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新清士の「メタバース・プレゼンス」 第147回

ゲーム開発開始から3年、AIは“必須”になった──Steam新作「Exelio」の舞台裏

2026年03月09日 07時00分更新

文● 新清士

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AIは便利だが、決して万能ではない

 3年間かけて開発し、リリースしてみて感じることは、生成AIのサポートを受けつつ作ったものの、まだまだAIを通じての表現も確認もできないことが多いということです。

 当初は、ボイスをつけない予定でしたが、AI音声を実験的に入れてみたところ、非常に効果が大きかったために追加を決めました。しかし、音声は入れることにしたものの、最終的にはプロの声優による音声収録に切り替えました。これは現状のAIでは、演技力が遠く及ばないとの判断からです。実際、プロの演技はすばらしいものでした。

 また、AIを使ったデバッグも検討しましたが、ゲームの性質上、あまりにゲーム内でユーザーができる選択肢が多すぎるため、現状の技術では不可能であるという結論に達しました。

 重要なのが、アクションゲームとしての本質的な部分を詰めるのに、AIはほとんど役に立たない点です。例えば、移動、ダッシュやジャンプの気持ちよさ、攻撃時のコンボなど、完全に人間の感覚に依存しており、AIでは何が気持ち良いのかを、少なくとも現時点ではまったく判定できません。

 ローンチ後に頂いたフィードバックを見ると、開発チームの中では詰めていたつもりでしたが、まだまだ多くの改善点があることを痛感させられています。さらにアップデートを続けて、様々な点を磨いていく必要性を感じています。

△調整を繰り返したダッシュとジャンプ(開発中のもの。リリース版は調整が入っています)

 SteamDBによると、2025年にSteamで販売されたゲームは2万本にも及びます。多くのインディゲームが溢れていますが、超競争市場でもあります。そのうち21.5%にあたる7818本が生成AI利用というラベルをつけていました。その後、2026年1月には30.8%と、生成AI利用の割合は増加し続けています。また、1月にはValveは、AI開示基準を変更し、『プレイヤーが消費するAI生成コンテンツ』に焦点を絞る形に切り替えました。これは、ユーザーに直接的に目に触れる所にAI生成物を使っている場合に申請を求める形で、開発途中に使った「裏方の効率化ツール」、例えば、プログラミングといった開発の効率を向上させる場合には、申請は不要という立場へと大きく変更をしてきました。

 また、任天堂、ソニー、マイクロソフトのゲーム機、アップル、グーグルといったスマートフォン向けストアなど、他のゲームを抱えるプラットフォームは、現在のところ、生成AIを利用していることを理由に、そのゲームのリリースを認めないというプラットフォームはでてきていません。

 もちろん、欧米圏を中心に反発も出ていますが、一方でSteamのユーザーの3~4割を占める中国圏では生成AIを使ったゲームが急激に定着しているという実情もあり、市場によりユーザーの受容については、違いが出てきています。

 ただ、筆者の開発チームの場合、はっきり言えることは、法律を適切に守ることを大前提として、より品質を引き上げるために、ゲーム開発に生成AI利用をする範囲を今後も模索し、広げていくだろうということです。

 AIはとても万能のツールとは程遠い存在です。AIでちょっとしたデモを作るぐらいはすぐできるようになりましたが、すべてのゲーム開発を担うのは、まだまだ不可能な状態が続くでしょう。正直できないことが多すぎて、日々イライラします。

 しかし、この3年間を通じて感じるのは、それでも使える部分をしっかりと見極めることで、インディゲームであっても、今まで到達できなかったところまでたどり着ける可能性が大きく広がってきています。

 なんのために、生成AIを使うのか。それは、ゲームを遊んでいただくユーザーにとって、楽しいと感じていただく満足度の高いゲームを作り上げるためです。その原則を忘れず、今後も「Exelio-エグゼリオ」のアップデートを続けていきます。

△「Exelio-エグゼリオ」予告編

■関連サイト

 

筆者紹介:新清士(しんきよし)

1970年生まれ。株式会社AI Frog Interactive代表。デジタルハリウッド大学大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。現在は、新作のインディゲームの開発をしている。著書に『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。

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