世界トップの独自技術「溶湯鍛造法」で未知なる素材を実現するアドバンスコンポジットが優勝、IVS2025 LAUNCHPAD
「IVS2025 LAUNCHPAD」セッションレポート
2025年7月2日から5日まで開催された国内最大級のスタートアップカンファレンス「IVS2025」の目玉コンテンツのひとつ、ピッチイベント「IVS2025 LAUNCHPAD」が7月3日、ロームシアター京都で開催された。2007年から今回で19回目となるイベントは、「まだ世に出ていないアーリーステージのスタートアップの飛躍を支える発射台になりたい」という思いからスタートし、累計5000社以上がエントリーした。
今回は350社以上(うち海外企業およそ15%)の応募があり、書類選考と複数回の審査を経て選出された15社が決勝イベントに登壇した。自社プロダクトとかける熱い思いを6分間のプレゼンテーションで発表し、13名の審査員による投票結果により1位から5位までが表彰され、優勝者には「スタートアップ京都国際賞」として京都府より1000万円が交付された。また、今回はスポンサー賞も複数あり、特別審査員として参加した「ドラゴン桜」で知られる漫画家の三田紀房氏からは、投資をテーマにした作品『インベスターZ』のスピンオフマンガに登場する権利が得られる「インベスターZ賞」が贈られた。
ここでは入賞各社を中心に、注目スタートアップを紹介する。
第1位(スタートアップ京都国際賞)、アドバンスコンポジット
第2位 株式会社天地人
第3位 株式会社Creator's X
第4位 (オーディエンス賞)株式会社スナックテクノロジーズ
第5位 株式会社CoLab
インベスターZ賞 合同会社CGOドットコム
未知なる素材を作る「溶湯鍛造法」で世界を変える
今年の優勝者はトップバッターにして顔出しNGというインパクトで登壇したアドバンスコンポジット株式会社が選ばれた。発表スタイルとは反対に事業内容はかなり硬く、独自の溶湯鍛造による金属基複合材料及び接合製品の開発、製造を行うというもの。静岡県富士市で2015年に設立され、ここにしかない独自技術は国内外で認められているという。例えば、データセンターなどの業務用空調に使用するパーツを大幅に軽量化する技術は、全世界の年間消費電力の約3%、日本全体で年間300日分相当の電力が削減可能で、市場規模は3200億円が見込まれると説明。ダイキン工業など大手から出資も受けているが、グローバル化に向けた事業拡大のきっかけにするため、発表者のAKIYOSHI氏が独断で応募したという。デカコーンの先すらを見据え、ものづくりを応援するという点から京都国際賞に最もふさわしい会社が選ばれたと言える。
衛星データを駆使し、3m単位で水道管を検知する「宇宙水道局」を実現
2位には複数の衛星データと地上データをAIで解析し、見えないリスクや価値を可視化する株式会社天地人が選ばれた。宇宙ビッグデータを活用して地球規模の課題を解決するオンラインGISプラットフォーム天地人コンパスを開発しているが、ピッチでは全国で大きな問題になっている水道管の漏水リスクを管理する業務システム「宇宙水道局」に絞り込んでアピールし、評価された。水道事業者が保有する水道管路情報などを組み合わせて、約100m四方の地区ごとに漏水リスクを評価でき、内閣府との実証実験や自治体でのヒアリングによると、点検費用は最大65%、調査期間が最大85%削減できる効果があるとされている。JAXAから初めて出資を受けており、将来的には自社での衛星打ち上げも目標に掲げている。スタートアップが出展した「スタートアップマーケット」でも注目を集めており、今後の動きが期待される。
積極M&AでAI補助による次世代アニメ制作体制を構築
3位に選ばれた株式会社Creator’s Xは、AIを活用するアニメ制作会社として2024年9月に本格始動した。AIは生成AIではなくあくまで補助的に使い、単なる作業の効率化ではなくクリエイターが本来の仕事に取り組める制作環境の実現を目指している点を強調。例えば、背景作成ではクリエイターが下書きしたラフの塗りと描き込みをAIがサポートし、通常2日かかる作業を3時間で完了できるという。制作物を守るためデータはグループ固有とし、AIの利用者も限定した上で顧問弁護士を採用するなど、IP(知的財産権)ホルダーとしての価値も高めようとする。約10ヶ月で2件のM&Aを行い、従業員数は70名、規模売上を約8億円に拡大した企業経営の手法を支援パッケージ化し、他のアニメ制作会社に提供し始めている。アニメのデータと現場ノウハウの蓄積によって、アニメ制作の次世代デファクトスタンダードを作りたいとしており、業界へどのような影響を与えるのかが気になるところだ。
2兆円超市場といわれるスナック経営をDXする「スナテク」をリリース
