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キャスター中川氏、ユカイ工学青木氏、コインチェック大塚氏に聞くトップティアで居続けるスタートアップの10年

【JID 2025プレイベント】「10年を経て聞くイチオシのスタートアップ 躍進の秘訣とその先」レポート

トップティアであり続ける秘訣を語るパネルディスカッション

 ASCII STARTUPが2025年2月28日に開催する「JID 2025 by ASCII STARTUP」のプレイベントとして開催された「10年を経て聞くイチオシのスタートアップ 躍進の秘訣とその先」では、現在も第一線で活躍するスタートアップ企業がこれまでの成功の裏側と、さらなる飛躍のための戦略を語った。

 セッション冒頭にはASCII STARTUP編集長の北島幹雄と副編集長のガチ鈴木が、2024年に10年目を迎えたASCII STARTUPの現在と、スタートアップカンファレンスである「JID 2025」を紹介した。

 イベントの冒頭で紹介のあった「JID 2025」は、イノベーションに関わるすべての人々をつなぎ、日本の産業革新を推進する祭典だ。100社を超えるスタートアップ企業や先端テクノロジー企業が一堂に会し、最新のプロダクトやサービスを展示。また専門家を招いたセッションや多くのピッチイベントを通じて、ビジネスマッチングやネットワーキングの場を提供する。

JAPAN INNOVATION DAY 2025
▼ 来場事前登録はこちらから(入場無料)▼
https://jid2025.peatix.com

 今回のイベントではASCII STARTUPが、過去に取材したスタートアップ起業家の中から、現在も活躍を続ける3名として、株式会社キャスター 代表取締役の中川祥太氏、ユカイ工学株式会社代表の青木俊介氏、コインチェック株式会社執行役員CBDOの大塚雄介氏をピックアップ。前半戦はインタビューと、後半戦は3名によるパネルディスカッションを実施した。

 本稿では、イベント後半に実施されたパネルディスカッションの様子をお届けする。メディアとの付き合い方、そしてその生存戦略、この先10年の未来予測などが語られた。(本文敬称略)

創業初期のメディアとの付き合い方

ASCII STARTUP 北島:中川さん、青木さん、大塚さん、よろしくお願いします。最初に、創業初期のメディアとの付き合い方、こういうふうに使ったよというところを教えていただけますか? メディアでなくとも、スタートアップが自社の価値を上げるにあたってのご意見を聞きたいと思います。

 まず中川さん、株式会社キャスターはコロナ禍の前から「フルリモート」という言葉を使って、新しい働き方の概念を提案し、アシストしてきたと思うのですが、メディアをうまく使おうという戦略はあったのでしょうか?

株式会社キャスター:リモートワークを活用した人材サービス「CASTER BIZ」を提供している。リモートアシスタントを通じて人事・労務・採用などのバックオフィス業務をサポートし、企業の業務効率化と柔軟な働き方を支援。2023年10月4日に東京証券取引所グロース市場に上場した。
2016年9月9日掲載「業務を極限まで最適化!キャスタービズが考えるリモート×ボットの未来」(関連リンク)https://ascii.jp/elem/000/001/221/1221982/

キャスター 中川:超初期ということですよね。私たちの会社では創業したタイミングからPRコンサルティングについてもらって、メディアキャラバンをしっかりやらせていただきました。そのときに、いろいろなつながりを作らせていただいたので、もう右も左も分からない中、とりあえず頑張って連絡するみたいな。マーケティングがどうこうという話よりも先に、まずはメディア対策を最優先事項として動いた記憶がありますね。

北島:そこは教科書的というか、しっかり動いたということですね。今でも、全部のスタートアップ企業がやっているかというとそうはなっていないと思います。まったくしない会社もありますね。

中川:そうですね。ただ、やらない理由もないじゃないですか。多少、コストがかかりますけど、やったほうがよいとは思いますね、そこは。

北島:続いては青木さん、ユカイ工学株式会社はハードウェアスタートアップですが、メディアとはどういう付き合い方をされてきたのですか?

