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欧州随一のビジネススクールHEC Parisの強みと世界最大級Station Fで加速する日本スタートアップの挑戦

 JETROでは起業家、スタートアップの海外派遣プログラム「J-StarX」を展開している。その中でも世界最大級のインキュベーション施設「Station F」に長期滞在するプログラム「Europe Long-term Program (France)」では、欧州一のビジネススクール「HEC Paris」の支援を受けている。今回、同プログラムを担当し、Station Fにも滞在するIncubateur HEC Parisの新井彬太郎氏に同プログラムの特徴から誕生から8年を経たStation F、またフランス・パリのエコシステムについて話を聞いた。

 HEC Parisは、フランスのビジネススクールであり、フィナンシャルタイムズなどの評価で現在ヨーロッパナンバーワンに位置づけられている。同校はスタートアップのアクセラレーション、インキュベーション、アントレプレナーシップ分野において多くの実績を持つ。現在、HECは「Innovation & Entrepreneurship Institute」を設立しており、その傘下にThe Social Entrepreneurship Center、Deep Tech Center、Incubation & Acceleration Centerと3つの専門センターを設けている。とくにIncubation & Acceleration Centerは現在、HECの中核ともいえ、約100社弱のスタートアップがStation Fでインキュベーションやアクセラレーションを受けている。

 インキュベーションを受けている企業は国内外から集まっており、その約40%が国際企業で構成されている。インド、韓国、日本、モロッコ、アメリカ、レバノンなど、フランスと歴史的に交流の深い国々からの参加が多い。HECのプログラムの核となる強みは、各スタートアップのKPI(重要業績評価指標)に合わせてカスタマイズされたリソースを提供することにある。JETROのJ-StarXプログラムは、HECのインターナショナルプログラムのひとつとして、Incubation & Acceleration Centerが運営を担っている。

 日本は2023年度にJ-StarXプログラムを開始。当初は「ゲストプログラム」と呼ばれる2週間のショートプログラムで、マーケットの学習やフランス市場への進出機会を探ることが目的であった。このゲストプログラムからは、知的障害のある作家たちが生み出すアートを軸に、ライセンスビジネスを展開するヘラルボニーが成功事例として輩出された。ヘラルボニーは2週間のプログラムを経てフランス市場へ進出することを決断し、2024年にはViva TechnologyのLVMHアワードの部門賞を日本で初めて受賞し、LVMHプログラムに参加するという成功パスを辿った。これはHECが語るストーリーの中で、成功例としても頻繁に引用されるという。同社はStation Fにも滞在している。

 そのStation Fは「世界最大級のスタートアップキャンパス」として、フードコートのようなオープンな空間が特徴であり、そして強みとしている。「繋がり感のある」レイアウトで、誰が今いるのかがわかりやすいつくりになっている。この施設には1000社以上のスタートアップが入居し、トップティアのパートナー、起業家、ファンドから成るエコシステムとネットワークに気軽にアクセスが可能だ。年間10億ユーロ以上の資金調達が行なわれ、30以上の支援プログラムが実施されている。

 たとえばGoogle、LVMH、Metaといった世界有数のトップ企業が集中して拠点を構えており、スタートアップの成長を多角的に支援している。最近では、サッカーチームのパリ・サンジェルマン(PSG Labs)も入居し、スポーツテックやヘルステック、マーケティングテクノロジーをもつスタートアップをターゲットに、観戦体験の向上から選手の管理まで多岐にわたるソリューションをもつ企業と共創を狙う。

 Station Fでは、入居する起業家、大企業の各プログラムのプログラム担当者たちの活発な交流が促進される環境が整備されている。すべての入居者はSlackを通じてアクセス可能であり、企業やセクターでフィルターをかけて、会いたいスタートアップと自由につながることができる。企業とスタートアップのマッチングや紹介が日々、行なわれている。またキャンパス内では多マッチングやネットワーク形成を目的とした、さまざまなイベントも開催している。

 2011年ごろの「La French Tech(フレンチテック)」の提唱開始以来、海外企業家に向けても、4年間のビザ供与などの政策でフランスへの魅力を高めてきた。政府だけでなく、フランスの通信王で資産家のXavier Niel氏は私財を投じて、Station Fを設立し、エコシステムの活性化につなげた。政府、大学、研究機関、大企業、スタートアップが一体となった「エコシステム」がStation Fでは成立しており、日本を含む多くの国々からベンチマークの対象となっている。

 新井氏はフランスのスタートアップシーンのトレンドは変化しつつあると語る。かつてはCESでの展示にみられるようにハードウェア系のスタートアップが多かったが、最近ではロレアルなどの大手企業が採択するスタートアップを見ても、ESGレポートやAIを活用したラグジュアリーマーケティングソリューションなど、ソフトウェア系の企業が増加傾向にある。そこで日本企業がフランスで成功を収めるためには、やはり模倣されにくいハードウェア技術や特許につながりやすい独自の技術を持っていることが強みとなるという。ヘルスケアやクライメートテックといった「マストハブ」な課題を解決できるような、明確なペインを解消するテクノロジーを持つ企業に海外進出してほしいとする。

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