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サイバーセキュリティ界を去る同氏に「デジタル文化の保存」「ドローン戦争の未来」を聞く

マルウェアと戦い続けた34年間、その先は「ドローン戦争」との戦い ―ミッコ・ヒッポネン氏

2025年09月01日 15時30分更新

文● 谷崎朋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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マルウェアからドローン兵器へ、新たな敵との戦い

 そしてヒッポネン氏はいま、新たな戦いへ挑もうとしている。34年間勤めてきたサイバーセキュリリティ企業を離れ、フィンランドのドローン防衛企業であるSensofusionに、CROとして加わる決断を下した。

 Sensofusionは、軍事国防分野を中心に、ドローンの検知や追跡、操縦者の位置特定などを行うアンチドローン(対ドローン)技術を持つ。ヒッポネン氏と創業者は長年の知己であり、2024年末から対話を重ねる中で、「いまがそのとき(決断のとき)だ」と説得されたという。「ヨーロッパで戦争が展開されているいま、この仕事にはより大きな意義がある」。ロシアと隣接するフィンランドの国防軍で大尉の称号も持つ同氏にとっては、必然の選択だったのかもしれない。

アンチドローンソリューションを提供するSensofusion

 サイバーセキュリティとドローン防衛には大きな共通点がある。敵は検知を避けようとし、防御側は検知精度を高めようとする、という点だ。この果てしない攻防は、「プログラム可能な脅威」であるマルウェアとドローンに共通する構図だと、ヒッポネン氏は説明する。

 2022年に始まったウクライナ戦争では現在、「ドローンの兵器化」が急速に進んでいる。戦争初期のドローンは、敵の動向を監視する“空の目”にすぎなかったが、現在では爆発物を搭載して、戦闘車両や兵士の破壊や殺傷を狙う兵器となっている。「わたしの友人が、今やドローンは飛行機の代わりではなく“高価な弾丸”だと評した。私もそう思う」(ヒッポネン氏)。

 すでに無線制御の軍事ドローンに対しては、妨害電波で制御不能にするような対策が進んでいる。そのため現在は、数十kmもの光ファイバケーブルを巻き付けたFPV(ファーストパーソンビュー)ドローンを遠隔操作する戦法に移行している。最新の情報では、ロシア軍はウクライナ戦争で最長となる、全長50kmの光ファイバケーブルを搭載したドローンを導入したという。ケーブルの断線も覚悟して、1000台単位で機体を送り込む。そんな世界は「なかなかクレイジーだよね」と、ヒッポネン氏はため息をつく。

 さらにヒッポネン氏は、この先の未来には“AI搭載の自律型ドローン”が出現するだろうと予測した。「AIが標的を自ら判断して攻撃を行う“キラー・ロボット”は、そう遠くない未来に実現するだろう」と警鐘を鳴らす。

 もちろん、搭載できるバッテリー重量やプロセッサ性能の制約があるため、飛行型ドローンでの実現はまだ先だとみる。ただし、地上型や水上型のドローンはそうした制約が小さい。すでに戦場投入されている爆弾搭載型水上ドローンが、自らの判断で標的を攻撃する自律型になる日も近いだろう。「もっとも、映画『ターミネーター』のように、人型ロボットが人間と戦うのは、100年は先になると思うけどね」(ヒッポネン氏)

 「わたしはサイバー領域で34年間、ロシアの攻撃者と戦ってきた。これからも新しい領域で戦うことになる」。固い決意をそう語るヒッポネン氏。それでも、まったく新しい世界へ“転職”する心境は「本当にエキサイティングで、同時に怖い」と率直に明かした。

終わりなき戦いと、それでも「楽観主義」であり続けること

DEF CON 33会場にて

 インタビューの最後に、筆者は2018年の取材時に交わしたやり取りを思い出しながら、当時と同じ質問を投げかけてみた。「いまでもインターネットを愛していますか?」。

 ヒッポネン氏は即答した。「もちろんだ。私はインターネットが大好きだ」。

 マルウェア、サイバー攻撃、詐欺やスパムといった、インターネットの“負の側面”を長年にわたり見続けてきた彼だが、楽観主義を失うことはなかった。テクノロジーは課題を生み出す一方で、常にそれ以上の恩恵をもたらす。現在、最も急速に進化が進んでいるAIに対しても、「AIはインターネットを超える革命だ。恐ろしい側面もあるが、メリットのほうが大きい」と楽観的な見方を語る。

 サイバーセキュリティ業界の象徴的な存在だったヒッポネン氏。業界を去っても、その挑戦は終わらないだろう。

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