVM Essentialsも取り揃える。

Private Cloud Enterpriseにおけるエアギャップ型のオプション(2025年6月の日本ヒューレット・パッカード説明会資料より)

 このようなポートフォリオにより、「顧客のニーズに柔軟にできる」とウィースト氏。「主権の定義はゴムのように収縮する。最初の交渉では『すべてのIP(知的財産)をここに置き、一切外に出さない』と言う。しかし現実に向き合うと、それは不可能だとわかる。だから我々は、顧客それぞれの要件に合わせて境界線を一緒に決めていく」という。

 例えば政府向けの実装では、市民サービス・防衛・機密情報という3つのテナントが互いに分離した多層構造が求められる。いわば“ソブリンの中のソブリン”が必要になるわけだ。それは、Morpheusによるマルチテナントのエンクレーブ(分離)構成と、それを単一の管理レイヤーで統合する仕組みにより実現される。

 モットラム氏は、「企業がAIの活用を始める時、最初の課題はモデルそのものではなくデータにある」と付け加える。「HPE社内でのAI検証でも、最初の焦点はどのデータをモデルで使うか、そして、そのデータをどう守るかだった。この問いはすべての企業に共通する」(モットラム氏)

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

アクセスランキング

  1. 1位

    TECH

    訓練だとわかっていても「緊張で脇汗をかいた」 LINEヤフー、初のランサムウェア訓練からの学び

  2. 2位

    ITトピック

    若手が言わない“本音の退職理由”上位は/「データ停止は景気後退よりも企業の脅威」6割/クライアントに告げずAI活用するフリーランス、ほか

  3. 3位

    ビジネス・開発

    最悪のシナリオは「フィジカルAI」による基幹産業の衰退 日本の勝ち筋は、“同期技術”と“ドメイン知識”

  4. 4位

    Team Leaders

    ファイル名が命名規則に合っているかの自動チェック、Power Automateのフローで実現しよう

  5. 5位

    TECH

    糖尿病超早期を採血なしで検出、予防へ! 代謝や臓器のつながりに着目した予防法開発

  6. 6位

    データセンター

    液冷技術の最先端が集うイノベーションラボ「DRIL」、印西のデータセンターに現わる

  7. 7位

    ビジネス

    廃校がAIの心臓部に!? 地方の遊休施設を「AIデータセンター」に生まれ変わらせるハイレゾの挑戦がアツいぞ

  8. 8位

    TECH

    “GPUなし”ノートPCで動くLLMで、ローカルAIエージェントを自作する

  9. 9位

    Team Leaders

    バックオフィス業務もAIに“丸投げ” マネーフォワードが「Cowork」機能を2026年7月に投入へ

  10. 10位

    TECH

    合成ゴムが及ばない天然ゴムの高性能のメカニズムを、現象発見から100年後に解明

集計期間:
2026年04月09日~2026年04月15日
  • 角川アスキー総合研究所