ユカイ工学株式会社:コミュニケーションロボ「BOCCO」など、独自のロボットやIoT製品の開発、販売、受託開発やDX支援も提供。直近でも、熱いものを冷ますふーふーロボット「猫舌ふーふー」などをCESで発表。
2014年12月21日掲載「“人と暮らせるロボット”に大切なものとは?ユカイ工学・青木俊介氏に直撃」(関連リンク)https://weekly.ascii.jp/elem/000/002/628/2628808/

ユカイ工学 青木:そうですね、僕らも創業当初からプレスリリースはしっかりと書くようにしていました。というのも、私、前職でpixivというコミュニティサービスをやっていたのですが、pixivが立ち上げ初期に大きな話題になったのもプレスリリースをきちんと書いていたからなのです。

 某メディアが取り上げてくださって、それがYahoo! ニュースに転載されて、そこでpixivに登録者が来てくれたのです。ユカイ工学の場合はプロダクトがハードウェアなので、pixivほどではなかったですけど。最初のころはいろいろなメディアに載せていただくだけで一喜一憂していました。メディアキャラバンもやっていました。

北島:大塚さんはいかがでしょう。コインチェック株式会社は暗号資産を扱うということで、特に留意したポイントはありましたか?

コインチェック株式会社:2012年設立の暗号資産取引所を運営する企業で、暗号資産取引サービス「Coincheck」を提供する。2018年にマネックスグループ株式会社傘下に入ったのち、2024年12月に親会社であるCoincheck Group N.V.が米ナスダック市場に上場。
2016年2月19日掲載「「勝算はないからやめておけ」猛反対の中でビットコイン市場を開拓したcoincheck」(関連リンク)https://ascii.jp/elem/000/001/120/1120092/

コインチェック 大塚:創業時を思い出してみたのですが、会社の物語を作るというところを結構やっていましたね。どうしても最初はプロダクトの実績がない。となると、あるのは創業した私たちだけです。自分たちのユニークネスは何だろうと言ったときに、私たちは最初別事業からスタートして暗号資産へピボットするわけですが、「なぜピボットなのか」みたいなところがあったと思います。

 当時は、スタートアップが複数の事業をやるということがあまりなかった。1つのプロダクトをやるという人たちが多い中で、自分たちの特異性みたいなものを自分たちで言語化し、それを伝えるのがよいのかなと考えていたように思います。「こいつら、暗号資産をやっているぞ」みたいな感じで見つけてもらう。

 ただ、暗号資産は当時はまだちょっとうさんくさく見られていたプロダクトでした。次に、その解説が求められる時代になって、わかりやすく解説できる人が必要だなと。そう思って、できるだけわかりやすい言葉を使って話すようにしていました。すると、メディアの方が自身を理解するために私を呼んでいただけるようになったというところがあります。

 わかりやすく説明することを心がけていると、記者の方も暗号資産だったら大塚に聞いてみようという形になって、どんどん皆さんが呼んでくれる、使ってくれる。そうした需要に応えていくと、だんだんメディアに出していただけるようになります。

 そこからわかってきたのは、メディアで採り上げていただくのには段階があるということ。やはり、メディアの方も「この人を取材していいのかな?」というところをリファレンスするのが難しいようで、まずWebメディアに出て、雑誌に出て、そこから深夜テレビに出る。深夜からゴールデン、こういう順番だったことに気づき始めて、そこでWebメディアにもできるだけ私が出るような形にして、どんどん実績を蓄積していくというのを戦略的にやっていきました。もう1つ、書籍を出版することで、そこがまたリファレンスになってくる。トライアルしながら、やってきたというところがありますかね。

スタートアップピッチの使いこなし方

北島:みなさん過去に数多くのピッチをされてきたと思いますが、これまでやってきたピッチのアピール方法について教えてください。あるいは、10年経って、振り返ってアドバイス等があれば。青木さん、いかがでしょうか?

