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「AWS Summit Japan 2025」レポート

“開発・運用・成長”3つのフェーズでゲーム産業を支援するAWS

「モンスターハンターワイルズ」のクロスプレイを支えるゲームサーバー なぜAWSが選ばれた?

2025年05月29日 08時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 発売からわずか1か月で、全世界での販売本数が1000万本を突破したカプコンの最新ゲーム「モンスターハンターワイルズ」。

 同作では、アマゾン ウェブ サービス(AWS)のクラウドを活用し、ゲーム機やPCなどプラットフォームの垣根を越えてユーザー同士が遊べる「クロスプレイ」を実現。100万ユーザー以上が同時アクセスする中でも、安定した接続を保ち、ストレスなく協力プレイを楽しめる環境を構築している。

 AWSジャパンが2025年5月26日に開催した説明会では、同社のゲーム業界に対する取り組みに加えて、モンスターハンターワイルズのAWS事例が紹介された。なお、本事例の詳細は、幕張メッセで開催される「AWS Summit Japan 2025」のDay2(6月26日)、カプコンのセッションにて披露される予定だ。

インフラ構築でこだわったこと、大変だったこと

 カプコンの100本を超えるミリオンヒットタイトルの仲間入りをした、モンスターハンターワイルズ。同タイトルは、異なるプラットフォームのユーザーとマルチプレイが可能な「クロスプレイ」に対応している。PlayStation 5やXbox Series X|S 、Steam(PC)のユーザーが一緒に遊べるこの仕組みは、同シリーズで初めての挑戦となった。

 クロスプレイを実現するには、従来のようにプラットフォーマーが提供するネットワーク基盤を利用する選択肢は取れない。異なるプラットフォームのユーザーがアクセスできる、独自のゲームサーバーを立ち上げる必要があった。加えて、全プラットフォームの世界同時販売も決まり、これまでにない規模のサーバー負荷が発生するのも明白だった。運用負荷を軽減するためにも、マネージドサービスをフル活用する方針に定めたという。

 カプコンのCS 第二開発統括 システム基盤部 部長である井上真一氏は、「ゼロからスクラッチという発想もあったが、運用を考慮すると、実績のあるマネージドサービスを活用する方が適切と考え、AWSに相談した」と当時を振り返る。

カプコン CS 第二開発統括 システム基盤部 部長 井上真一氏

※訂正:初出時、井上氏の所属名に誤りがありました。おわびのうえ訂正いたします。(2025年5月29日 16:30 編集部)

 インフラにおいて、同社が一番こだわった点が、“レイテンシー(通信の遅延)を限りなく低くすること”だった。「アクションゲームで、しかもリアルタイム性があるため、通信の遅延がユーザー体験を著しく損ねてしまう。例えば、みんなと遊んでいる時に、一人だけ固まってしまったら、仲間たちと共闘するというゲームの根幹が揺らいでしまう」と井上氏。

 レイテンシーの面では、各クラウド事業者の通信速度を検証し、最も要求を満たすソリューションの組み合わせを模索し、結果、AWSという選択に至った。CDNである「Amazon CloudFront」を置き、リージョン間の通信を使用することでレイテンシーを抑えたといい、総合的な通信品質も決め手となったという。

 他にも不安要素だったのが、限られたユーザーを対象とする「クローズドβテスト」を実施しない方針をとったことだ。それは、「限界ギリギリまで“おもしろい”を詰め込みたいから」という熱い想いからだったという。

 インフラチームは悩みつつも、「それならばテストを頑張ろう」と、その想いに応える。インスタンスをかき集め、内部クォータを解除し、全ログにアクセスする。限界ギリギリまでテスト効率も上げた。AWSのクラウド移行やピーク対応など、重要なシステムイベントをサポートする「AWS Countdown Premium」も活用した。サポートサービスによる専属ソリューションアーキテクトからアドバイスを受けつつ、検証作業が進められた。

 こうして、開発中はトラブル続きであったものの、無事にローンチ。その後も大きな障害は発生していないという。これほど大規模なインフラを、若手を含む7~8人のエンジニアだけで、開発から運用まで手掛けている。

 最後に紹介されたのは、開発効率を上げるための、生成AIの活用だ。

 カプコンでは、ログを整理してバグを特定する作業や、光過敏性発作に配慮すべきエフェクトやテクスチャーのずれをチェックする作業など、時間を要するような単純な業務を、AIに任せ始めているという。そして、モンスターハンターワイルズで実践投入されたのが、AIによるデバッグだ。ゲームのコンテキストを理解しながら遊び、自然言語で指示を出すこともできる、AIテスターを開発している。

カプコンの生成AI活用例

 こうして、ゲーム開発とAIの融合を推進しているカプコンであるが、クリエイティブ領域にはAIは活用しない方針だという。「技術活用としてのAIは、費用を最適化する場面のみ。これにより、人間はクリエイティブに集中して、より良いものを届けることに注力する」と井上氏。AIによる業務削減で生まれる利益も、定量的に算出。その利益を「おもしろさに再投資」していることを強調した。

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