ドイツに学ぶ「製造業×ディープテック」の伸ばし方 日本が見落としてきた支援の構造
ASCII STARTUP TechDay2025事前インタビュー:JST 研究開発戦略センター 澤田朋子氏
欧州の大学発スタートアップは、なぜ着実に成果を上げているのか。「ASCII STARTUP TechDay 2025」のセッション「研究からビジネスへつなぐ欧州の最新手法〜日本の大学発エコシステムに足りないものは?~」(セッションの概要はこちら)では、フランス、ドイツ、北欧の事例から日本が学ぶべきヒントを議論する。登壇者のひとり、ドイツの科学技術政策に詳しい澤田朋子氏に、欧州の最新動向と、日本が見落としがちな「構造の違い」を伺った。
――普段はどんな活動をされていますか?
日本の大学を出て務めた後に、ドイツのミュンヘン大学で政治学を勉強しました。帰国後はウェブローカライズや検索エンジン最適化の仕事を立ち上げて、10年ほど続けていました。そのあと科学技術振興機構に入りました。ドイツでの経験を活かしながら、イノベーション政策の調査研究をしています。ドイツを中心に、ドイツ語圏のスイス・オーストリアも周辺として見ています。
――以前に澤田さんが書かれたドイツの大学発スタートアップの報告書を拝読し、大学の技術移転の仕組みなど、日本よりも進んでいるように感じました。
ドイツでは1998年からスタートアップ支援プログラムが始まっています。そこから25年以上、連邦政府の経済省が所管しながら続けており、小さなプログラムを足したり引いたりしながら進化してきました。生き残り率も高く、一定の評価を得ています。それに加えて、各州でも独自の支援がなされており、国と地域の両輪で支えている点が特徴です。
例えば、連邦政府の「EXIST」プログラムからは、後にユニコーン企業となった例も生まれています。ミュンヘン工科大学発のCelonis SEは、学生時代のプロジェクトをきっかけに創業し、EXIST起業奨学金を受けて事業化しました。プロセス解析ソフトウェアを手がけ、2021年には評価額が10億ドルに達しています。
一方、カールスルーエ工科大学(KIT)発のIneratec GmbHは、EXIST技術移転プログラムの支援を受けて2016年に設立された企業です。合成燃料の化学プラントを手がけ、2018年にGerman Founder Prizeを受賞。グリーンテック分野では政府系金融機関の融資を受けやすい傾向があり、政策的にも重点分野となっています。
――最近も現地調査に行かれたそうですが、どんな動きがありましたか?
前回の報告書の調査をしたのは6~7年前です。その後コロナ禍もあって状況が変わっているので、今回、改めて現地調査をしてきました。スタートアップの数は順調に増えていて、10年前に比べると大学発だけでも3倍になっています。ただ、ドイツの場合は移民が多く、学生数も増えているため、学生1万人あたりの起業数は微増にとどまっています。
――なぜ思ったほど起業が伸びていないのでしょうか?
コロナの直前までドイツは非常に景気が良かったので、大学を出て就職先がないという状況がなかったことが大きいです。特に自然科学・工学の博士号を取った人は、かなり良いサラリーでさまざまな企業に行ける選択肢があります。研究を続けたい人はそのまま進学し、企業でも好条件で受け入れられていたので、起業へのモチベーションがそれほど高くなかったのではと分析されています。
――直近ではどのような取り組みが行われていますか?
経済省のプログラムの中で、特に注目したいのが2021年から始まった5年間のモデルプロジェクトです。ドイツ国内の4カ所(ベルリン、ミュンヘン、ハンブルク、ダルムシュタット)のAIスタートアップ拠点を採択して、5年間運営し、一番良かったところを残すという仕組みです。AIという一つの技術領域に特化したエコシステムを作る試みは、とても興味深いと思っています。
――成果として、どのような変化がありましたか?
最終的に5年のプロジェクトの中で、ベルリンとミュンヘンが生き残り、合併して「AIネーション」としてスタートアップ拠点ができました。ベルリンはソフトウェアやアプリケーションに強みがあり、ミュンヘンはモノづくりに強い。これを組み合わせることで、AIを推進する仕組みを作ろうとしています。とてもよく考えられた政策で、うまくいけば日本の参考になると思います。
――日本のスタートアップ政策と比べて、どこに違いがあるのでしょうか?
