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CVCの成否を決めるのはその目的と類型にある。海外最新議論を紐解く

連載
オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド

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 CVCは、オープンイノベーションの代表的な手法の一つとして広く認知されているコーポレートベンチャーキャピタルのことを指す。特に、ベンチャーやスタートアップ企業を対象としたオープンイノベーションの取り組みであるコーポレートベンチャリングにおいて、重要な役割を果たしている。拙著「オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド」(以下、「OI担当者本」)の中でも、折に触れて関連する議論を紹介している。
*羽山友治 [2024],『オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』 ASCII STARTUP,角川アスキー総合研究所。

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 本連載では直近で、ベンチャークライアントベンチャービルダーアクセラレータープログラムを取り上げてきた。そこで本稿ではCVCに関して、最新のアカデミアの研究をいくつか紹介したいと考えている。現時点でCVCチームに所属している担当者や現在進行形で立ち上げを検討している人々に対して、少しでも有益な情報を届けられれば幸いである。

CVCの基本事項

 CVCは、社外におけるビジネス上の機会を追求するために、非上場のベンチャー企業に対してマイノリティー出資を行う手法である。結果として、企業は潜在的に破壊的な知識やトレンドにアクセスし、それを学ぶことで、自社のイノベーション能力を増幅できる。世界的なトレンドとして、2022年までは着実に成長してきたものの、2023年のCVCによる投資件数は前年比32%減と、大きな落ち込みを見せている。
*CB Insights [2024], "State of CVC 2023 Report,"
https://www.cbinsights.com/research/report/corporate-venture-capital-trends-2023/.

 上記レポートでも、アーリーステージの投資割合が63%とあるように、CVCはベンチャー企業と深く長期的な関係を構築することを目指している。主に財務的な成功を追求する独立系ベンチャーキャピタルとは異なり、社内のイノベーションのパイプラインにおける不足分の充当や新技術への窓口、技術面でのリアルオプション、製品やサービスなどのエコシステム形成といった戦略的な目的が重視される傾向にある。

 CVCはコーポレートベンチャリングの中でも費用が高く、成果が出るために5〜10年といった時間を要することから、最も難易度の高い打ち手と言える。最初の波は1960年代で、その後第2波が1980年代、第3波が1990年代から2000年代初頭、そして現在まで続く第4波と、市場を取り巻く環境が悪化するたびに多くのCVCが閉鎖されてきた経緯があり、その活動を継続する困難さを示している。

 CVCは運営も難しく、著名な大企業でさえも数多くの失敗例を生み出してきた。Andrewはその著作の中で、毎週新しいCVCが設立されるものの、その多くが経済の減速・組織改編・CEOの交代で中断されていると書いている。約50社のCVC関係者のコメントが掲載されているが、それぞれの違いが大き過ぎて、どの事例を参考にすればよいか迷うかもしれない。
*Romans, Andrew [2016], Masters of Corporate Venture Capital: Collective Wisdom
from 50 VCs Best Practices for Corporate Venturing How to Access Startup
Innovation & How to Get Funded, CreateSpace Independent Publishing Platform.
(増島雅和・松本守祥監訳『CVC コーポレートベンチャーキャピタル:グローバルビジネスを勝ち抜く新たな経営戦略』 ダイヤモンド社, 2017年)

CVCの設計指針

 さまざまな種類のCVCが存在する現状において、新たに立ち上げようとしている企業が参考にできる設計指針はあるのだろうか。

 Brinkmannaは、CVCの存続期間が独立系ベンチャーキャピタルより短い理由を調査した研究において、投資目的と組織の自立性と構造、組織間の関係、親会社のコミットメント、親会社の規模という5つが重要な影響因子であることを特定している。それを踏まえて、CVCの成功確率を高め、存続期間を延ばすには、親会社の影響を制限することが推奨されている。
*Brinkmanna, Florian and Dominik K. Kanbach [2023], "Lifespans of corporate and independent venture capitalists: a systematic review," Venture Capital, 25 (4), 351-383.

 続いて具体的にどのような変数が存在するのかに関して、Philippは1987年から2023年までに発表された41件の研究を元に、CVCの組織設計における4つの次元と11のテーマを報告している。
*Philipp Frey and Dominik K. Kanbach [2023], "Design dimensions of corporate venture capital programs - a systematic literature review," Management Review Quarterly, 74, 2787-2822.