4位は国内で約10万軒が存在し、市場規模は2兆円超えとされるスナック経営を効率化するスナックテクノロジーズが選ばれた。スナック専用サービス「スナテク」は、会計の明朗化や自動決済、来店履歴や来客の可視化など、使いやすい機能でスナック経営をDXできる。また未開拓のビジネスモデルを次々とスナックから生み出し、5年後には100億円の営業利益を目指すとしている。代表取締役社長の関谷有三氏は令和のヒットメーカーとも呼ばれるシリアルアントレプレナーで、タピオカブームの火付け役やスーツに見える作業着「ワークウェアスーツ(WWS)」の開発で知られる。ユーモアとテンポの良さでエンタメ要素抜群のプレゼンでオーディエンス賞も受賞した。
組立工場の産業用AIロボット導入支援で、製造業の国内回帰を目指す
5位には組立工場の作業を自動化する産業用AIロボットを開発するCoLabが選ばれた。人の手でなければ難しい精密な動作を学習できるフィジカルAIと学習済みのライブラリを活かし、簡単に画面操作できるソフトウェアを開発。技術は特許取得済みだ。人件費の削減だけでなく、少子化問題とグローバルサプライチェーンの課題を解決し、国内に製造業を戻すことができるとしている。デモでは既存のロボットメーカーやヒューマノイド型に比べて学習時間が短く組立精度が高いことが説明された。市場規模は国内では現在年間1.7兆円だが、グローバル展開がしやすい労働集約型産業のため今後10兆円まで拡大可能だと見ている。
閉鎖的な会議を変えるギャル式メソッド「ギャル式ブレスト」を開発
インベスターZ賞には、企画会議にギャルマインドを取り入れる独自メソッド「ギャル式ブレスト」を開発するCGOドットコムが選ばれた。ポジティブで元気なギャルマインドは忖度なしの意見を出し、それは起業家精神にも通じるとし、会議を活性化させ、ふだんは出てこないようなぶっちゃけたアイデアを引き出せるとする。2022年5月のスタートから大手企業で採用され、導入先には全日空や住友生命などの企業名が並ぶ。ブレスト以外にも商品開発やプロモーションなど多数の事業メニューがあり、自治体でも採用された。口コミでニーズが広がり、導入先は100社と 2.5倍に成長しており、リピート率も30%と上昇中だ。選出した三田氏も「驚くようなビジネスモデルで描き甲斐がある」とコメントしていた。
今回の登壇者はレガシー産業のDX、生成AIによる経営効率化、社会課題の解決といったオーソドックスな内容が目立っていた。調達部門を支援する「ZORI」、匠技研工業株式会社も中小部品メーカー向けの見積支援システム「匠フォース」というように、いずれも対象となる業界や分野を絞り込んだ生成AIによるサービスを開発しており、株式会社Bocekは生成AIアプリをワンストップで導入できるプラットフォーム「Taskhub」を提供する。
またAvete株式会社は建設業の安全性を高めることを目的に、高度なAIと専門知識を組み合わせたソリューション「avete ai」を提供している。代表取締役CEOのドゥヴェディ・ウッタム氏は東大卒で日本の建設企業で働いた経験を活かし、日本をターゲットにしていることから、今後は業界全体のDXを後押しする存在になるのか気になるところだ。
もう一社、著作権や肖像権といったIPに着目し、AIによって価値を最大化することに取り組む株式会社Wunderbarは、AIとデータを活用したIPマーケティングプラットフォーム「Skettt(スケット)」を提供している。有名タレントの画像、音声、動画素材をテンプレート化し、これまで以上に安く早く気軽にIPが使えるビジネスを目指す。生成AIの登場でタレントの価値や権利が脅かされる中で、新しいビジネスとして受け入れられるのか楽しみである。
ディープテックでは、宇宙エレベーターに使用するカーボンナノチューブの量産機「Caltema」を開発する株式会社カーボンフライ、家庭の屋根に設置する太陽電池と蓄電池を組み合わせたエネルギー革命を提案するハチドリソーラー株式会社。また、台湾のDentscape は、3DCADを用いた高い技術で義歯や入れ歯を加工する技術歯科技工士の作業をDXする。日本だけでなく世界での展開も見込まれることから、Amazonや大手VCの500も支援している。
新規性のある技術としては、ゴミをその場で資源化する小型アップサイクルプラントを開発する株式会社JOYCLEがおもしろかった。電熱炉を使ったカーボンフリーなゴミ処理をAIやIoTで最適化し、大規模なゴミ回収が課題になる地域での活用を目指す。バイオ石炭やセラミック灰などを生成でき、アート素材に応用できるなどアイデアも広がる。
全体的に目新しさはやや欠けるところがあったものの、ビジネスとして成長可能性が高く、市場性も大きい企業が多く、LAUNCHPADの登壇を成長につなげていってもらいたい。












