ユカイ工学株式会社代表の青木俊介氏

青木:ピッチですか、最近はまったくないですね。私はもう全然、ピッチのお作法がわからなかったので、こんなロボットを作っていますと映像で流して時間を稼いでいました。でも、資金調達が目的であれば投資家のアジェンダに合わせていかないと、コンテストでも上位にはいかないと思いますし、そこから良い話につながることはないと思います。僕たちは結構苦手意識があったので、あまり積極的には参加しませんでしたし、それで資金調達にも特に不都合はありませんでした。

大塚:僕らは、そもそもピッチができなかったですね。暗号資産というだけでピッチに出させてもらえなかったのです。当時はあまりにもビットコインがうさんくさいと言われていて、コンテストに申し込んでも全然駄目でした。「Morning Pitch」に出ても、「暗号資産やっているの?」みたいな感じで言われてしまって。

北島:中川さんはいかがでしょうか。

中川:ピッチは個人的には得意なジャンルだったので、「TechCrunch Tokyo」といった大きなスタートアップイベントでもファイナリストに残ったりしましたね。得意だったので、あまり練習しなかったのですが、いまでも悔しいなと思うのが、SmartHRのピッチです。

 SmartHRの宮田さんがかなり練習してきたことがわかる、しっかり骨太なピッチをやられたのを見て、あ、これは駄目だなと。得意だから適当にやっているみたいな世界ではもうなくなっていて、しっかりやらないと駄目だなと痛感したのがそのタイミングでした。そのあと、SmartHRがぐっと伸びる流れになりましたし。やはりスタートアップにとってのピッチは、それをもとにその会社がドライブできるかどうかという命運を握っているものだと思います。SmartHRのピッチは、本当にそれくらい時代の流れをもっていった瞬間だったなと思います。

PMF(Product Market Fit)のポイント

北島:顧客の課題を満足させる製品を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態、いわゆるPMF(Product Market Fit)がスタートアップとして稼げるようになる指標として用いられますが、PMFに関して、創業者だけに見えている、そのためのきっかけやポイントというものは何かありましたか?

コインチェック株式会社執行役員CBDOの大塚雄介氏

大塚:B2Bに関してはまた全然違う話になると思いますが、これはコインチェックの場合で言うと、まず状況として私たちは暗号資産取引サービスの領域に最後方で参入したわけです。私たちが入る段階で、もうすでに暗号資産を事業にしている会社がありました。

 そこで、私たちはまずプロダクトを10倍良くして、手数料ゼロで参入しました。競合のサービスを使っているユーザーにひたすら連絡をしていたという状況です。特に、暗号資産の交換所はユーザーの売買のボリュームが多ければ多いほどプラットフォームとして強くなっていきます。なので、ずっと手数料ゼロでひたすら取引ボリュームを増やしていきました。そうして、競合サービスが耐えられなくなってきて手数料をゼロにする、その瞬間に私たちは手数料を入れました。

 無料だったものを有料化してもユーザーが使ってくれる、これはPMFが来た瞬間だなとそこで思いました。ユーザーに対して価値を提供できているという形になって、そこからすごく伸びていった。ユーザーがお金を使って継続して自分たちのサービスを使ってくれるかを見ていたというところはあります。

北島:青木さん、ハードウェアの場合はどうでしょうか?

