メルマガはこちらから

PAGE
TOP

なぜ支援が空回りするのか? エコシステムに足りないのは“言語化”だった

北島×ガチ鈴木の最近何してた?

TechDayの熱気からJIDへ。今回はディープテック・スタートアップ支援のモヤモヤや気づきを編集長・北島(右)と副編集長・ガチ鈴木(左)がゆるっと語ります。

TechDay振り返り:リアルイベントが示す確かな手応え

北島:今回は「ASCII STARTUP TechDay 2025」の振り返りから始めるけど、やっぱりリアルはいい。記事だけでは得られない手応えがあるね。イベントや紙のタブロイドはアナログな手段に戻ってしまう感覚はあるけど、それでも「見える」ものが違う。今回のTechDayをまとめたガチさん的にはどうだった?

ガチ:今回はディープテックに関連する1Dayカンファレンスとしてコンテンツを作って展示を集めたんですが、会場では来場者がとにかく熱心で、ブースで長い時間話し込む姿がすごく目立ちました。出展者や登壇者からも「想像以上に深い話ができた」と言われましたね。技術の細かいところまで踏み込んだ会話になって、こちらが戸惑うほど。

北島:過去に開催してきたIoT H/W BIZ DAYやJIDでもそういう声はよく聞くよね。かつてアスキーを読んでいた層が、今は企業や官公庁、アカデミアなど堅い職業になっていても、新たなテクノロジーへの好奇心をそのまま持ち続けている。アスキーの先人たちに感謝したいところ。

ガチ:TechDayは、今回の空気感をしっかり次につなげたいですね。

TechDay 2025展示会場の様子

お金だけでは解決しない人材の不足

関連記事:日本のディープテックはどこへ向かうのか――大学発・人材・標準化──全5セッションが描いた“日本の課題と可能性”(https://ascii.jp/elem/000/004/360/4360915/)

北島:馬田先生の講演でもあったけど、そもそもディープテック・スタートアップの母数が少ない。日本の研究の基礎力から考えると、もっと出てもいいはずなんだよね。

ガチ:さらに言えば、資金があってもビジネス人材がいないから活かせていないという実態もある。メンターはたくさんいるのに「効いていない」。支援側の質も問われています。

北島:いろいろな支援メニューが増えても、どこをどうマッチングするかが難しい。特に大学発ベンチャーは、何を誰に相談すればいいかの道筋が本当にわかりづらい。ここが噛み合わないと前に進まないよね。

ガチ:JIDやTechDayのようなイベントをやっていると、「この人とこの人なら話が通じそうだな」という空気が現場でわかりますよね。記事とは異なる“偶然のマッチング”が生まれる。単に人数を集めるんじゃなくて、噛み合う人たちを接続していくことが大事だと改めて感じました。

求められる人材像の具体化が足りていない

ガチ:そんな中で、今日は「スタートアップエコシステムサミット2025」に参加してきたんですが、セッションでは、どんな人が求められていて、どんな動きをするべきか、求められる人材像を非常に具体的に示していて、とても参考になりました。とくにディープテックはまだまだ不確実な分野なので、ストーリーを熱く語れるリーダー、複数の専門領域をカバーできる人材、どの方向にスケールさせていくかを見極めながら進めれる手法など。ここは従来のスタートアップ的なところと同様です。今回のTechDayは大枠の議論にとどまっていたので、次回はもっと踏み込んだ話を発信していきたいですね。

MVP株式会社 代表取締役 武田泉穂氏、Telexistence株式会社 代表取締役CEO 富岡仁氏、東京大学エッジキャピタルパートナーズ 取締役・パートナー 宇佐美篤氏

北島:例えば、VC発のカンパニークリエーションは、自分たちの方針に沿って、必要な人材や役割を組み合わせていくよね。だから投資先との噛み合わせも比較的コントロールしやすい。でも、普通の大学発ベンチャーは、そこがほとんど手当されていない。

 そのような“型”がデザインされないまま立ち上がるから、どの段階でどんな役割が必要なのかもイメージしづらいんだよね。結果として、想定していた現場とズレが生まれてしまう。

ガチ:そうですね。セッションで特に共感したのが、「大学発研究者がCEOになって、CFOやCIPOを形だけそろえてもダメ。立ち上げ段階はCEOがやるしかない」という話でした。

