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“日本発”のPLATEAUを海外に展開、見えてきた優位性と課題とは

インドネシア、タイの都市開発、3D都市モデルのユースケース作りまで支援するパスコ

特集
Project PLATEAU by MLIT

提供: 株式会社パスコ

 都市デジタルツインの実現を目指し、国土交通省がさまざまなプレイヤーと連携して推進する「Project PLATEAU(プロジェクト・プラトー)」。今年度もPLATEAUを活用したサービス/アプリ/コンテンツ作品コンテスト「PLATEAU AWARD 2025」において、幅広い作品を募集している。賞金総額は200万円となっている。

 本特集ではPLATEAU AWARD 2025の協賛社とともに、PLATEAUに携わる人々が、その先にどんな未来を思い描いているのかを探っていく。

 Project PLATEAUに初年度(2020年度)から参画し、空間情報や測量データの提供などで3D都市モデルの整備と活用に協力してきた、航空測量会社の株式会社パスコ(以下、パスコ)。そのパスコは昨年から、“日本発”のPLATEAUのノウハウや成功事例を海外に展開し、新興諸国の「都市DX」を支援し始めている。

 PLATEAUの海外展開を通じて見えてきた、PLATEAUの優位性や可能性、さらに海外における課題とはどんなものか。海外展開に現場で携わる、パスコの4氏に話をうかがった。聞き手は角川アスキー総合研究所の遠藤諭だ。

(左上から右に)パスコ 中央事業部 空間情報コンサルタント室 DX推進課 課長の兼子隆右氏、同課 主任技師の宇野哲生氏、同課 片岡茅悠氏、同社 海外事業部 営業部 営業一課の森下功大氏

日本で実績と知見が蓄積されたPLATEAUを海外に展開

――(アスキー遠藤)PLATEAUはこれまで、国内の都市を対象に取り組まれてきたわけですが、パスコさんではそれを海外にも展開しているとうかがって興味を持ちました。PLATEAUの海外展開は、どのような経緯で始まったのでしょうか。

森下氏:そもそもパスコは、古くから海外でもODA(政府開発援助)案件を中心に、航空測量や衛星画像データを活用した地理空間情報の整備支援を手がけています。現地法人を置くフィリピン、インドネシア、タイをはじめとするアジア諸国や、アフリカの国々などで事業を展開してきました。

パスコでは、航空写真測量だけではなく、人工衛星、計測車両(MMS)、UAV(ドローン)など幅広い測量技術を有している

 その一方、近年は新興国においても、3D都市モデルを活用した「都市DX」を進めようという機運が高まっています。急速な発展によってさまざまな都市課題が発生しており、その解決に3D都市モデルが使えるのではないか、という発想です。

 そこで、新たにPLATEAUを海外展開していく事業をスタートさせました。すでに国内ではPLATEAUの成果が数多くありますので、そのノウハウや成功事例を海外で応用すれば、各国の都市DXに貢献できるのではないかと考えています。

――もともと2次元地図の海外ビジネスがあったところに、今度は3D都市モデルも展開していこうというわけですね。

森下氏:そうです。パスコは航空写真測量からスタートして、GIS(地理情報システム)へのデータ集約、都市計画を支援する情報整備、3D地理空間でのシミュレーションのコンサルティングまで手がけていますし、Project PLATEAUにも初年度から携わっています。そうした実績と知見を、海外市場に展開しています。

インドネシアの首都移転、タイの都市再開発にPLATEAUの知見を投入

――PLATEAUの海外展開は、具体的にはどこの国で、どんな事業から始まっているのでしょうか。

宇野氏:昨年度(2024年度)から、まずはインドネシアとタイで事業を進めています。

 インドネシアでは、新しい首都(ヌサンタラ)への首都移転プロジェクトが始まっています。昨年から始まり、20年後(2045年)の移転完了を目指す長期プロジェクトで、新首都ではこれから「持続可能なスマートシティ」を目指した大規模な都市開発が始まります。

インドネシアの新首都、ヌサンタラに建設された大統領宮殿

 この都市開発の中で3D都市モデルが活用できないかと、インドネシア政府と一緒になって検討を始めたところです。現在はまだ、新首都関係者向けのワークショップで「PLATEAUとはこういうものです」というデモンストレーションを見せながら、具体的な活用ニーズの掘り起こしを進めている段階です。

 新首都の建設場所は、もともとは熱帯雨林や丘陵が広がる自然豊かな地域です。ARやVRの技術を使い、その風景に将来の計画を重ね合わせて「新しい施設はこうなります」といったディスカッションを行うような、そんなユースケースをまずはイメージしています。

