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エンジニア魂が燃えたぎる!生成AI開発イベント「AI Challenge Day」 第9回

第4回AI Challenge DayはECサイトをAIエージェントで未来にシフト

便利なのに楽しくないネット通販 エンジニアたちが次の買い物体験を真剣に考えてみた

2025年07月18日 13時30分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

提供: 日本マイクロソフト

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バイブコーディングで理想のECサイトを目指したCommerble

 6社目のCommerble(コマーブル)については、審査員の岡田氏が「ちょっと変わった発表かもしれません」と紹介。「普段からお客さまの体験ってどうあるべきなのか、哲学的な話もさせてもらっていて、登壇する竹原さんからもそんな話がある。コンペティションという形ではないかもしれませんが、聞き耳を立ててもらいたい」と紹介する。

 そんなイントロの「チームCommerble」は、Commerble、シグマコンサルティング、pnop、オフィスワイカンなどのメンバーから成る急造チーム。「リアル店舗のように対話から生まれる購入体験をどこまでECサイトで実現できるか」をテーマに掲げ、コンセプチュアルなシステムを提案することにした。登壇した竹原貴司氏は、「今までのみなさんと全然違うモノになってしまいますが、笑って許してください」とセッションをスタートする。

Commerble 竹原貴司氏

 「AIと言えば、われわれ開発者にとってもっともホットなのはバイブコーディングですよね」と第一声。今回のデモアプリもプロトタイプをバイブコーディングで作り、問題を小さく切り分けて、それぞれをまたバイブコーディングで作り、成果物をエンジニアチームに渡して、システムに組み込んだという。

 あとは開発中のビデオを流しながらの説明。Pythonプロジェクトを作成し、VSCode+GitHub Copilotでプロンプトのプロトタイプを作り、その後共有しやすいようにC#に変換。商品検索プロンプトを生成し、これをLLM+RAGに読み込ませて、検索結果を得る。そしてUIはメッセージから属性を判断して動的に生成する。「入力内容にあわせてターゲット層が変化したり、見た目も変化する。カラーパレットも毎回違うものが生成される」と竹原氏は解説する。

バイブコーディングの模様を見ながら解説

 成果物のデモも動画で紹介。ユーザーの入力内容から、プロフェッショナルユーザーであることを判断。Bing Searchを組み込んだLLMにプロンプトを投げると、ユーザーに応じた商品リストや見た目が現れる。また、「老人会で使っている」とヒントを渡すと、カラーリングもシニア向けになり、画像やフォントも大きく表示される。「バイブ感、出ますよね」と竹原氏が満足そうに語ると、会場からも笑いが漏れる。

 続くデモで「X-Boxのゲーム機欲しいんだけど」と投げると、最初はAIも若年層だと判断するが、「パパにおねだりしたら、あたしに買ってくれるとママが言ってたから、一番いいやつ教えて」と言った途端に、AIはファミリー層に設定を変更する。Bing Searchを用いて、いろいろなECサイトを横断し、なおかつ口コミまで調べてリストを掲出してくれる点も未来感があった。

会話からターゲットをリアルタイムにファミリー層に変更する

 LLMは背後でなにをやっていたのか。まずはチャット内容からターゲット層をLLMに推論させ、UI(HTML/CSS)と検索プロンプトから「自然な検索文」を生成。その検索プロンプトを使って、LLM+RAG(今回はGrounding with Bing Search)が適切な商品を検索している。

 最後、竹原氏は「われわれエンジニアだけがバイブコーディングのメリットを得られるわけじゃないのでは?」と会場に問いかける。また、EC事業者向けにはAIにいかにうまく情報を提供できるか、SEOではなく、AIOが重要になると指摘。「理想のECに向けてがんばっていきましょ」とセッションを締めた。

 Commerbleとやりとりしてきた日本マイクロソフトの岡田氏は、「今はこんな笑顔でセッションしてもらいましたが、裏ではいろいろなドラマがございました。ご覧の通り、スコアもない。でも、今回チャレンジしているみなさんに、何か新しい気づきを与えたいという熱い想いがありました。AI駆動、そしてバイブコーディングの時代になることで、ソフトウェアエンジニアやEC事業者、生活者にどんな影響が出てくるのか見られるなら、ぜひチャレンジしてほしいとお願いしました。今の話を聞いてディスカッションされたい方はいっぱいいると思う。Commerbleさんとネットワークキングでからんでもらって、いろんな知見を引き出してもらいたい」とコメントした。

■関連サイト

EC使わない人向けのUIが印象的だったソフトクリエイトホールディングス

 休憩を挟んで7社目の登壇は、ソフトクリエイトホールディングス ecbeingの太田優一氏。AI Challenge Dayへの登壇2回目となるソフトクリエイト、ecbeingに、今回ATLEDまで加わった5人のチームで、渋谷のMicrosoft Baseで構築したという。

ソフトクリエイトホールディングス ecbeing 太田優一氏

 普段からECパッケージを展開しているecbeingだが、「親近感の湧くテーマながら、プレッシャーを感じて開発しました」と太田氏。エージェントのスコアは149.226点で、「購買のところをもっとがんばれば、スコア上げられたな」とちょっと残念そうだ。