▶社内の関係性のマネジメント
 ●自律性
 ●社内のポジショニング
 ●コミュニケーションのマネジメント
▶人事
 ●効果的なチーム
 ●報酬
▶投資モデル
 ●機会の創出
 ●投資の焦点
 ●投資プロセス
▶ポートフォリオの関係性のマネジメント
 ●資金以外の提供リソース
 ●企業学習
 ●投資先企業とのコミュニケーション

 上記の各テーマに関して、過去の文献でどのような議論がされてきたのかがまとめられており、迷った際の参考になるだろう。CVCの成否はその目的と類型によって決まるため、組織設計の4つの次元で各々に適した選択をする必要がある。財務的パフォーマンスだけを求める場合は企業学習に注意を払う必要はないし、戦略的パフォーマンスでも、より詳細な目的によって変数の選択が変わってくるだろう。

 CVCを運営する年数が長くなるにつれ、さまざまなノウハウが蓄積していく。それに応じてできることが増えていくため、目的も変わってくるかもしれない。Schückesは求めるイノベーションの種類やCVCの成熟度(年齢)の違いによって、効果的に運営する方法が変わってくることを明らかにした研究を報告している。
*Schückes, Magnus, Benedikt Unger, Tobias Gutmann and Gerwin Fels [2025], "Innovation at the interface: A configurational approach to corporate venture capital," Journal of Business Venturing, 40 (1), 106438.

 本報告では、30社のCVCを対象に、複数の変数の組み合わせが結果にどのような影響を与えるかを分析できる手法を適用し、特に効果的な4つのプレーヤーが紹介されている。まずはこれらの型を基本として、前述のPhilippの報告における次元とテーマを見直していくとよいだろう。

▶①初級のエクスプローラー(探索者)
 ●年齢が若く、低い垂直的/水平的自立性によって特徴付けられ、トップマネジメントのコントロールと事業部の特定の要求の両方に密接に結びついている
 ●既存事業に近い「深化的イノベーション」の創出には効果的である一方で、既存事業を超えるような「探索的イノベーション」は生み出せない
 ●企業内でいまだ正当性を認められていないことから、投資先企業を犠牲にしてでも親会社のニーズを優先する傾向にある
▶②事業部のコラボレーター(協力者)
 ●年齢が若いものと比較的成熟したものに分かれ、垂直的自立性は低いがトップマネジメントチームへの直接報告の義務は負っておらず、事業開発機能と高い水平的自立性を有している
 ●主に深化的イノベーションの創出を目指しているが、未来志向の製品やサービスの開発に焦点を当てており、やや中長期的な視点を持っている。自社の本業から遠い領域への出資など、真に探索的なイノベーションを求める場合には適さない
 ●構造的な統合を通じてトップマネジメントチームと強いつながりを維持するだけでなく、事業部とは距離を置きながらも、事業開発機能を通じて、緩やかではあるが強固なつながりを維持している
▶③初級の両利き使い
 ●年齢が比較的若く、直接報告を介してトップマネジメントチームと連携しつつ、事業開発機能は持たずに高い水平的自立性を有している
 ●主に探索的イノベーションを有する投資先企業への投資に注力するが、既存市場に焦点を当てているという事実によって、深化的イノベーションにつながることもある
 ●既存事業から距離を置く一方で、必要なときには関われる能力を維持することが課題であり、トップマネジメントチームの理解と支援によって達成できる
▶④自立型のコーポレートエクスプローラー
 ●成熟度が最も高く、トップマネジメントチームへの直接報告と事業開発機能を持ちながらも、高い垂直的/水平的自立性を有している
 ●主に探索的なイノベーションに焦点を当てるように最適化されており、最も有望なベンチャー企業の特定を目指すことから、伝統的な独立系ベンチャーキャピタルに近い
 ●独立系ベンチャーキャピタルと差別化するために、構造的には完全に自律しつつも、親会社のリソースを自由に活用できる関係性を築いている

 探索的イノベーションを求めるなら自立性が重要で、既存事業から離しておく必要がある。一方で深化的イノベーションが目的なら、親会社と密接に結びついているほうが好ましい。両方を求める場合は前者のほうが難しいため、まずは距離を置きつつ、トップマネジメントなどを介してつながる工夫が求められる。結局のところ万能のモデルは存在せず、文脈的な要因によって、いくつかの最適な設定があるだけである。

 上記では特定の目的に合わせたCVCの設計指針を紹介してきたが、もちろんそれ以外の変数も存在する。親会社の規模や所属している業界によって、どの程度の規模のファンドを組成すべきか、またファンドの規模によって運営方法が大きく異なってくることも予想される。それに合わせて必要な人材も変わることが、状況をさらに複雑なものとしている。

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