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なぜ“挑戦の火”は学校で消えるのか? 鍵は「異業種交流」。子どもの挑戦心を止めない“着火法”

400名超の教員にプログラムを届けたアントレ教育ラボ 池田巧氏に聞く

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 ここ10年前後で、ようやく日本でも萌芽し始めた「アントレプレナーシップ教育」。しかし、その本質や重要性は、まだ広く理解されているとは言えない。ともすれば説明しづらく、自分との関係性も見えにくいこの新しい教育の潮流を、どう捉え、どう実践していけばいいのか。

 本連載「先輩指導者に聞くアントレプレナーシップ教育」では、自らも教壇に立った経験があり、現在はアントレ教育の指導者として活動する石井龍生氏が聞き手となり、業界の最前線を走る「先輩」たちの声を通して、その言葉の奥にある本質を、対話の中からともに深掘りしていく。

 このテーマを読み解く最初の「先輩」は、現役の中学校・高校教諭でありながら、一般社団法人「アントレ教員ラボ」を率いる池田巧氏。現役教員の視点から「誰もがアントレプレナーシップに気づける学び場を創る」ことを目指す同氏に、その哲学と具体的なアプローチを聞いた。

一般社団法人 アントレ教員ラボ
池田巧(いけだ・たくみ)氏
 東京電機大学中学校・高等学校の社会科専任教諭。小学生の頃からの夢を叶え、16年以上にわたり教壇に立つ。2013年頃から起業家教育に携わる中で、自らも「学ぶ側」となることを決意し、早稲田大学大学院でMBAを取得。経済産業省の起業家育成プログラム「始動 Next Innovator」にも参加した。現在は、教員としての経験とビジネスの視点を融合させ、2024年に設立した一般社団法人「アントレ教員ラボ」の代表理事として、教員のためのアントレプレナーシップ教育の普及に尽力している。

株式会社SAIL
石井龍生(いしい・りゅうき)氏
 株式会社SAIL 代表。埼玉大学教育学部を卒業後、小学校教諭として5年間勤務。その後、角川アスキー総合研究所でアントレプレナーシップ教育プロデューサーとして、小中学生向けのプログラム開発などに多数携わる。2023年に独立し、塾事業とアントレプレナーシップ教育を掛け合わせた株式会社SAILを設立。元教員という経験を活かし、教育現場とビジネスの両面からアントレプレナーシップ教育の普及に取り組んでいる。

モデレーター:
北島幹雄(きたしま・みきお)
 ASCII STARTUP編集長。イノベーションカンファレンス「JID」の総合プロデュースや、各種イベントでモデレーターなどを歴任。起業家インタビューや産官学連携の取材を手掛ける一方、イベント登壇を通じて起業家・技術者・大手企業・自治体をつなぐハブとしても活動。メディアと現場の両面から、スタートアップコミュニティの活性化に貢献している。

すべての教員が、すでにアントレプレナーである

――本連載では、アントレプレナーシップ教育の第一線で活躍されている「先輩」指導者の方々にお話を伺い、石井さんとともにその本質を深掘りしていきたいと考えています。まずは、池田先生が考える「アントレプレナーシップ教育」とはどのようなものでしょうか?

池田:アントレプレナーシップと聞くと、よく「起業」「ビジネス」「金儲け」といった言葉が出てくると思うのですが、そうではありません。本質は「新しいことに挑戦する姿勢」や「日々の業務を少しでもよりよくしようとする工夫」にあります。そうした身近な部分からアントレプレナーシップは発揮されるのだと、先生方にはお伝えしています。壮大なことである必要はなく、教室での小さなチャレンジからすべては始まります。

 私たちが考えるアントレプレナーシップ教育は、その核となる「ゼロからの自己創造力」を養うことです。これは、未知の状況から自分自身で問いを立て、行動を通じて失敗を乗り越え、他者を巻き込みながら仲間と共に社会的価値を創造できる、そうした力を育むことにほかなりません。そういった意味では、実は、多くの先生方が、すでにアントレプレナーシップを実践されているのです。

 例えば、学校教育でも日々の授業を工夫したり、誰かとコラボレーションしたり、生徒に響くようにアレンジを加えたりと、そうした小さな行動こそがアントレプレナーシップだと考えています。

石井:ご自身の法人であるアントレ教員ラボの活動理念にもつながるお話ですね。

池田:まさしくそうですね。私たちアントレ教員ラボでは、「誰もがアントレプレナーシップに気づける学び場を創る」ことをパーパスとして掲げています。これは、先生方がすでに内に秘めている力に「気付く」ためのお手伝いです。実際に、参加された先生方からは「私たち教員にも語れることがあると勇気をもらえた」「自分の中に眠る力を共有することが第一歩だと気づいた」といった声をいただいています。

 そして、私自身の「Why me」(私が行う理由)は、現役教員の立場で、先生方にその価値を伝えることにあります。自らが挑戦し、行動する体現者でなければ、「教員は忙しい」という現実を前に、言葉は説得力を失ってしまうでしょう。常に実践の最前線に立つこと、それができなくなった時が、この役割から退くタイミングだと考えています。

石井:先生ご自身の「Why me」を確立するうえで、転機となった経験があれば教えてください。

池田:飛び込んだビジネススクールでの「レベルゼロ」経験が、私の転機です。教員は、学校では常に「レベル100」の存在です。生徒は話を聞いてくれるし、敬意も払ってくれる。しかし、ビジネスの世界では、私は何者でもありませんでした。自ら熱量を伝え、仲間を巻き込んでいかなければ、誰にも相手にされない。この「レベルゼロ」からの挑戦が、教員が外の世界と繋がることの重要性を痛感させ、今の私の活動の原点となりました。

 私たちはアントレプレナーシップの定義を「不確実性(失敗)への許容度を高め、自ら機会を創り出し他者を巻き込み、新たな価値を創造する力」と定義しており、この力を養うために「行動を通じて失敗を乗り越える力」「何をすべきか分からない状態から、気づき(発見)や機会を見出す力」「他者と協働し、社会的価値を生み出す巻き込み力」の3点を大切にしています。すべては、「ゼロからの自己創造力」を起点とした内発的な行動に支えられています。

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