 カスタマーストーリーは「AIサービスを導入しても使われない!」という店舗側の課題感からスタートした。AIチャットも使われず、検索も従来型の方がメイン。サイトの滞在時間も短く、AIがオススメした商品があまり購入されないといった精度面も課題に挙げられた。

 この背景として、そもそもECサイトを訪れる顧客は、買いたいモノが決まっていて、買う方法もわかっていることが挙げられる。そのため、チャットボットをサイトに置いても使われない。そのため、今回は「ECサイトを利用していない顧客」にこそAIエージェントを使ってもらい、次世代の購入導線を作ることにした。

ECサイトを使わない顧客をターゲットにした

 ペルソナとしては店舗重視のお客さまを掲げた。こうしたお客さまには、「ECはよくわからない。面倒くさい」「実物を見たい」「会話しながら商品を決めたい」「自分にぴったりの商品をオススメしてほしい」「商品をしっかり説明してほしい」というニーズやバックグランドがあると仮説を立てた。こうした課題を解決すべく、特に注力したのは、音声とタップ操作だけで買い物可能なUI/UX。太田氏はさっそく動画でUI/UXを披露する。

 たとえば、音声で「クリーパーのグッズがほしい」というと、最適な商品を検索し、リストアップ。会話は機械的ではなく、つなぎの言葉が入っており、人間の対応らしさを演出。ボタンも「興味あり」「興味なし」を選ぶだけで、きわめて直感的だ。もちろん店頭や窓口にも設置可能。「時間があればAzureのアバターサービスで本当に人間みたいな店員が作りたかったが、そこまでは無理だった」と太田氏は語る。

シンプルなソフトクリエイト ecbeingのUI/UX動画

 会話できるAIエージェントの導入により、従来のECサイトでは難しい、家族構成、恋人、誕生日などの情報を会話の中から学習し、自分以外にパーソナライズされたギフトの提案も可能になる。一方、子供が間違って買ってしまうという事例にも対応しており、「Human in the loop」を実装した承認機能で、不測の事故や間違い、いたずらを防止する。

 アーキテクチャとしては、リアル店舗のスタッフを意識し、7対のエージェントを配置。「口も、耳も、手もあって、スマホで調べ物ができるみたいなことを意識しました」と太田氏。また、当初はSemantic Kernelで設計していたが、「せっかくのChallenge Day」とのことで、誰もさわった事のなかったAutoGenを採用。「全然ネットに情報がなく、バージョンアップも激しかったですが、花ケ﨑ブログを参考に、がんばらせていただきました」と太田氏は振り返る。

 AutoGenでは、プランナーのエージェントが他のエージェントにタスクを割り振る「SelectorGroupChat」というフレームワークを採用。このフレームワークを使うことで、たとえば「写真に写っているキャラクターの商品、全部欲しい」というリクエストが来た場合、プランナーのエージェントは、キャラクターの特定は画像専門エージェント、グッズ検索はリサーチ班のエージェント、返信は回答作成役のエージェントにタスクを割り振る。なるべく1つのタスクに専念させることで、精度を向上させるように配慮したという。

 開発で工夫したのは「質と量の向上」で、検証と改善のサイクルを簡単に回せるようにした。まずは初日のうちにデータセットの特徴を把握し、逆説的にタスクを洗い出した。また、エージェントの履歴や採点結果、前回との差分をビジュアライズできるツールを開発。スコアを向上させる体制を自ら作り上げた。会話を繰り返すことで、使えば使うほど進化するペルソナDBも構想したが、今回は実現にまでは至らなかったという。

 苦戦したのは、AutoGenの実装。旧バージョンの情報が多く、最新バージョンの情報やマルチエージェントの実装例を探すのに苦労し、MCPなど外部呼び出し時のエラーハンドリングに苦労した。また、AIエージェントエージェントは対話のみならず、内部の振る舞いまでデバッグする必要があり、単純に文章量が多かったこともあり、検証に時間をとった。あとはMCPとの接続を最終日にやったため、早期に仕様確認やAPIとの接続テストをやればよかったという反省もあった。

 最後に太田氏は、「仮説と検証のサイクルを何度も回せたのは純粋に楽しかった。夜中まで盛り上がっていました(笑)」とイベントの感想を披露。今後はエンタープライズでも同じようなサイクルを回しつつ、既存プロダクトや社内業務にもエージェントを適用していきたいと抱負を語った。

 審査員の大谷氏は、「ソフトクリエイト/ecbeingさんは初回の神戸にも参加してくれたのですが、まさにウェルカムバック。前回もそうだったんですが、このチームはけっこう無茶するんですよね(笑)。今回はAutoGenがまさにそうなんですが、情報や経験がない中、苦労して使っているのは、まさにこのチームらしいなと思いました。あと、ECを使っていない人をターゲットにしているのは面白い。そういった人たちはたとえば百貨店の外商みたいなサービスを利用する方たち、得意先専門の営業さんがお客さまと会話をしながら買い物するという世界を、磨きをかけたAIエージェントで実現できるのではないかと期待しています」とコメントした。

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