――なるほど。それはPLATEAUにぴったりなユースケースという気がしますね。もうひとつの、タイのほうはどんな事業ですか。

宇野氏:タイの国鉄が、首都バンコクにあるクルンテープ・アピワット中央駅の周辺地域で再開発プロジェクトを進めており、その一環として3D都市モデルを作る事業を行っています。駅周辺に商業施設などを建設するにあたって、建物や道路を3次元でビジュアライズしていく、その支援を行っています。

タイ国鉄のクルンテープ・アピワット中央駅(旧称・バンスー中央駅)周辺再開発プロジェクトで活用

――現地でデモンストレーションなども行われたとのことですが、反応はどうでしたか。

宇野氏:インドネシアのワークショップは、新首都の関係者や都市開発コンサルタントの方が集まり、すごく盛況でしたね。

 新首都の都市計画部門の方とお話したのですが、やはり新たな都市開発においては、以前からの住民の方との合意形成が重要です。その際に、分かりやすくビジュアライズして説明できる方法になると、評価いただきました。

インドネシアで開催された都市施設配置検討ワークショップの模様

海外から見て“PLATEAUの強み”はどこにあるのか?

――ところで「PLATEAUを海外展開する」といっても、単純にPLATEAUと同じデータフォーマットを使う、PLATEAUのツールを使うというだけのことではないですよね。

宇野氏:そうですね。統一されたPLATEAUのデータ仕様だけでなく、そのデータを整備/利活用/運用する仕組み、さらに利活用のユースケースまでをまとめて海外展開していく、というイメージです。

 われわれは“PLATEAUの強み”は大きく2つあると考えていまして、それを生かすかたちで海外展開を進めています。

 PLATEAUの強みの1つめは、統一された仕様に基づいて、全国200以上の都市が高精度の3D都市モデルを整備している点だと考えます。

 実は海外でも、予算に余裕のある大都市では「3D都市モデルを作りました」という事例は少なくありません。ただし、それが国内のほかの都市には広がっておらず、民間での活用も進んでいません。なぜかと言うと、国が標準仕様を整備していないため、データの形式も品質もバラバラで活用もしにくいのです。

――たしかに、仕様が統一されていなければ活用しづらいですよね。そういう発想にならないのが不思議ですが。

宇野氏:そもそも海外では、「オープンデータ」という考え方が国や自治体に浸透していないと感じることが多いです。自分たちが作った3D都市モデルを「使ってもらおう」という意識が薄いために、仕様の統一という発想が出てこないのかもしれません。

 さらに、もうひとつのPLATEAUの強みが、豊富なユースケースが開発されている点です。

 海外の都市が3D都市モデルを整備したといっても、多くの場合は単に3次元で可視化できるようにしただけで、その後にどうやって使えばいいのか分からないという話をよく聞きます。先ほど触れたとおり、モデルの仕様は作った自治体しか分からないので、民間も手を出しづらいのではと考えています。

 一方で、PLATEAUの場合は、3D都市モデルを作った後にどう活用していくのか、ユースケースまできちんと整備されています。そのため、ほかの都市のユースケースを自分の街に横展開して、実践しやすい仕組みとなっています。

 日本のユースケースが、そのまま海外の都市に展開できるケースも多いと思います。たとえばASEAN地域だと、日本と同じように洪水や津波といった自然災害が多いため、PLATEAUを使った浸水シミュレーションなどの防災関連ユースケースへのニーズは高いです。

海外展開の現場で直面した「日本との違い」「課題」

――なるほど。でも一方で、PLATEAUは“日本発”ですから、そのままでは海外に展開できない、展開しづらい部分もあるのではないでしょうか。実際に海外展開を進めていくうえで、何か課題に直面したことはありますか。

宇野氏:最も大きな課題になったのが、国防などの観点から、国土に関する情報を海外に持ち出せないという規制があったことです。パスコの社内体制的にも、現地の作業環境だけで3D都市モデルを一から作り上げるのは難しく、データを日本に持ち帰って作業することが前提でしたので、これは大きな障壁になりました。

兼子氏:現地に行く前から、都市計画基本図などの地形データは持ち出しが困難になることを想定していましたが、そのほかのセマンティックなデータ、たとえば日本で言う「都市計画基礎調査」のようなデータも、どの程度仕様が統一されているのか、自由に入手できるのかといった部分は懸念材料でした。実際に現地で調査してみると、やはり日本とは違う部分があり、3D都市モデルの整備作業に難しい点があったのは事実です。

――先ほどご説明いただいたデータの仕様統一、オープンデータという意識の薄さ、といった点ですね。ちなみに、国土の情報を海外に持ち出せない点は、どうやってクリアしたのですか?

