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サイバーセキュリティ界を去る同氏に「デジタル文化の保存」「ドローン戦争の未来」を聞く

マルウェアと戦い続けた34年間、その先は「ドローン戦争」との戦い ―ミッコ・ヒッポネン氏

2025年09月01日 15時30分更新

文● 谷崎朋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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ウイルスがアートに変わる瞬間 ―新たなマルウェアミュージアムを開設

 そして2024年、ヒッポネン氏はもうひとつのマルウェアミュージアムを、WithSecureのヘルシンキ新社屋内にオープンさせた。

 ミュージアムの正式名称は「Museum of Malware Art」であり、こちらでは“アートとマルウェアの融合”をテーマとしている。2019年開催のDEF CON 27で披露された、マルウェアを題材にアート作品を作るプロジェクト「Museum of Modern Malware」に刺激を受けたという。

昨年ヘルシンキにオープンした「Museum of Malware Art」

 このミュージアムには、世界各国で活躍する現役のアーティストたちが、「マルウェア」や「サイバー攻撃」を題材として制作したアート作品が並んでいる。キュレーターを務めるヒッポネン氏からアーティストたちに対して、マルウェアやサイバー攻撃の背景、攻撃手法、攻撃を受けた場合の影響などを丁寧に説明したうえで、制作に取り組んでもらったという。

 「ただし、そこから先でどのような作品に仕上げるのかはすべて、アーティストたちの自由な想像力に任せた。その結果、どこにも存在しない、唯一無二の素晴らしい作品たちが次々に出来上がってきた」

 たとえば「Click for Love」という彫刻作品は、2000年に爆発的な感染拡大を引き起こした「ILOVEYOU」ワーム(「LoveLetter」ワームとも呼ばれる)を題材としたものだ。ヒューゴ・ランキネン(Hugo Lankinen)氏とカスパー・ヒルデン(Kasper Hilden)氏によるアート集団、TAiKOAが制作した。

 ILOVEYOUは、ラブレターを装ったスクリプトファイルがメールで届き、それをクリックするとほかの人にも感染を拡大してしまうワームだった。TAiKOAの作品では、ピンク色に塗ったおよそ1000個のマウスを吊り下げてハート型を構成し、添付ファイルをクリックしてしまう人間の“心のときめき”と、その結果起きる感染拡大を表現したものだ。

 「愛が冷静さを失わせるのと同じように、デジタル世界の急激な発展も、そこに隠されたリスクへの冷静な注意力を失わせてしまう」(TAiKOA ヒルデン氏、YouTubeのコメントより)


 ヒッポネン氏が「印象深い作品」だと話したのは、ヨハンナ・ヴィエリマー(Johanna Vierimaa)氏によるテキスタイルアートだ。この作品は、WithSecureが2023年に発見したマルウェア「Ducktail」に着想を得ているという。

 「テキスタイルとピクセルアートの共通性を見事に表現している」とヒッポネン氏が称賛するこの作品は織物であり、ソファやタペストリー、さらにはギフトショップの商品など、館内のあちらこちらで目にすることができる。


 ほかにも、ロシアがウクライナに対するサイバー戦争で使ったマルウェアを題材に、画像生成AI「Stable Diffusion」で制作した「Cyber War」シリーズ、グラフィティアーティストのEGS氏による「Blaster」ワームの作品、チップチューン・メタルバンドMaster Boot Recordのアルバム展示など、多彩な作品が展示されている。

 ヒッポネン氏は、「最初は“マルウェアはアートだ”などとは思っていなかったが、今では文化的価値があるもの、ミュージアムに展示する価値があるものだと、考えが変わった」と明かす。同時に、映画「インディ・ジョーンズ」で、敵が年老いた主人公に「お前も博物館行きだ!」と罵倒する有名なシーンが頭をよぎり、「わたしも年老いただけかもしれないとしんみりする」と笑う。

 ちなみに、ヒッポネン氏が1980年代に弟と開発したコモドール64向けゲームは、現在、フィンランドのタンペレ市にあるゲーム博物館に展示されているという。自分のデジタル作品が博物館で後生に知ってもらえるのは気分がいいと微笑んだ。

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