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“ノーコード&ローコード”がビジネスの現場をデジタルに変える

AI駆動開発で進むノーコード化 開発の定義も変わっていく

意外と違うノーコードとローコード そしてAI駆動型開発の台頭で今後どうなる?

2025年05月22日 10時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 現場ユーザーが自らシステムを構築できる「ノーコード・ローコード」。前回はシステムの内製化を実現するDXの切り札として期待される背景を解説したが、今回は両者の違いと使い所を考えていく。また、台頭するAI駆動型開発とノーコード・ローコードの関係もおさらいしておこう。

ノーコードとローコードはできることもユーザーも違う

 一口にノーコード・ローコードと言うが、両者はできることも、想定されるユーザーもかなり異なるので、代表的なサイボウズのkintoneを例に整理しておきたい。

 ノーコードは文字通りコードを書かずに業務システムを作れるという意味になる。つまり、ターゲットはコードを書けないビジネスパーソンになる。kintoneはドラッグ&ドロップでフォームを設計し、アプリという単位でクラウドデータベースにデータを格納し、共有することができる。業種・業務ごとに用意されたテンプレートをカスタマイズすることで、アプリを作ることも可能だ。

 一方のローコードはコードをほとんど書かずに済むという意味で使われる。裏を返せば、コードを少しでも書けるスキルが必要なので、ビジネスパーソンはターゲットにならない。むしろ開発者が生産性を高めるために用いられると考えた方がよい。こちらはシステムに必要なコードがパーツ化されており、これらをGUIで組み合わせてシステムを構築する。

 ノーコードはシステムを簡単に作ることができ、できるまでのスピードも速い。現場のユーザーが自ら作っているので、カイゼンも容易。ビジネスパーソンが現場の課題にあわせてサクッと作るのに最適と言える。その反面、カスタマイズが苦手なので、凝ったシステムを作ろうとすると壁に突き当たる。kintoneの場合は、こうしたカスタマイズの課題をプラグインや外部サービスでカバーしている。

 ローコードは開発者の省力化を前提としているので、ビジネスパーソンからすればハードルは高い。ただし、できあいのパーツを組み合わせられる一方、カスタマイズのためにコードを記述できるという柔軟性がある。ユーザーインターフェイスのみならず、ビジネスロジック(処理)やデータベースに手を入れられる製品も多いので、開発効率を高めるのに効果がある。

 難しいのは、現状は二者択一ではなく、ノーコード・ローコード両方の特徴を合わせ持つ製品も多いということだ。「GUIで容易」「カスタマイズも可能」といった表現もベンダーごとにあいまいなので、ユーザーも迷いやすい。また、kintoneのようにユーザーインターフェイスから作る方法だけではなく、データからユーザーインターフェイスを設計するツールもある。とはいえ、前述した通り、できることとユーザーが違うため、ノーコードとローコードのどちらに軸足を置いているのか、きちんと性質を見極めて製品選びすることが大事だ。

ポイントは「自社特化業務」と「社員のリテラシ」

 ここまでの説明でノーコード・ローコードに注目が集まっている背景は理解できたと思う。重要なのは、ノーコード・ローコードがどのようなシステム開発にフィットするかという点だ。

 これに関しては、以前記事化した星野リゾートでのシステム開発の技術選択が参考になる(関連記事:伸び悩んだら現場へGo! 星野リゾートのアプリ開発者が気づいた「問う力」)。つまり、まずはSaaSの導入を検討し、難しければノーコード・ローコードを用い、それでも難しければイチから開発するというアプローチだ。星野リゾートの場合、SaaSでできる範囲が少なかったため、ノーコード・ローコードのkintoneで現場のニーズに応えるパターンが多いという。

 では、どのような業務がノーコード・ローコードでの開発に向くのだろうか? ここでは汎用業務、業種・業界業務、自社特化業務の分類で考えたい。

 どこの会社でも必要な会計、人事、労務などの汎用業務は標準化された基幹システムでカバーされることが多い。また、業種・業界業務も専用パッケージやSaaS等で対応できるようになったため、自社開発するより、そちらを導入した方がスピーディだ。問題は汎用業務でも、業種・業界業務でもない自社特化業務だ。

 この自社特化業務は、他社ではやっていない業務なので、当然パッケージもSaaSも存在しない。棚卸ししたら無駄な業務だったということもあるが、企業の競争力の源泉にあたる大切な業務であることも多い。こうした業務データは、パッケージやSaaSにはない顧客属性や経理処理、業務履歴、コメントとして残される。これらの非構造化データの活用がノーコード・ローコードの使い所と言える。

 また、ユーザーのリテラシにあわせてシステムを作れるのも、ノーコード・ローコードの大きなメリットだ。Webブラウザで利用できるSaaSでも、メニューが複雑だったり、用語が難しければ、現場のユーザーは使ってくれない。それに対してノーコード・ローコードであれば、社員のリテラシにあわせてシステムを構築できる。年配ユーザーのためにわかりやすい表現を用いたり、操作につまづきそうな場合にヘルプを入れたり、相手に合わせて画面や操作を設計できるのは、ノーコード・ローコードの長所と言える。

AI駆動型開発の台頭で開発のノーコード化がますます推進される

 ノーコード・ローコードの最新動向として、触れておかなければならないのは、AI駆動型開発との関係であろう。最新動向が刻一刻と変わる中だが、今後の動向について言及していきたい。

 ここまで説明してきたとおり、ノーコード・ローコードは開発のスキルを持たない現場ユーザーによるシステム開発ツールである。しかし、最近では生成AIを活用して、チャット形式でシステム開発を行なえるAI駆動開発が台頭している。代表的な「Dify」は各種処理をブロックのように組み合わせ、ノーコードでチャットボットやワークフローなどのAIアプリケーションを作ることができる。テンプレートも豊富に用意されており、外部サービスとの連携も容易だ。

 こうしたノーコードのAI駆動開発ツールの台頭とともに、「Microsoft Power Apps」や「kintone」、「Claris FileMaker」など既存のノーコード・ローコードのAIの組み込みも着々と進められている。ノーコード・ローコードに組み込まれたAIを使えば、使い慣れたユーザーインターフェイスから意識せずにAI開発を行なえる。専用のAI駆動開発ツールを扱うより早く習熟できるというメリットが生まれる。

 今後はユーザーが作りたいアプリやシステムのイメージを自然言語でAIに伝え、アプリのプロトタイプを作り、現場のニーズに応じて手直しや更新まで任せられるようになる。そして、ノーコードでのAIとの協調開発が当たり前になれば、現場ユーザーはコーディングという作業を意識せず、システム開発で重要な業務フローの棚卸しやデータの精錬に集中できるはずだ。

 次回は代表的なノーコード・ローコード製品をピックアップしていきたい。

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