宇野氏:日本では航空写真測量成果のデータを使っているのですが、それが借用できないので衛星画像を使い、さらに少数ながら公開されているオープンデータも組み合わせるかたちで、3D都市モデルを作成しました。

――新しい手法を採ることになったわけですね。そのほかに課題はありましたか。

片岡氏:行政が整備しているデータの内容が日本と違うため、それをうまくすり合わせる工夫が必要だったケースもあります。

 たとえば、タイで浸水災害シミュレーションを検討したときのことです。ある地点における過去の浸水被害の記録として、日本では「浸水深」と「浸水の継続時間」を記録するよう定められているのですが、現地で入手できたオープンデータは「その場所が何年に浸水したか」だけを記録したものでした。

――まったく違うデータじゃないですか!

片岡氏:そのとおりです。そのため、日本と同じように、浸水深に基づいてその場所の浸水リスクをランク付けすることはできませんでした。

 いろいろと検討した結果、「その場所が今年までに浸水した回数」に基づいてリスクをランク付けすることに決めて、PLATEAUの仕様をなるべく崩さないかたちでデータを追加することになりました。

タイで入手した災害リスク(洪水、津波)のオープンデータを、GISを用いて可視化した画像。日本とは異なる内容のデータだったため、独自の浸水リスクランクを作成した

――つまり、現地の事情に合わせてデータの扱いを工夫したわけですね。それでは、ユースケースの面では、何か“海外ならでは”のものが生まれたりしているのでしょうか。

片岡氏:現時点ではまだ、PLATEAUの仕様を理解している方が少なく、効果的なユースケースのアイデアも出てきにくい状況だと見ています。まずは「課題発見を手伝う」ことが必要な段階ですね。

 そこで、わたしたちからも効果的なユースケースがご提案できるように、関係者の方へのヒアリングだけでなく、現地のニュースを見たり独自調査をしたりして、現地ではどのような困りごとがあるのかを把握する取り組みも行っています。

――そこから何か効果的なユースケースは見えてきましたか。

宇野氏:インドネシアの例ですが、新首都が出来たことで、ほかの都市から新首都につながる道路の脇に露店が建ち始めています。ただし、それがセットバック規則に違反していて(道路に近づきすぎていて)危険なケースがあります。そこで、具体的にどこが規則違反なのかを可視化して、住民とコミュニケーションをとる際に使うというユースケースを提案しています。

海外展開を通じて、日本発の“4つの価値”を提供できる

――さまざまな課題にも直面しつつ、パスコさんがPLATEAUの海外展開で得たことは、どんなことでしょうか。

片岡氏:国内業務だけでは生まれてこなかったアイデアが生まれた、という部分があります。

 たとえば、先ほど宇野が説明したとおり、航空写真測量という国内での手法が使えなかったおかげで、衛星画像から3D都市モデルを整備する手法や、まだ開発段階ではありますが建物のテクスチャ画像をUAV(ドローン)で撮影するといったアイデアが生まれました。

国内におけるドローン(UAV)測量の様子

――国内とはまったく違う環境や条件があったけれど、それを満たすための新たな工夫やアイデアが生まれたと。そうした経験を生かして、今後、さらに海外展開を拡大していく方針でしょうか。

兼子氏:そのとおりです。今後の海外展開においては、これまで日本、そしてこれまで海外諸国で培った知見に基づいて、技術的、制度的、社会的、文化的な価値がご提供できるものと考えています。

 まず「技術的価値」としては、国際標準(CityGML)や公共測量成果等に準拠した高精度なPLATEAUデータの整備/利活用/運用のノウハウ、そして日本国内で実証済みの高度なユースケースがご提供できます。また「制度的価値」としては、都市計画基本図や基礎調査、都市計画決定情報、災害リスクなど、日本の自治体が恒常的に整備してきた運用制度の価値が、提供できると思います。

 「社会的価値」では、“災害立国”日本として、災害リスクの可視化や備えにおいて提供できる技術やノウハウは大きいですし、ほかにも「歩行者中心の都市計画」「市民参画型の街づくり」といった、日本の先進的な取り組みも提供できると考えています。そして「文化的価値」は、たとえばオープンデータのような「公共データは公共財である」といった取り組みでも日本は先行していますので、そこも展開できる部分だと考えています。

――PLATEAUの海外展開を進めることで、そうした幅広い価値が提供できるし、日本のプレゼンスも高まることになりそうです。今後の海外展開について、そのほかに考えていることはありますか。

兼子氏:もともとProject PLATEAUは、行政/民間/学術が連携しながら「制度とプロセスと技術」の3つが連携するデータ駆動型のエコシステムを支え、拡大していく形になっており、世界的にも珍しい例だとうかがっています。なので、これからの海外展開においても、民間だけでなく行政機関と学術機関も連携して、一緒に進出していくような体制が望ましいのではないか、と考えています。

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