国のオープンデータ、どう見せる?どう使う?
【ハッカソン】 LINKS:DATA x Hackathon レポート
国土交通省は、省内のさまざまな行政情報をデータとして再構築し、オープンデータとして提供する新たな取り組み「Project LINKS」(以下、LINKS)を2024年4月にスタートした。その展開と平行して、国土交通分野にかかわるデータを活用した官民のさまざまな分野でのユースケース開発を推進するため、2024年度は、「LINKS:DATA × Hackathon 国土交通分野のオープンデータ活用チャレンジ」と題して、キックオフイベント、アイデアソン、ハッカソンの3形態のイベントを開催。一連のチャレンジイベントを締めくくる第3弾のハッカソンが、11月23日と11月24日の2日間、開催された。
今回のハッカソンは、エンジニア、デザイナー、プランナー、起業家、学生や研究者、行政関係者など様々な立場の個人、チームの参加を募った。参加者は、実際にLINKSのオープンデータを使って新しいサービスを作り上げ、社会課題解決への貢献度やオープンデータ活用促進のインパクト、技術やUIの完成度などを競う。
10月5日開催のアイデアソンでは、LINKSのパイロットプロジェクトとして試験的に作成した9種類のデータを、当日参加者のみに一部を限定公開した(関連記事:https://ascii.jp/elem/000/004/235/4235419/)。ハッカソンでは、これらのサンプルデータをデータ件数/範囲を拡大し、参加者のみに限定公開。サンプルデータを利用した参加者からのフィードバックを通じ、今後のオープンデータの拡充と改善を図る。ハッカソンでLINKSが用意した9種類のデータは以下の通り。
Open Data ① 一般旅客定期航路事業データ
一般旅客定期航路事業許可申請書や事故調査報告書、気象庁の海上分布予想データ。
Open Data ② 無人航空機飛行計画データ
無人航空機(ドローン)の飛行計画、事故等報告一覧、操縦者リスト、機体登録データ。
Open Data ③ 貨物自動車運送事業データ
貨物トラックの事業(貨物自動車運送事業)に関する事業報告書、毎月の勤労統計調査データ。
Open Data ④ 内航海運業事業データ
内航海運業(貨物船の運送、貸渡し、管理をする事業)に関する事業概況報告書(営業概況/損益明細書等)や登録申請書のデータ。
Open Data ⑤ モーダルシフト関連データ(貨物船、貨物鉄道、経路検索データ)
モーダルシフト(トラック等による貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換すること)に関連する、JR貨物の時刻表、JR貨物駅の位置情報、貨物船とフェリーの時刻表、および複数交通モードの経路探索結果のデータ。
Open Data ⑥ 国土交通省組織管内図データ
河川や道路を含む管内図(国土交通省の各出先機関が管轄するエリアを示す地図)のデータ、所管組織・所管業務・所管手続のデータ。
Open Data ⑦ 倉庫業データ
倉庫業の登録関連データ、倉庫使用状況報告データ、事業者棟別リスト、物流拠点データ。
Open Data ⑧ 自動車運送事業事故データ
自動車運送事業の事故報告書、警察庁の交通事故統計情報のデータ。
Open Data ⑨ GTFS-Schedule/GTFS-RT
GTFS(General Transit Feed Specification)は交通関連情報をデータとして配信するための国際標準仕様。公共交通オープンデータセンターから、国内では鉄道、バス、航空、シェアサイクルに関するデータセットを公開中。
上記のデータを使って、8チームが2日間にわたるハッカソンに挑んだ。1日目はチームビルディングから始まり、開発方針の中間発表を経たのち開発をスタート。2日目は16時の成果発表まで、各チームが開発、発表準備に取り組んだ。なお、本ハッカソンには以下の5人のメンターが参加し、アイデアブラッシュアップと、試作品作りのテクニカルアドバイスを行った。司会とファシリテーターをエンジニア・タレントの池澤あやか氏が務めた。
ここからは、各チームの成果発表の内容を、審査時のコメントとともに紹介する。審査員は以下の3名。
ここからは、参加者の成果を紹介する。
“船に乗りたいだけ”を叶える
チーム「フェリーナビ」は、船を移動手段だけではなく“体験”として乗船したい人々のニーズに応えるアプリ「船旅およびモーダルシフトに係るデータ可視化」を開発した。子供の教育や福祉に関わる仕事をしているという同チームのプレゼンテーターは、本システムの着想について、「子供たちは、どこか目的地へ観光に行きたいのではなく、船に乗ること自体を楽しみにしている」と説明。しかし、鉄道や飛行機と比較して、船は運航する事業者が各地に点在しているため、情報をまとめて参照できるサイトなどが少ない課題があるという。
