国際卓越研究大学認定の東北大学、大学発スタートアップの創出やエコシステムの形成を加速
世界から注目される先端技術研究を強みに数多くのディープテックスタートアップを創出している東北大学。東北大学は、学内のスタートアップ支援にとどまらず、東北から新潟の大学、高専へスタートアップ創出の仕組みを広げる「みちのくアカデミア発スタートアップ共創プラットフォーム(MASP)」を主幹校として運営している。さらに東北大学は、2024年度に「国際卓越研究大学」に認定され、大学発スタートアップの創出やスタートアップエコシステムの形成に力を入れていくこととしている。
東北大学が目指すスタートアップエコシステムのあり方、アカデミアの役割とは。東北大学スタートアップ事業化センターを訪問し、お話を伺った。
アントレプレナーシップ育成から事業性検証、スタートアップ投資までシームレスに支援
東北大学は、建学の理念である「研究第一」、「門戸開放」、「実学尊重」を礎として「知・人材・社会価値の創造」を目指しており、その一環に大学発スタートアップ創出を位置付けている。素材・材料、エレキ・デバイス(半導体等)、ライフサイエンスなどディープテック分野を強みに、199社の東北大学発スタートアップが活躍している(2023年度経産省調べ)。月面輸送サービスの株式会社ispaceや医療アプリを開発するサスメド株式会社などIPO6社、M&A2社と、着実な成長を遂げているのも特徴だ。
東北大学は独自のスタートアップ支援として、アントレプレナーシップの育成、ギャップファンドによる事業性検証の支援、大学発スタートアップへの投資、とシームレスな支援を行なっている。
東北大学の各キャンパスに起業家育成拠点(スタートアップガレージ)を設置
東北大学発スタートアップ創出のための起業家育成拠点として、「青葉山」、「川内」、「星陵」の各キャンパスにスタートアップガレージを設置。ピッチイベントや人材マッチング、起業相談などの支援を提供している。取材で訪問した青葉山ガレージは2022年に開設、コワーキングスペースと法人登記の可能なシェアオフィスがある(13社が入居)。
さらに2024年4月には、新たな起業家育成拠点として青葉山新キャンパスに「青葉山ユニバースA202(エーツーオーツー)」を整備。次世代放射光施設「ナノテラス」に隣接し、さまざまな企業や研究機関と学生起業家が交流するオープンイノベーションのハブとしての活用も期待している。そのほか、東北大学の学生限定の「Garage members」というSlack上のオンラインコミュニティを形成し、起業に関する情報共有や交流会イベントを開催している。「最近は学部生の起業も多くなってきています」と、東北大学の冨岡亜里紗氏は語る。
人材、人脈のエコシステムを構築:経営者候補人材を確保「東北大学版EIR」
東北大学には研究人材こそ豊富だが、企業の成長力には優秀な経営人材が欠かせない。スタートアップの経営者候補人材を確保するため、EIR(Entrepreneur in Residence:客員起業家)制度を導入している。起業家は、東北大学でのスタートアップ支援業務に携わりながら、東北大学の研究成果を活用した起業を目指せる。これまで3名が起業し、現在は2名が活動中である。
また、2020年にはベンチャー、スタートアップ業界に縁のある東北大学OBOGとの交流の場として「東北大学スタートアップ・アルムナイ」を組織化。SNSやオンライン/オフライン会議で交流し、経営者候補や支援者のネットワークが広がっている。
みちのくアカデミア発スタートアップ共創プラットフォーム(MASP)
「みちのくアカデミア発スタートアップ共創プラットフォーム(MASP)」は、東北大学が構築したシームレスなスタートアップ支援の仕組みとノウハウを、新潟を含めた東北7県のアカデミアと共有するために設立された組織だ。
2021年に9校からスタートし、2022年に10校が参加、そして2024年には8国立大学、5公立大学、2私立大学、7高専の22校へと拡大している。MASPでは、「みちのくギャップファンド」による起業支援資金の提供および伴走支援のほか、持ち回りで各地域での定期ミーティングやセミナーイベントを開催し、横のつながりを進めているそうだ。
東北大学の庄子牧氏は、「各地域でも独自のエコシステムが立ち上がってきています。7つの県の大学、高専と連携していますが、仙台に一極集中するのではなく、仙台市や東北大学がハブとなり、それぞれの地域の強みを活かしたプラットフォームと連携していくのが役割です」と話す。
地方の大学発スタートアップは、成長すると東京に出てしまうのが課題だったが、最近は自治体のスタートアップ支援施策が充実し、地域資源を活用した成長を目指すスタートアップが増えてきている。例えば仙台市は、手厚い支援と研究開発環境の充実から、スタートアップの活動拠点として有力な選択肢となっているそうだ。
「国際卓越研究大学」の支援は最長25年間
東北大学は、2023年度に国際卓越研究大学に唯一の認定候補に選ばれ、2024年11月8日付で国際卓越研究大学に認定され、2024年12月24日付で研究等体制強化計画が文部科学大臣により認可された。
国際卓越研究大学は、10兆円規模の大学ファンドを日本政府が運用し、その運用益を国際卓越研究大学に配布する仕組みで、年間約100億円以上の助成を最長で25年間受けられる(計画初年度の助成額は約154億円を想定)。この巨額な資金を基に、研究、教育、ガバナンスなど全領域におよぶ抜本的な改革を行い、世界トップレベルの研究力を実現するのが狙いだ。
体制強化計画として、6つの目標と19の戦略を掲げており、そのひとつがスタートアップの創出だ。社会的インパクトのあるディープテック、社会起業や融合領域など多様なスタートアップの創出・成長をKPIに設定し、最長支援期間の25年目には1500社を創出する、という目標を掲げている。
東北大学の石倉慎也氏は、「目標の達成に向けてさまざまな取り組みを進めていきます。過去10年間続けてきた東北大学のスタートアップ支援システムも抜本的に強化していく予定です。アントレプレナーシップ育成プログラムももっと多くの方に受講していただきたい。そのために、プログラムの数や質の面でも拡充していきたいと考えています」と話す。
そのほか、国際卓越研究大学の資金を活用して、ギャップファンドの支援数を拡大、東北大学ベンチャーパートナーズについては2025年に新しいファンドを組成する計画だ。
最後に、これからのスタートアップエコシステムの目指す形について伺った。
「エコシステムを強くするには人が重要。スタートアップの経験者が大学の支援者やVCをしたり、そのあとでまたスタートアップをしたり、エコシステム内での流動性が生まれるといい。いろいろな立場を経験することで、より成功に近づけるのではないでしょうか。大学にこういう支援があることもまだあまり知られていません。今スタートアップを目指す人が増えてきたことで、VCやアクセラレーターの認知が高まってきました。ほかにもコミュニティマネージャーなど、スタートアップエコシステムには、たくさんの人が関わっているので、いろいろな役割の流動性が高まるような取り組みもあるといいと思います」(東北大学の石倉慎也氏)
スタートアップはうまくいかないことのほうが多く、起業に興味があってもリスクの高さから諦めたり、周囲から反対されたりすることは少なくない。しかし、スタートアップ・エコシステムには、自治体や大学の支援者やVCなど、さまざまな役割がある。エコシステム内の流動性が高まり、多様な役割の認知が広がれば、スタートアップに挑戦する人はもっと増えていきそうだ。































