概念設計公開で『人工太陽』に現実味。日本発「FAST」のどこがすごいのか?
「夢物語」から「組み上げる工学」へ。核融合実現への空気を変える
日本の核融合プロジェクト「FAST」が、2024年11月の立ち上げから1年で概念設計報告書(CDR)を公開した。これにより必要な部品の精度や素材が一気に明確化し、大学・企業・スタートアップが同じ地図で動けるようになった。長く「夢物語」だった核融合が、ついに産業として動き出す。
改めて核融合エネルギーとは?
核融合とは、太陽が熱と光を生み出している仕組みを、地球上で再現しようというエネルギーのこと。太陽の中心では、水素同士がくっついてヘリウムになり、そのときのエネルギーが私たちのもとに届く。これを人工的にコントロールして発電しようというのが核融合発電である。
原子力発電(核分裂)と違って高レベル放射性廃棄物がほとんど出ず、燃料となる水素も海水から取り出せる。つまり「原料にも廃棄物にも困らない」、まさに夢のエネルギーだ。
とはいえ実現はめちゃくちゃ難しく、長年「絵空事」扱いされてきた。その象徴が、世界最大の核融合プロジェクト「ITER(イーター)」だ。1989年に始まったにもかかわらず、設計や調整だけで何十年もかかっている。当時の研究者はほぼ引退し、期待していた若者も今や高齢者。こうした長すぎる開発期間が、「核融合は夢物語」というイメージを強めてしまった。
とにかく早いFASTの動き
この停滞ムードを一気に塗り替えようとしているのが、日本の核融合ベンチャーを中心に動き出したFAST(Fusion Advanced Small Tokamak)プロジェクトだ。目標は「2030年代に実証炉から電力を取り出すこと」。これまでの核融合開発からすると、かなり攻めたタイムラインである。
名前の通り、重視すべきはスピードだ。民間主導のFASTは、2024年11月の立ち上げから1年で概念設計仕様書(CDR)をまとめ上げた。これを可能にしたのが、立ち上げ当初から明確に構築された協業体制だ。
核融合炉の加熱・冷却技術で世界的な実績を持つ京都フュージョニアリング株式会社、FAST推進のために新たに設立されたStarlight Engine株式会社(代表は京都フュージョニアリングの世古氏が兼任)、そして国内の大学や大手企業が部品レベルで連携し、最短ルートで実証炉を組み上げていく──これがFASTのスタイルだ。
FASTが採用しているトカマク方式とは?
核融合を成立させるには、1億度を超える超高温プラズマを閉じ込め続けなければならない。そのために使われるのが「トカマク」と呼ばれる装置で、ドーナツ状の空間にプラズマを磁場で浮かせて閉じ込める仕組みになっている。
ただし、トカマクは構造的に巨大化しやすい。ITERは実験炉にもかかわらず直径・高さともに30メートル級になってしまっていた。
FASTの「低アスペクト比トカマク」に期待したい理由
そこでFASTは、トカマクの中でも「低アスペクト比型」と呼ばれる方式を採用した。簡単に言えば、ドーナツの穴が小さめのタイプだ。同じ直径なら穴が小さいほど、より多くのプラズマを詰め込める。
この構造のおかげで、装置そのものをぐっとコンパクトにでき、建設コストも開発期間も大幅に抑えられる。しかも、日本国内の工場レベルでも製造できるスケールに収まるという。
巨大すぎて実験レベルに留まっていたITER方式とは異なり、産業として量産・運用できるサイズ感に落とし込める点こそ、FASTの大きな魅力だ。
核融合で詰まるのは「産業化」
ただし核融合の難所は、こうした物理的ハードルだけではない。核融合炉を実際に製造し、運用するためには、産業として成立させるための工学的なハードルが非常に大きい。
核融合炉は、超伝導コイル、中性子に耐える材料、真空容器の精密構造、1億度を扱う加熱・冷却装置など、専門分野の異なる企業がパーツを分担して作る巨大な複合システムだ。全体設計が固まっていなければ、メーカーは「どんな精度で作ればいいのか」「どの材料を選ぶべきか」といった判断ができず、プロジェクト自体が産業として動かない。
CDR公開で産業界は動き出すか
そこで今回公開されたFASTの概念設計報告書(CDR)が重要な役割を果たす。この発表では、「安全確保の基本方針」と「サイト要件」に関する文書が一般向けにも公開されている。
設計方針の一端が共有されたことで、大学や企業、スタートアップが同じ基準で動けるようになり、国内サプライチェーンの構築が一気に進みやすくなる。また、設計の全体像が見えることで、投資家にとってもプロジェクトの“現実味”が判断しやすくなる。
今回のCDR公開は、日本の核融合産業が動き出すための「はじまりのサイン」と言っていいだろう。人工太陽がいよいよ現実味を帯びてきた。






