北島:スタートアップがどの段階にいるかによって、必要な役割はぜんぜん違う。PMFというかマーケットすら不明な段階では、基本的にCEOとCTOが兼務しつつ、知財や法務も考えつつ外部にも頼る。その後、フェーズが進んで狙うマーケットの話が出てきて、初めて役員体制が意味を持ってくる。

ガチ:今はどんなスキルセットが必要で、どんな順番で人を入れるべきかの“地図”がないんですよね。だからこそ、どういう人材像が求められるのかをエコシステム側で言語化していくことがすごく重要。

北島:そこが曖昧だと、せっかくの支援制度も活きないまま終わっちゃう。このあたりも丁寧に言語化していくのが僕らの宿題だね。

抽象的なスローガンやデータだけでは前に進まない。支援が噛み合うためには、具体的な地図が必要

オールジャンルのエコシステムイベント「JID 2026」3月3日開催

北島:TechDayが終わったばかりだけど、3月のJIDの準備にも本腰を入れないと。今回は浜松町(東京都立産業貿易センター浜松町館 3F・4F)に会場を移して開催します。地域、グローバルをつなぎ、課題解決をキーワードにした“オールジャンル”のエコシステムイベントにしていきたい。

ガチ:オールジャンルではあるんですが、その中でも未来が一気に加速する領域を押さえたいですね。例えば宇宙は、従来の「探索」から「どう暮らすか」というフェーズに入っている。また、フィジカルAIなど、現実世界と結びついた新しい潮流もどんどん出てきています。

 環境領域では、気候変動だけでなく食料危機まで含めて、次の10年で社会の姿が変わるテーマが目白押しです。そして量子。これは一番ギャップが大きい領域で、ずっと未来の話だと思われていたのが、実は意外と早いんじゃないか、と。

今回のセッションと展示の見どころは?

北島:JIDは「スタートアップが海外に出てどう攻めるのか・いけるのか」という部分に、かなり力を入れています。スタートアップだけではなく、大企業、行政、VC、さらに海外のエコシステムともつながる場として、グローバル展開の“動き方”を共有するセッションをしっかり用意しています。

ガチ:そうした海外展開の動線づくりとあわせて、ピッチセッションもさらに充実させています。JIDでは毎年、編集部イチオシのスタートアップピッチを組んでいるので、今年も楽しみにしていてほしいです。

北島:さらに特許庁の「IP BASE AWARD」と、世界最大級のスタートアップコンテスト「XTC Japan 2026」の日本予選を会場内で開催します。IP BASE AWARDでは“優れた知財戦略”が評価された受賞者によるピッチが聞けますし、XTCの方は“グローバル市場を本気で目指す”スタートアップが登壇するので、どちらも見るだけで学びが多いと思います。技術の面白さと実践的な戦略が一度に見られるラインナップになっています。

ガチ:展示について言えば、地域系の出展も毎年入っています。埼玉、横浜、福岡といった自治体や支援機関が、それぞれの地域で生まれているスタートアップやDXの取り組みを持ち寄ってくれる予定です。

 特に製造業が多い地域では、コンサル丸投げのDXではなく、地元の企業が本当に力を発揮できるような取り組みが増えてきているので、その動きもしっかり紹介したいですね。地域のスタートアップや若い経営者の挑戦などはJIDならではの見どころになると思っています。

北島:正直、開催までは毎回ドキドキなんだよね。会場が開く直前まで胃が痛い(笑)。

ガチ:出張先やイベントでお会いした方にはカードをお渡ししますので、気軽に声をかけてもらえれば。3月3日のJID、ぜひ会場でお待ちしています。

 

「JID 2026 by ASCII STARTUP」開催概要

  【開催日】2026年3月3日(火)10:00~18:00
  【会 場】東京都立産業貿易センター浜松町館(3F・4F)
  【主 催】ASCII STARTUP
  【共同開催】XTC JAPAN 2026(XTC JAPAN)
  【同時開催】第7回「IP BASE AWARD」スタートアップファイナリストピッチ&両部門授賞式(特許庁IP BASE)
  【公式サイト】https://jid-ascii.com/

■関連サイト