【JSTnews7月号掲載】NEWS&TOPICS 戦略的創造研究推進事業CREST/研究領域「データ駆動・AI駆動を中心としたデジタルトランスフォーメーションによる生命科学研究の革新」 研究課題「多階層の神経活動データ駆動による睡眠脳の機能解明」
睡眠中の脳が「未来の記憶」のための細胞を準備していることが明らかに
2025年07月14日 12時00分更新
睡眠と記憶の関連を調べたこれまでの研究から、記憶は「エングラム細胞集団」と呼ばれる記憶を担う神経細胞集団が経験をした後の睡眠中の再活動によって定着することがわかっています。富山大学学術研究部医学系の井ノ口馨卓越教授らの研究チームは、神経細胞の活動を光で観測する独自技術を使って、脳内で記憶をつかさどる領域である海馬の細胞集団が、新しい出来事の経験中やその前後の睡眠中にどのような活動をしているのかをマウスで観測。睡眠中に、過去の記憶の定着と、未来の記憶を獲得する準備という2つのプロセスが並行して進行していることを明らかにしました。
研究チームは、新しい空間Aにマウスを置いて探索させ、その翌日、睡眠から覚めたマウスに空間Aを再経験させた後、新しい空間Bを探索させて、その前後の睡眠中に海馬の中の細胞集団がどのような活動をするかを調べました。すると、未来の経験の記憶を担う「エングラム予備細胞集団」が、その経験をする前の睡眠中に既に脳内に準備されていることがわかりました。さらに、同予備細胞集団は、前の経験を記憶した後の睡眠中に、その記憶のエングラム細胞集団と同時に活動して出現することも判明しました。
同チームは続いて、神経回路モデルによるシミュレーションを実行。エングラム予備細胞集団が出現するためには、前の記憶のエングラム細胞の再活動の影響を受けてそれ以外の細胞で起こる睡眠中のシナプスの変化が重要であることも示しました。睡眠中の脳が日々の記憶を秩序立てて獲得する仕組みが明らかになったことで、睡眠中の脳活動や睡眠法への介入によって、脳の潜在的な能力をより引き出せば、記憶力を向上させる方法につながることも期待されます。
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事
-
第79回
TECH
水電解における塩素発生の抑制につながる新発見 -
第78回
TECH
情報通信科学分野の革新的技術の創出を見据え、JSTと情報通信研究機構(NICT)が業務連携 -
第77回
TECH
農業用ハウスの屋根に載せられる有機太陽電池~農作物育成と発電が両立可能に -
第76回
TECH
昆虫の「求愛歌」の仕組みを解明し、ハエや蚊の繁殖を抑える技術へ -
第75回
TECH
情報学・神経生理学・社会心理学の学際的研究で、AI によるおすすめの信頼性を向上! -
第74回
TECH
白亜紀から続くロマンに惹かれて挑む、浮遊性有孔虫の研究 -
第73回
TECH
出芽酵母を用いて環状DNA発生の仕組みを明らかに -
第72回
TECH
病原細菌が植物の葉の気孔を開いて侵入する仕組みを発見 -
第71回
TECH
原子分解能電子顕微鏡法で、結晶粒境界における添加元素の拡散状況を観察 -
第70回
TECH
有機フッ素化合物を分解する新たな技術を開発 -
第69回
TECH
小中高生の可能性を広げる「次世代科学技術チャレンジプログラム」 - この連載の一覧へ