青木:PMFと言っていいのかどうかは微妙なところではありますが、新製品を発表するとSNSなどでバズって問い合わせが世界中から来ることは何度か経験しています。ただ、ハードウェアの場合難しいのが、先に映像で「こんなものを出します」と発表して、それが運良くバズったとして、そこからクラウドファンディングで予約注文を取って、届くのは半年以上先となってしまう。話題性を全部刈り取れていないなという悩みがすごくあります。

トップティアに居続ける秘訣

北島:これまでを振り返って、業界のトップティアにいるためのポイントを教えてください。

中川:もしかすると、この3社それぞれ同じ状況かもしれないと思っているのですが、自分たちしかやっていない状態というか、自分たちしか継続できなかったという状態なのかなと思います。いろいろなことがあって社会が大荒れする中で生き残るだけでも、もう相当な覚悟が必要で、関係者全員、相当に肝が座ってないと、会社は簡単に解散してしまいます。その中で、とりあえず一番最後まで死なないで生きている、そう決めているだけなので。それだけという感じはしますね。

株式会社キャスター 代表取締役の中川祥太氏

青木:中川さんもそうですし、大塚さんもSNSやメディアでオピニオンリーダー的なポジションをしっかり確保されていると拝見していたので、そういった発信力というのも重要なポイントなのかもしれないですね。

大塚:これは、暗号資産、B2Cということはあると思うのですけど、勝負どころを間違えないというところだと思います。我々暗号資産取引サービスでいうと2017、18年が勝負どころでした。そこで勝負し切れるかで、その後のすべてが変わったという。よくある間違いで、勝負どころが来ていないのに勝負してしまう人が結構いるのですよね。いまじゃない、という。

 サイバーエージェントの藤田晋さんが非常に良いたとえを仰っています。藤田さんは創業のころを振り返って、いろいろな会社がある中で「いっせいのせ」で、水を張ったたらいに全員が顔をつける状況が"起業"だといいます。みんな苦しくなって、自分のタイミングでバッと顔を上げて勝負に行ってしまう。でも、苦しい状況でもずっと耐えて、最後まで乗り越えて、世の中の勝負どころが来たタイミングで勝負に出たと。やはり自分のタイミングではなくて世の中のタイミングで勝負するというのが重要だったりするわけです。

スタートアップのファウンダーとして、次の10年をどう見るか

北島:最後に、次の10年をどう見ますか? どのような変化や対応が求められるでしょうか。

中川:キャスターとしてはシンプルで、リモートワークを追求して10年走ってきましたが、要するに働き方に関して、常に疑問を持ってきたわけですけど、運がいいのか悪いのか、AIが出てきてしまった。AIは「働き方」そのものを再定義しようとし始めているので、それに対して、我々はしっかり答えを持っていく、「みんな、こうやって仕事とかと向き合って生きていく必要があるよね」というものを示すことが、次の10年に必要なのかなと思っているというのが現状です。

青木:ユカイ工学としては、もうちょっと早くロボットが盛り上がるかなと思っていたのですが、この10年は耐え忍んで生き延びた感があります。ようやく生成AIの登場などもあって、注目もされているので、いよいよ大ヒット商品を出したいなと思っております。

大塚:米国でトランプ氏が再び大統領になり保護主義的な政策を打ち出しています。米国に加えてヨーロッパも保護主義に移行しています。各国が自国の利益を追求することで、世界全体として見るとこれからさらに不安定な時代に入っていってしまうのかなという気がしています。世界の政治や経済の情勢が不安定になってくると、暗号資産の価値が出てきて、暗号資産市場が盛り上がってきます。非常に悩ましいパラドックスですが、自分たちの事業が世の中に対してどう価値を出していくかを問い続けていきたいと思っています。

 

「JID 2025 by ASCII STARTUP」開催概要

  【開催日】2025年2月28日(金)10:00~18:00
  【会 場】ベルサール汐留
  【主 催】ASCII STARTUP
  【共同開催】XTC JAPAN 2025(XTC JAPAN)
  【同時開催】IPナレッジカンファレンス for Startup 2025(特許庁)
          PLATEAU STARTUP Pitch 03(国土交通省)
  【公式サイト】https://jid-ascii.com/

  【参加⽅法】事前登録制(下記よりお申し込みください)
        参加チケット申し込みサイト(Peatix)

  

 

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