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究極のダイヤモンド半導体の実装を目指すスタートアップがグランプリ。初の知財ピッチが展開された第6回IP BASE AWARD

「第6回IP BASE AWARD」レポート

特集
STARTUP×知財戦略

提供: IP BASE/特許庁

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 特許庁は2025年2月28日、事業と知財で先進的な取り組みをしたスタートアップ、およびスタートアップ支援者を表彰する「第6回IP BASE AWARD」の授賞式を開催した(「JID 2025」内で同時開催)。

 IP BASE AWARDは、「国内スタートアップ知財エコシステムの形成」をテーマに、戦略的な知財権の取得・活用を積極的に実施している未上場かつ設立10年以内のスタートアップを対象にした「スタートアップ部門」と、スタータップ知財エコシステムの活性化に貢献している個人・組織(弁理士、弁護士、VC、投資家、アクセラレター、インキュベーター、企業、研究機関、大学関係者など)を対象とした「スタートアップ支援者部門」の2部門で表彰を行うもの。

 第6回となる今回は、初の試みとして、スタートアップ部門のファイナリスト企業が自社の取り組みをプレゼンするピッチ審査が行われた。選考委員会の事前審査で選出されたスタートアップ6社の中から、ピッチ審査によってグランプリ、奨励賞、オーディエンス賞が決定する。

 本稿では、スタートアップ部門のファイナリスト企業6社によるピッチをレポートし、併せてスタートアップ支援者部門 受賞者の取り組みを紹介する。

【スタートアップ部門 グランプリ】
 大熊ダイヤモンドデバイス株式会社

大熊ダイヤモンドデバイス株式会社 代表取締役
星川 尚久氏

 大熊ダイヤモンドデバイス株式会社は、“究極の半導体”と目されながらも開発難易度の高さから実用に至っていなかった「ダイヤモンド半導体」の社会実装を目指す、北海道大学/産業技術総合研究所発のスタートアップだ。

 東日本大震災で発生した福島第一原子力発電所の事故では、大量の放射線によりあらゆる電子デバイスが故障してしまった。原子力発電所の廃炉事業を進めるにあたって、世界で初めて、放射線環境下や高温・高電力環境下で動作可能なダイヤモンド半導体の実需が生まれた。国立研究所の知見を集結してダイヤモンド半導体の開発が進められる中、量産と納品の役割を担うベンチャーとして2022年に設立されたのが同社である。原子力発電所だけでなく、宇宙、防衛、通信などの分野へのダイヤモンド半導体の実装を進めている。

 創業当初から知財戦略に重きを置き、最初の社員として知財担当者を採用したという。国立研究所と連携しながら事業成長を図るために、研究所へストックオプションを発行して特許出願前に技術を譲渡してもらうなどのスキームを確立。また、ダイヤモンド半導体のGo to Marketの経営戦略と知財戦略を一体化し、技術を適用するマーケットサイズによって技術情報の公開・秘匿をコントロールするオープンクローズ戦略をとっている。具体的には、通信など規模の大きな市場は協調領域と位置づけて技術をオープン化し、他社や研究所との連携を強化。宇宙や原子力発電所といった規模の小さな市場は独占領域として自社の競争力を高めている。

 同社は、知財戦略が経営に大きく寄与するように設計されている点が高く評価されグランプリを受賞した。受賞にあたり、同社 代表取締役 星川 尚久氏は、「技術、研究という原価が不明なものをアセットにしていく上では知財戦略が重要になる。研究所との知財による連携方法をスキームに落とし込むことができた。これらのスキームを広く共有し、ディープテックが産業として羽ばたいていくための礎を築きたい」とコメントした。

【スタートアップ部門 奨励賞】
 株式会社カルディオインテリジェンス

株式会社カルディオインテリジェンス R&D室 室長
波多野 薫氏

 株式会社カルディオインテリジェンスは、心臓専門医不足の医療現場を支援することをミッションに、AIを用いた心臓病自動診断システムの研究、開発、製造、販売を行う。脳梗塞の原因疾患である心房細動を高精度に検出する長時間心電図解析ソフト「SmartRobin AIシリーズ」は、100以上の医療機関に導入されている。

 同社は、日本発の「医療×AI」スタートアップとしてグローバル市場への展開を見据える。そのために、国内外の企業との販売連携による中長期的な事業成長のために事業戦略を一体化した強い特許網が必要と考え、知財戦略に力を入れた。特許出願時には、発明者、事業担当役員、知財担当者で徹底的に議論してひとつひとつの特許を研ぎ澄まし、製品サービスの提供価値を守るための必須要件が網羅されているか、事業戦略との整合性が取れているかといった観点で全役員の承認を得るという。

 知財戦略として、上市済み、製品化段階、開発中のそれぞれの製品サービスについて、技術に関する基本特許に加えて、他社に模倣されやすいUI/UXおよびビジネスモデルに関する特許を網羅的に取得。競合の参入抑制、他社との販売連携、標準化といった事業フェーズの進展と一体化する形で、知財のメリットを活用している。同社は、「医療×AI」という成長性が高い分野で、知財を活用した標準化、事業成長を達成している点が評価され、奨励賞に選ばれた。

【スタートアップ部門 奨励賞・オーディエンス賞】
 株式会社サイキンソー

株式会社サイキンソー 取締役CFO
原 洋介氏

 株式会社サイキンソーは、腸内フローラの検査サービスとデータプラットフォームを提供するヘルスケア分野のスタートアップ。個人向けの腸内フローラ検査「マイキンソー」は16万人以上の検査実績を誇る。

