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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第5回

【JSTnews5月号掲載】NEWS&TOPICS 研究成果/創発的研究支援事業(FOREST) 研究課題 「火星における天気予報の実現と水環境マップの構築」

火星探査プロジェクトに大きく貢献する「地中水拡散モデル」を東北大学の研究チームが開発

2025年05月27日 07時00分更新

文● JST広報課 中川実結

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 火星は次なる有人探査の目標として注目されており、探査時のエネルギー確保や生命維持の観点から、利用可能な火星表層の水分布を把握する必要があります。火星が、以前の海を持つ温暖で湿潤な環境から現在の寒冷で乾燥している環境に変遷したメカニズムを解明することは、生命が存在するための条件を探る上で非常に重要です。

 従来の研究では、火星の地下水分布を推定する際に、火星表面を覆う堆積層である「レゴリス」の物理特性が全球的に一様であると仮定していました。しかし、実際には不均一である可能性が示唆されています。また、これまでの室内実験によりレゴリスの吸着係数が保水能力に大きく影響することもわかっていました。

 今回、東北大学大学院理学研究科の黒田剛史助教らの研究チームは、レゴリスの吸着性などの物理特性が緯度によって不均一であることを考慮した「地中水拡散モデル」を開発し、火星全球気候モデルに実装しました。このモデルにより、地下2メートルまでの水分布を推定し、吸着性の高いレゴリス粒子が豊富な吸着水を安定的に保持していることを明らかにしました。また、中・高緯度においては、同粒子が地表付近に氷を保持し、地中水蒸気の拡散速度を低下させる役割を果たすことも発見しました。この働きが、火星での長期的な水の保持に寄与した可能性があります。

中・低緯度ではレゴリスの吸着係数が大きく、水を地中に安定的に保持する。中・高緯度では吸着係数が小さいが、水はレゴリスに吸着して氷として地表付近に存在している可能性がある。

 今回の研究成果は、世界各国で進行中の火星探査プロジェクトにおいて、地下水マップの作成に大いに貢献することが期待されます。また、この地中水拡散モデルを火星の形成初期から現在に至るまでの時間的、地表からマントル付近に至るまでの空間的範囲に拡張することで、火星表面から失われた水の行方を解明することが見込まれます。

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