メルマガはこちらから

PAGE
TOP

「老い」は治さなくてもいい。長寿テックが“できること”を取り戻す

CES2026で見えた“身体のアップデート”②

 長寿テックと聞くと、「老化を止める」「若返る」といった分かりやすい未来像を思い浮かべがちだ。しかしCES 2026の会場で目立っていたのは、その方向とは少し違うアプローチだった。

 老いを無理に治そうとしなくてもいい。その代わりに、老いによって失われつつある感覚や生活上の“できること”を、技術で取り戻す。そんな現実的で実装志向の長寿テックが存在感を増していた。

鏡に立つだけで「体調の変化」に気づく

 まずは、AIミラーを展示していたNuraLogixだ。同社の「Longevity Mirror」は、鏡の前に立って顔を映すだけで、健康状態の兆しを推定する。内蔵カメラが顔の皮膚のすぐ下を流れる血管の血流を30秒間撮影し、その微細な変化を解析する仕組みだ。

 特徴的なのは、データの裏付けだ。数十万人規模の実際の医療データをもとに、ユーザーの映像と似た血流パターンを持つ患者データを照合し、リスクを推定する。ただし、「診断」を下すわけではなく、あくまで日常の中での変化に気づくための鏡として設計されている。「病院に行くほどではないが、何となく不調」という状態を可視化する装置と言える。

視力を治さず、知覚を再構成する

 続いて、長寿テックの方向性を示していたのが、ロービジョン(弱視)の人向けデバイスを開発するeSightだ。視野の中心が見えにくくなる症状を持つ人に対し、eSightは「視力を元に戻す」ことを目指さない。

 4Kカメラで捉えた映像をリアルタイムで処理し、メガネに搭載されたOLEDディスプレイに投影。AIと独自アルゴリズムによって、コントラスト強調や色調整、鮮明化を瞬時に行う。ズーム機能も備え、遠くにいる人の顔を認識できる場面もあった。

 人の目そのものを治療するのではなく、「見え方を再構成すればいい」という発想は、デジタル時代ならではのアプローチだ。

長寿テックは「延命」から「再接続」へ

 CES 2026で見えた長寿テックは、若返りや不老を語らなかった。その代わりに、「自分の体調に気づく」、「生活の中で見える世界を取り戻す」といった、具体的な変化を提示していた。老いは避けられない。しかし、老いによって断ち切られた身体と生活の接点は、技術によって再接続できる。 長寿テックは、SF的な未来ではなく、今日と明日の生活に移りつつある。

神村優介

シェイプウィン株式会社 代表取締役。
山口県光市生まれ。徳山高専卒業。NHK高専ロボコン出場経験を生かしたロボット教育ビジネスで経済産業省後援のビジネスプランコンテスト中国地区大会で最優秀賞取得。株式会社セガトイズに入社し、家庭用プラネタリウムの商品をプロデュース・マーケティングし、年間15万個出荷の大ヒットを記録。その後、PR&デジタルマーケティングを支援するシェイプウィン株式会社を24歳で設立。国内企業ではChatWorkやスマレジ、TEMONAなどのスタートアップを担当。2022年からカナダ・バンクーバーに移住し、現地企業で世界14ヵ国250社以上のクライアントに日米市場向けPRマーケティング支援をしている。

合わせて読みたい編集者オススメ記事