そこで今回、LINKSが用意した一般旅客定期航路事業データ、内航海運事業データ、モーダルシフト関連データを使用し、船の情報を整理して可視化するアプリを開発した。乗船自体を目的とした情報にニーズがあるのと同様に、「飛行機を近くで見たい」、「貨物列車を見たい」など、公共交通機関や交通施設の公開情報の用途は広い。モーダルシフトデータがオープンデータ活用の裾野を広げていく可能性を示した。
審査員からは、アイデアの切り口について高評価を得た。「(モーダルシフトデータの活用については)みんな、A地点からB地点までの距離を最適化するといった使い方を考えてしまうが、そういう使い方ではないところがよい」(吉村氏)。これに対して、「船は種類ごとに法律が分かれており、申請区分も異なるため、オープンデータとして網羅されていない部分がある。船に乗りたいという思いに応えるには、すべての申請書をなるべく簡単な形で公開していく必要があると感じた」と発表者は回答した。
船舶事故をシミュレーション、安全意識を高める
チーム「磯子の虹」は、船舶事故のリスクを警告し、安全意識を高めることを目的としたWebアプリ「全国船舶事故3D体験マップ」を発表した。今回LINKSが用意した船舶事故等調査報告書データのサンプルと、PLATEAUの3D都市モデルデータなど既存のオープンデータを組み合わせて、船舶事故統計、船舶事故検索、3Dマップ体験の3つの機能を実装した。3Dマップ体験では、事故発生時の海上の明るさや気象状況をシミュレーションできる。
この先の展望としては、実際の船の3Dモデルを地図に組み込んで船の動きや特性をより直感的に体験できる機能、事故発生時の状況を体験できる事故シミュレーション機能を実装し、船舶の安全に関する教育に役立てていきたいとした。
審査員らは、UI/UXの完成度を評価。「(船舶事故データなどの)まさに王道の使い方。LINKSでも同様の検索ダッシュボードを作っているが、画像のUIなどこちらのWebアプリのほうが勝っている。今後の国土交通省の開発の参考になる」(内山氏)。
トラック事故の原因をAIが自動判別、再発を防止
チーム「アクシトラック」は、自動車運送事故データを活用し、トラック事故の原因究明(分析)を行うシステムを開発した。トラックの交通事故は大きな被害を引き起こすため、ドライバーの長時間労働の改善などの取り組みが全国で推進されている。しかし、交通事故の分析は、県単位で件数統計や自己記録が偏っており、個々の事故の原因を掘り下げた分析が不足している課題がある。人手で個別原因を分析するには手間がかかり、見落としが生じやすい。
この課題を解決するために、同チームは、自動車事故を自動分析して可視化するシステムを開発した。自動車運送事故データとGoogle Mapの画像データを組み合わせて、道路起因の事故か、ドライバー起因の事故かをAIが自動判別する。主に役所や運送会社を想定ユーザーとするシステムだ。今回の発表では、マップ上にプロットした事故を、自動判別結果によって「速度超過」「飲酒」「危険道路」「労働時間」でソートするUIを実装している。この先の展開として、道路起因の事故の場合は、カーナビと連携してその地点を通行する際にドライバーへ注意喚起する機能を提案した。
審査員らは、GPT-4oを使って事故原因分析をしている点に着目。発表者は「今回のLINKSのサンプルデータには、衝突の状況など記載が入っていない。AIが原因分析するために必要なデータが不足している気づきがあったので、今後、拡充していきたい」とコメントした。
仕事帰りの寄り道ルートを提案、地域活性化にも寄与
チーム「寄り道研究所」は、指定した経路沿いにある観光スポットをリコメンドする「GTFSデータを使った寄り道経路検索」アプリを発表した。出発地と目的地を設定すると、その沿線でおすすめのスポットを通るような寄り道ルートを提案する。退勤後に少し時間があるときや、疲れた日の息抜きに、寄り道をして楽しみを見出すことができるコンセプトだ。地域の活性化や新たな観光資源の創出にも寄与する。
オープンデータとして、公共交通データ(GTFS)、リアルタイム乗換案内データ(GTFS-RT)を活用した。入力した出発地と目的地をもとにChatGPTがその沿線のおすすめスポット検索。オープンソースの経路探索エンジン「OpenTripPlanner」を用いて寄り道プランを作成、提案する。完成度の高いUIに、審査員からは実装についての質問が相次いだ。
バス利用を考慮した不動産探しを可能に
