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最新ユーザー事例探求 第65回

研究開発部門は「リサーチツール」エージェントで文献調査を効率化

Microsoft 365 Copilotの“利用率98%” 全社展開した参天製薬「生成AI活用の現在地」

2025年10月21日 08時00分更新

文● 大河原克行 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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研究開発部門はAIエージェントで文書関連業務を効率化

 研究開発部門においては、既に改善効果が表れているという。

 参天製薬の主要開発部門となるのが、奈良県生駒市の奈良研究開発センターだ。同センターでは、現場の研究者とIT部門が連携して、「DXタスクフォース」を設置。データやAIの利活用を推進してきた経緯がある。

 同社のDigital & IT本部 Global Digital Innovation部 Digital Solutionチーム 生成AIプロダクトマネージャーの大東達也氏は、「研究部門では、文献調査や技術情報の収集・分析、規制や社内情報の検索など、業務の30%を“文書関連作業”が占めている。私も研究部門にいた際に、こんなに文書を作るのかとびっくりした覚えがある」と語る。これらの業務を、Microsoft 365 Copilotで効率化し、研究者が本来行うべき創造的な仕事に集中できる環境づくりを進めた。

参天製薬 Digital & IT本部 Global Digital Innovation部 Digital Solutionチーム 生成AIプロダクトマネージャーの大東達也氏

 2024年10月に、約80人のすべての研究員にMicrosoft 365 Copilotを導入。議事録やメールなどはCopilotで要約して共有するなど、生成AIの利用を前提とした仕事のやりとりを始めた。ここでもやはり、98%の利用率を維持している。「特殊なフォーマットで文書を作成しなくてはならない場合があり、その点では改善が必要だった。また、Microsoft 365 Copilotの標準機能では対応できない領域は、AzureやCopilot Studioを用いたPoCを実施している」と大東氏。

 他にも、Microsoft 365 Copilotでは、社内情報のすべてを取りに行くため、検索精度に限界が生じる場面もあった。ただ、「SharePointエージェント」が登場したことで、検索対象を分離することが可能になり、「研究者の体感では、50%の精度が90%まで高まり、日常的に利用できる水準にになった」(大東氏)という。

 今後は、社内にある大量の紙のデータもデジタル化して、SharePointに集約し、AIがアクセスできるデータを拡充していく。さらに、紙の書類に多く含まれる図表などの非構造化データのデジタル化にも取り組むという。

 さらに、2025年6月に追加された、業務に特化した初の推論エージェントである「リサーチツール」により、論文などの文献調査も大幅に効率化された。従来の半分以下の時間で、目的の情報を得られるようになったという。

 「リサーチツールが登場する前は、RAGでの対応を検討していたが、それが不要になった。また、推論モデルにより、研究者の思考を助ける相棒としての役割も果たしてくれる。セキュリティやデータ連携においても安心して利用できるため、研究者には積極的な利用を促している」(大東氏)。

 Microsoft 365 Copilotは、利用者へのトレーニングや特別な設定、セキュリティ対策などを必要としなかった点も強調された。大東氏は、「研究者が使い慣れているMicrosoft 365がベースなため、トレーニングや設定などが不要で、IT部門も新たな価値創出に時間と工数を費やせた」と語った。

研究開発領域でのMicrosoft 365 Copilotの活用事例

今後は、市民開発・特定業務に特化したAIエージェント開発も

 2025年度の後半からは第3段階に踏み出す予定だ。社内データやシステムと連携させた生成AIサービスを構築すると共に、市民開発と組み合わせたAIエージェントの実装を本格化する。現在、各部門で、AIエージェントの開発やPoCが進んでいるところだ。

 武末氏は、「既存の生成AIを、社内データやシステムと安全につなげることで、汎用AIでは得られない企業固有の文脈に沿った高精度な回答を得られるようになる。さらに、AIエージェントによる自律的な自動化や、市民開発によるAIの民主化にもつなげたい」と語る。

 そして、第4段階では、特定業務に最適化したAIモデルやAIエージェントを開発するほか、他社との連携による外部サービスも導入して、専門業務の自動化と精度向上を実現する考えだ。

 「すでに、一部のPoCでは足がかりとなる取り組みも始まり、どのモデルが最適かを見極めながら導入を図っていく。ナレッジの継承や規制対応を支援しながら、専門業務のプロセスを革新していく」(武末氏)。

 中期経営計画に連動する形で導入が進む生成AIサービス。特にMicrosoft 365 Copilotが、98%という高い利用率で活用されていることは、参天製薬のAI戦略の現在地を象徴している。経営と現場が一体となって生成AI活用を促進し、それが成果につながっている好例といえるだろう。

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