日本では全国各地でエコシステムの数が増える傾向にありますが、似たものが各地にばらばらとあるよりも、うまくいっているものを残して合体し、強化する方向性が重要だと思います。ドイツでは「選択と集中」がうまく機能しています。最初は1カ所を残すつもりだったのかもしれませんが、最終的に2つの拠点を吸収合併する形をとったのも興味深いです。結果を見ながら柔軟に構成を変えていく考え方は、日本にとっても示唆があると思います。
――ドイツと日本の共通点としては、やはり製造業も気になります。支援政策の面で、参考になる取り組みはありますか?
新政権のもとで新しい科学技術政策が出ており、製造業を引き続き重視する方針です。インダストリー4.0は、当初は工場のスマート化が中心でしたが、それはかなり実現されています。コロナによって生産が合理化され、技術革新だけでなく社会的な需要でイノベーションが起こる良い例になりました。一方で、AIを使った生産やサプライチェーン全体でのリアルタイムなデータ連携までは至っていません。まだ課題は多いですが、日本とも共通点が多いと感じます。
――当日はどんな話をされる予定ですか?
政策の話をしますが、最終的にはスタートアップを大きくするには産業界の力が必要です。大学やスタートアップ拠点で手厚い支援を受けてきた“育ちのいいスタートアップ”を、産業界がどう受け入れるのか。あるいはどうすれば受け入れやすくなるのか。そういったことを考えるセッションになると、アクセラレーションやインキュベーションをしている人たちにとっても大きなフィードバックになると思います。国などの支援で育てるところまでは頑張るから、産業界でスタートアップが活きる場を共に盛り上げて欲しい、というメッセージを出せればと思っています。

澤田 朋子(サワダ・トモコ)氏
国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター STI基盤ユニットフェロー。2000年にミュンヘン大学政治学部大学院修了(国際政治学専攻)。帰国後はIT系ベンチャー企業でウェブサイトローカライズ、ウェブマーケティング事業に従事。2023年より現職。ドイツの科学技術・イノベーション政策専門。ドイツ、スイス、オーストリアなど独語圏の科学技術・イノベーション政策を調査。欧州における「研究から事業化」モデルの比較研究に詳しい。
2025年11月17日開催のディープテック・スタートアップエコシステムのカンファレンス「ASCII STARTUP TechDay 2025」、15時半開始セッション「研究からビジネスへつなぐ欧州の最新手法〜日本の大学発エコシステムに足りないものは?~」にて、JSTの澤田氏にドイツの大学発技術、研究の産業移転に関する政策、エコシステムについて、お話いただきます。無料参加チケットは以下からお申し込みください。
同セッションの概要はこちらから
「ASCII STARTUP TechDay 2025」開催概要
▼ 参加方法:事前登録制(下記よりお申し込みください)▼
チケット申し込みサイト(peatix)
【開催日時】2025年11月17日(月) 13:00~18:00
【会場】浅草橋ヒューリックホール&カンファレンス
【主催】ASCII STARTUP(株式会社角川アスキー総合研究所)
【入場方法】事前登録制(入場無料)
18:00~ アフターパーティーチケット(有料)
【協賛】MASP(Michinoku Academia Startup Platform)
【協力】インクルージョン・ジャパン株式会社、関西スタートアップアカデミア・コアリション(KSAC)、一般社団法人スタートアップエコシステム協会、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)、東北大学、フランス貿易投資庁-ビジネスフランス(Business France)、Beyond Next Ventures株式会社、CIC、HSFC<エイチフォース>北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク、Incubate Fund、Monozukuri Ventures、Peatix Japan株式会社、Platform for All Regions of Kyushu & Okinawa for Startup-ecosystem(PARKS)、QBキャピタル合同会社 TECH HUB YOKOHAMA(横浜市)、Untrod Capital Japan株式会社
【公式サイト】https://jid-ascii.com/techday/
※企業のブース出展は公式サイトからお申込みいただけます。(先着30社)






























