山手線サイズの製鉄所がポータブルに。金属リサイクルを変える日本発の新技術
切削屑も研磨粉も、その場で再資源化。分散型“金属産業”をつくるSUN METALON
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着想の原点は、アフリカで見た“捨てられた校舎”
西岡氏がこの技術の必要性を感じたのは、学生時代に訪れたアフリカの孤児院がきっかけだという。
「支援が打ち切られて、廃墟になった校舎が残っていたんです。あの光景を見て、“このままでは何も変わらない”と感じました。援助ではなく、自立できる仕組みが必要。そのためには、インフラに依存しない産業が必要だと痛感しました」(西岡氏)
こうした問題意識をもとに、「どこでも動く金属加工技術」のアイデアを着想。とはいえ最初はまったくの手探りで、材料はアマゾンで調達し、最初の実験はキャンプ場で行われた。
「爆発したら怖いので、さすがに家では実験できず、屋外で試していました」(西岡氏)
うまくいったのは半年後。それまでは3カ月うまくいかず、1回成功してからもまた2~3カ月失敗が続いたという。当時は日本製鉄株式会社に勤めながら、週末などに実験を重ねていた。
MVPづくりと、パートナー企業との共創
とはいえ、とがった技術があるだけで事業が成り立つわけではない。プロダクト開発では、最初のアプリケーション選定が極めて重要になる。特に、技術優位で進むディープテック分野では、プロダクトアウトが中心で事業がとん挫するケースが多く、いかにマーケットインを見極めるかが重要となる。
Sun Metalonでは、ある顧客企業とともにユースケースを検討し、「ローカルで、水や油を含んだ屑を安全に処理したい」というニーズにフォーカスを定めた。
「MVP(Minimum Viable Product)の考え方は常に意識していました。我々のシーズに深くフィットするニーズやアプリケーションを見つけるまで2~3年かかりましたが、その探索にしっかり時間をかけたことは、いま振り返っても正解だったと感じています。その間、プロダクトを過度に作り込まず、用途の見極めに集中したのは良い判断でした。エンジニアはどうしても個々の技術要素を磨きたくなりますが、最適なアプリケーションが見つかるまでは、あえて“部分最適”に走ることを抑えるようにしていました」(西岡氏)
こうした初期段階でのフィット感は、技術がディープであるほど重要になる。「技術と市場がかみ合わないまま突っ走ってしまうディープテック企業も多い」と語る西岡氏は、「ニーズとシーズのすり合わせこそが要」だと強調する。
米国に拠点を置く理由と、海外での意外な発見
Sun Metalonは、米国イリノイ州シカゴ近郊に拠点を構える。世界でも最大級の製造業エリアであり、金属スクラップの発生量も多い。「ここで勝てれば、世界でも勝てる」という判断からだ。また、海外進出によって知った“ポジティブなギャップ”もあったという。
「日本はリサイクル技術が高度に発展しており、廃棄されるスクラップの種類や量が限られています。一方で、米国をはじめとする他国では、いまだ多くの金属スクラップが適切にリサイクルされておらず、当社の装置が活用できる余地は大きく広がっています。例えば、1つの工場で処理対象となるスクラップの種類が、これまでの3種類から5種類に増えるケースもあります。こうした適用範囲の拡大は、当社の売上成長にも直結すると確信しています」(西岡氏)
日本は世界有数のリサイクル先進国であり、ものづくりの技術も高い。装置のR&Dおよび生産は引き続き日本が担い、販売は国内外の両市場に向けて展開を拡大していく方針だ。
金属に“寿命”を与えない世界をつくる
Sun Metalonが描く未来は、「金属の価値が一生続く」世界だ。
「今のリサイクルは、多くが“ダウンサイクル”なんです。でも僕らの技術では、“水平リサイクル”ができる。スクラップが“金属コイン”のように価値を持ち、その価値が次の工程まで保持されていくイメージです」(西岡氏)
金属屑のトレーサビリティを革新し、価値が失われずに次のものづくりに生かされる──。そんな循環を、世界中どこでも可能にするのがSun Metalonの目指す姿だ。
「製鉄の世界にも、いずれ分散化・民主化の流れが訪れると考えています。自然エネルギーが電力業界の構造に変化をもたらしたように、私たちは製鉄業界にも新たな選択肢を提示し、かつスケールのある展開を実現していきます。業界構造そのものを変える旗手となるべく、挑戦を続けています」(西岡氏)
すでに導入は始まりつつあり、今後は装置の量産と本格的な展開フェーズに移る。「安定稼働を目指して完成度を上げ、供給責任を果たしていきたい」と西岡氏は意欲を見せる。
この技術が実現すれば、資源に乏しく、十分なインフラを持たない地域でも金属素材を自立的に生産し、製造業を成立させることが可能になる。さらには、宇宙空間での活用も視野に入るという。金属を「その場で」「小さく」「クリーンに」つくり出すという発想は、従来の製鉄業のスケール常識を覆すものだ。Sun Metalonの技術は、製鉄産業の分散化を進める“ゲームチェンジャー”となる可能性を秘めている。
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