ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第825回
バッファがあふれると性能が低下する爆弾を抱えるもライセンスが無料で広く普及したAGP 消え去ったI/F史
2025年05月26日 12時00分更新
バッファがあふれると性能が著しく低下する
AGPは、カタログスペックだけ見ればLFBの数分の1の速度でアクセスできるように見えるが、実際にはGARTドライバー経由でメモリーコントローラーにリクエストが行き、そこからメモリーコントローラーがそのアドレスのメモリーをアクセスしてGARTドライバーに返す、という処理が入るのでレイテンシーが恐ろしく増える。
これはランダムアクセスを行なう際には特に顕著であって、結果AGPを使うと強烈に性能が下がるので、なるべくLFB内で完結するようにゲームを構築する必要があり、必然的にLFBの容量が少ないIntel 740に不利になるというわけだ。
以上のように、AGP 1.0の開発の動機の半分くらいは当初から失敗していた感があるのだが、業界に支持されたことでこの後もAGPの改良が続く。1998年5月には、信号の電圧を3.3Vから1.5Vに下げる(これは信号の高速化のため)とともに4xモード(66MHzの4倍速でデータを転送するモード)が追加されたAGP 2.0がリリースされる。
ちなみに電圧を変更したため、3.3Vしか供給できないマザーボードに1.5V対応のビデオカードを装着すると過電圧で壊れてしまうし、逆では電圧が低すぎで通信できなくなる。こうした問題に対応するため、3.3Vと1.5Vではスロットの切り欠き位置を変更(単に逆に付けただけ)するなど工夫された。
x4モードでは1.06GB/秒まで帯域を拡大した格好になるが、2002年にはさらに高速化したAGP 3.0がリリースされ、x8(66MHzの8倍速で転送)モードが追加された。このx8モードでは信号電圧が0.8Vまで落とされたが、カードエッジは1.5Vと共通になっている。
ただ、AGP 2.0がリリースされた1998年は6月にNVIDIAのRIVA TNTが出荷されているが、これは128bit/110MHzのメモリーバスで帯域は1.76GB/秒。AGP 3.0の2002年は2月にGeForce 4 Ti 4400が出荷されており、こちらは128bit/275MHz DDRのメモリーバスで帯域は8.8GB/秒であり、AGPの高速化はGPUに全然追いつかない状況に陥っていた。
といってもPCIを使うよりははるかにマシではあったのだが、PCI Expressが世の中に出てくると、ビデオカードも「次第に」こちらに移り変わることになる。
「次第に」というのは、第1世代のPCI ExpressはI/F部の回路規模が非常に大きく、当時のプロセス(130nm前後)ではかなりのダイサイズになってしまうため、コストの高いハイエンド向けはともかく低価格のミドルクラス~ローエンド向けにはとても採用できなかったためだ。一方AGPは高速化したとは言ってもI/Fは非常に小さく、ミドルクラス~ローエンドではAGPが根強く支持されることになった。
結果、AGPからPCI Expressへの移行には結構な時間がかかることになった。例えばNVIDIAで言えば、おそらく2004年4月に発表されたGeForce 6800 GTOが最初のPCI Express対応製品かと思うのだが、2年後の2006年2月にはAGP 8x対応のGeForce 7800GSが発売されている。
AGP対応製品がNVIDIAのラインナップから完全に消えたのは、2006年11月から発売を開始したGeForce 8000シリーズまで待たなければならず、つまり2006年前半くらいまではまだAGP対応ビデオカードが売られていた格好だ。
AGPに加えて、AGP Proという規格も追加されていた。これはワークステーション向けなど消費電力の大きなビデオカード向けに、信号ピンの両端に追加の電源ピンを追加する、というものである。AGPのコネクターそのものは最大で25Wまでしか供給できないが、AGP Proでは3.3Vコネクターと12Vコネクターが追加され、定格では3.3Vで25W、12Vで60Wの追加電力供給が可能とされた。最大では12Vレーンで110Wの供給が可能で、この場合は合計160Wまで利用可能だった。
上の画像のように一応対応したマザーボードも存在したし、対応したビデオカード(例えば旧ATIのFireGL X1)もあったが、あまり広く利用されたとは言い難かった。それでもVL-Bus/PCIの時代からPCI Expressの時代の間をつなぐものとして、AGPは広く利用されたといって差し支えないだろう。

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