 ピッチに立った同社取締役CFOの原洋介氏によれば、腸内フローラと人々の健康は密接に関わっており、腸内フローラの状態を変えていくことで健康状態を改善できるという。同社は、腸内フローラの状態を変えることに主眼を置き、検査結果と生活習慣のデータから健康状態をスコアリングして可視化する技術を開発。可視化された健康状態を改善するためのパーソナライズされた支援を提供する。さらに、個人向けの腸内フローラ検査・改善支援サービスを通じて得られた健康状態、生活習慣、住んでいる環境などを掛け合わせたデータプラットフォームを医薬品メーカーや食品メーカーに提供し、製品開発に活用してもらっている。

 個人向けの検査技術やスコアリングの仕組み、健康改善支援のビジネスモデルについても特許を取得。知財を活用して、BtoCビジネスをBtoB向けのデータプラットフォームビジネスにつなげ、収益化に成功している。多くの企業がデータを活用したビジネス創出に取り組む中、同社は知財活用によって収益化に成功している点が評価され、奨励賞と、来場者とオンライン視聴者によるピッチ審査投票によって選出されるオーディエンス賞をダブル受賞した。

【スタートアップ部門 ファイナリスト】
 株式会社Godot

株式会社Godot 代表取締役
森山 健氏

 株式会社Godotは、行動原理解明に特化した2022年設立のスタートアップ。神戸とウィーンにR&D拠点を持ち、国際機関や海外研究機関と提携しながら技術開発を行っている。

 設立時から、知財を創出して活用する仕組みづくりに注力し、わずか創業2年の企業でありながら認知バイアスの発見・認知バイアスの解消の分野で30件の特許を出願している(8件は特許登録済み)。オープンクローズを意識した知財ポートフォリオ構築と同時に、オープンクローズ戦略を実施するためのパートナー開拓にも取り組む。

 創業時から、技術者だけでなく全社員が積極的に特許を出願するマインドを持つ土壌づくりを行ってきた。初心者でも特許出願が負担なく進められるように、社内に「知財AIエージェント」を導入したほか、知財専門家に気軽に相談できる体制を整えている。AIを使った調査やシミュレーションによって、事業目標から逆算した特許出願や商標登録のサイクルの高速化を図っているのも同社の特徴だ。

【スタートアップ部門 ファイナリスト】
 シンクサイト株式会社

シンクサイト株式会社 知的財産部・法務部 本部長
奈良 英治氏

 シンクサイト株式会社は、細胞の形態を高解像度で計測・解析する独自のイメージ認識型高速細胞分析分離技術を開発する、2016年創業の企業。計測した細胞形態の波形データを機械学習モデルによって分類し、流体内で水圧を用いて分離する「ゴーストサイトメトリー技術」を有する。2023年に、ゴーストサイトメトリー技術を実装した最初の製品となる「VisionSort」の販売を開始した。

 知財活動として、ゴーストサイトメトリーの基盤技術について大学から独占的なライセンス権を取得。また、VisionSort装置へ実装するプロセスで開発した技術についても特許出願し権利化している。ブランド保護の観点から、製品名、技術名についても商標出願済みだ。

 ライフサイエンス分野のビジネスは、技術開発から事業化までに多くの時間と投資を要するため、収益を維持するための知財戦略が重要になる。今後、VisionSortをラボユースだけでなく臨床診断や創薬の市場へ展開していくにあたり、強い知財で信頼性を示したい狙いもあるようだ。

 さらに同社は、社内で研究成果や技術に関する情報を保護・管理するためにも知財ポートフォリオが重要だと考える。ゴーストサイトメトリーという先進的かつユニークな技術の有用性を認識してもらうためには、研究成果を積極的に発信するマーケティング活動が必要だが、対外発信できる情報かどうかの判断に知財の観点が役立つという。

【スタートアップ部門 ファイナリスト】
 RUN.EDGE株式会社

RUN.EDGE株式会社 代表取締役 社長
小口 淳氏

 RUN.EDGE株式会社は、プロ野球の試合映像の“観たいシーン”を高速に検索できる「高速シーン再生技術」を開発する企業だ。高速シーン再生技術を搭載した分析アプリケーション「PITCHBASE」を球団やプロ野球向けに提供しており、NPB(日本プロ野球)で93%、MLB(米大リーグ)で47%のシェアを獲得している。

 同社が知財を有するシーン再生UXと分析アプリケーションは、プロスポーツ界に新しいカルチャーをもたらした。「従来、プロ野球の映像分析は球団の分析担当者のみが行っていたが、選手が自分で映像を分析するカルチャーができた」と同社代表取締役 社長の小口淳氏は言う。これにより、ライセンス提供のボリュームが増加し、売り上げは5倍になったという。PITCHBASEには、シーンの分析機能に加え、個々の選手にパーソナライズされたダイジェスト映像の自動生成、リアルタイムタイム共有などの機能などがあり、選手が自分のシーンを共有してコミュニケーションすることにも活用されている。シーズン中の選手の平均アクティブユーザー率は72%に及ぶという。

 同社の知財戦略について、小口氏は「特別なことはしていない」と説明する。マーケットが求めるもの実現するための技術を自然な流れで開発し、汎用性が高いものについて特許を取得しているという。マーケットのニーズに応じた開発を行うために、社内ではBizDevチームと開発チームを一体化している。その一方で、プロダクトアウトの姿勢を重視しており、「私たちが目指すのは世界一のものを作ること。そのために、本質のニーズを検知し、常に解決策は私たちから提案する」と小口氏は述べた。

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