CVCの成否を決めるのはその目的と類型にある。海外最新議論を紐解く
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CVCに関する文献
本手法に関して、筆者が実務家にもおすすめしたいと考えたものを、ポイントを示しながら紹介する。
最初に本分野でどのような学術論文が出ているかを把握するために、レビュー文献を紹介する。Huiwenは2014年から2023年までに報告された168件の文献を抽出し、視覚的な分析を行っている。その結果、過去10年間のCVC研究における主要なテーマとして、「CVC対独立系ベンチャーキャピタル」、「CVCの魅力と理論的裏付け」、「CVCの影響とパフォーマンス」の3つを明らかにしている。
*Hu, Huiwen and Mohd Yaacob [2024], "Research Status, Themes and Prospects of Corporate Venture Capital Based on Bibliometric Analysis," Available at SSRN, DOI: 10.2139/ssrn.4734729.
3つ目のテーマはCVCに関わる実務家にとって、特に興味がある話題ではないだろうか。これに関してHaslangerが、既存のCVCのパフォーマンスを扱った32件の研究を分析したメタ分析の結果を報告している。その結論は、CVCは企業の戦略的パフォーマンスと正の相関がある一方で、財務的パフォーマンスとの有意な関係性は見られなかった、というものである。
*Haslanger, Patrick, Erik E. Lehmann and Nikolaus Seitz [2022], "The performance effects of corporate venture capital: a meta-analysis," 48, 2132–2160.
しかし、その関係性には投資のタイミングや企業が拠点を置いている国、所属している産業の影響を受けることにも言及されている。そもそも戦略的パフォーマンスや財務的パフォーマンスをどのように測定するかについても、研究者間での違いがあるようである。一方で、CVCを実施する企業にコストを上回る利益がなければ参入していないだろうとの説明にはそれなりの納得感がある。
多くのCVCが、戦略的パフォーマンスの向上を主な理由として立ち上げられてきた経緯がある。他方で、昨今のユニコーン企業の急増などに伴って、ベンチャー企業への投資がキャピタルゲインにつながる可能性が増大している。そこでSzalavetzはシリコンバレーに拠点を置く12社のグローバル企業のCVCにインタビューを行い、財務的目標への移行が見られるかどうかを検証した研究を報告している。
*Szalavetz, Andrea and Nicolas Sauvage [2024], "The financialization of corporate venture capital investment? The corporation as a venture capitalist," Socio-Economic Review, 22 (1), 373–394.
結果として、あくまでも戦略的目標を優先する姿勢が変わっていないことが明らかにされている。インタビューに応じた人々は、確かに財務的パフォーマンスは重要であるものの、親会社の中核事業からの利益に比べると微々たるものであることを理由として挙げている。一方でCVCが存続するためには一定の財務実績を示す必要があり、フォローオン投資の増加など、独立系ベンチャーキャピタルと似た動きが見られている。
従来の研究が米国や欧州のデータを基にしているのに対して、Dushnitskyは中国企業のCVCに焦点を当てた研究を行っている。中国企業のCVC活動の多くは、従来のICTや製薬などの研究開発強度の高い産業ではなく、電子商取引(EC)や、出版、玩具、教育サービスなどの業界で活発に実施されていることが明らかにされている。つまり技術の窓口ではなく、市場における機会を獲得するために行われている。
*Dushnitsky, Gary and Lei Yu [2022], "Why do incumbents fund startups? A study of the antecedents of corporate venture capital in China," Research Policy, 51 (3), 104463.
本報告によると、中国における技術的なイノベーションやインフラへの投資は政府が担い、ベンチャー企業は既存の技術を利用して国内市場に展開する傾向にある。実際に中国における技術的なイノベーションの主役は大企業で、ベンチャー企業に由来するものは3分の1に過ぎない。これが多くの新興国にあてはまるとすると、今後は売上高の拡大を目指したCVCが増えていくのかもしれない。
最後は人材に関する報告である。BendigはS&P500指数に採用されている133のCVCを対象に、CVCの責任者のさまざまな経験が、探索的/深化的な特許の取得と市場/技術イノベーションの創出に与える影響を調査している。結果は、ベンチャー企業で勤務した経験は技術イノベーションと、ベンチャーキャピタルでの経験は市場/技術イノベーションと、工学や科学の経験は深化的特許の取得と技術的イノベーションと正の相関を示した。
*Bendig, David, Vincent Göttel, David Eckardt and Colin Schulz [2024], "Human capital in corporate venture capital units and its relation to parent firms' innovative performance," Research Policy, 53 (6), 105003.
興味深いこととして、親会社での経験がいずれに関しても統計的な有意性を示さなかったことが挙げられる。これらの研究結果に基づいて、LinkedInのようなプラットフォームを通じて社外から適切な候補者を探すときには上記のような属性に注目し、親会社で経験を積んだ従業員をCVCの責任者に任命しても、パフォーマンスの向上につながらないことを認識しておくことが推奨されている。
おわりに
以上で挙げた文献の多くは、ここ数年間で報告されたものである。CVCに関する研究は特に2020年以降に増加傾向にあり、次々と新しいものが報告されている状況にある。実務家からすると直接的な活用が難しいものも多い一方で、間接的な手掛かりが得られるものは一定数存在するとの感触を持っている。興味がある人は情報収集の一環として、定期的にアカデミアの研究に触れてみてはどうだろうか。
著者プロフィール
羽山 友治
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー
2008年 チューリヒ大学 有機化学研究科 博士課程修了。複数の日系/外資系化学メーカーでの研究/製品開発に加えて、オープンイノベーション仲介業者における技術探索活動や一般消費財メーカーでのオープンイノベーション活動に従事。戦略策定者・現場担当者・仲介業者それぞれの立場からオープンイノベーション活動に携わった経験を持つ。
https://www.s-ge.com/ja/article/niyusu/openinnovationhayama2022
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