チーム「A(アルファ)」は、通勤時間ベースで不動産検索をするAPIとWebアプリ「GTFSデータを使った通期/通学時間起点 不動産探しAI」を発表した。職場へのアクセスを重視した不動産選びにこだわりが強い4名で構成される同チームは、自分たちが使うことを想定して開発を行ったという。
GTFSデータのうち、今回のハッカソンで限定公開された「地域のバス時刻表データ」に着目。「土地勘のないエリアで不動産情報を探す際、鉄道駅からの徒歩何分以内という情報が基本となる。バスの利用を想定した不動産探しができると便利なのではないか」という開発コンセプトだ。バス停名、バス停の位置情報、バスの時刻表のデータをコアに、通勤先住所、希望通勤時間、エリアを入力すると候補の不動産情報を出力するAPIを開発した。またWebアプリには、不動産情報の検索条件を入力するとマップ上に候補を表示して、実際の物件情報にアクセスできるUIを実装している。
審査員からは、新規追加データを積極活用した当システムの発展の可能性について高い評価を得た。「目的地まで行きやすい不動産を探すとき、本来であればバス、電車、自転車、船などあらゆる交通手段が考慮されるべき。不動産探しの現場であまり考慮されていない交通手段のデータを追加していくと、このシステムはどんどん進化していく」(小林氏)。メンターの久田氏からは「(バスを考慮することで)街の価値の上昇や、バスのダイヤ改正にもつながっていくのでは」とコメントがあった。
大型タンカーの操作をゲームで体感、事故防止の意識を高める
チーム「河野研究所」は、一般旅客定期航路事業データの「船舶スペックデータ」を活用したゲームアプリ「シンクロ船体」を発表した。このアプリは、体を使って船舶の操作を体感するもの。「いずれ、船舶の事故予防アプリは誰かが開発する。しかし、船の操縦に馴染みがない人がアプリの必要性を理解できるのか?」とプレゼン。本アプリを通じて、一般の人に「大型タンカーは前進している時にしか旋回できない」「急に発信・停止ができない」といった特性から、タンカーの衝突事故回避が困難であることを体感してもらい、事故予防のためのアプリの必要性を理解してもらおうというのが開発コンセプトだ。
モーションキャプチャデバイスを使い、両手を上げると前進、曲げると旋回といった操作ができる。審査員からは、「オープンデータを活用したゲームで、体を使って誰でも理解できるようにしたアイデア」が評価された。また、当アプリは参加者とオンライン視聴者の投票によるオーディエンス賞を受賞した。
災害時に倉庫を守る、被害額も推定
チーム「ソウ子を守れ」は、防災関連データと倉庫関連データを組み合わせて、災害時に倉庫の代替拠点を選定するシステム「事業のための倉庫連携プロジェクト」を開発した。活用したLINKSのオープンデータは、倉庫登録情報データに含まれる「倉庫業登録申請書」と「期末倉庫使用状況報告書」だ。申請書には危険物取り扱いの情報が入っていることから、災害時の撤退についても検討できるのではないかという観点で、システムの着想に至った。また、期末倉庫使用状況の情報から、災害時の被害金額や影響日数を算出できる。防災関連データとして、国土交通省が出している水害被害実態調査を使った。
当システムでは、倉庫を属性(危険倉庫、冷蔵倉庫など)ごとにグルーピングし、災害時に復旧するまでの期間を推定して、同じ属性で対応できる倉庫の抽出を行う。また、想定される被害額が大きいエリアを色の濃淡で示し、企業の倉庫や工場誘致戦略に役立てる。今後の展開として、企業の事業継続計画(BCP)に対応できるよう、水害時の復旧タイムラインの追加や、道路ネットワーク情報との連携を検討していくとした。
審査員らは、当システムの実用性を高く評価。「このデモを見ただけでも、ハザードマップのリスクエリアの上に工場があることがわかる。事業リスクの可視化ができて非常に有用だと感じた」(小林氏)。
かわいいチャットボットが行政手続きを案内
チーム「リンチャレ」は、チャットボット「行政手続きお助けチャット powered by LINKSちゃん」を開発した。自然言語で問い合わせをすると、生成AIが管内図データから必要な情報を抽出し、難解な文言を一般の人でも理解しやすいように要約して回答を返す。行政手続きについて調べたいときに、どこに問い合わせたらよいかわからない、課題を解決する。
デモでは、チャットボットに「北千住の河川敷で祭りを開催したいけど、どこになにを申請すればいいかわからないよ」と入力すると、管轄の役所の情報と連絡先、必要な手続きについての説明を平易な言葉で出力する。
審査員らは、LINKSのデータの活用度合と、行政の新しいインタフェースとしての完成度を高く評価。「このようなチャットで行政手続きまで完了する、そのような未来が見えた。非常に可能性のある作品」とした。当チームをグランプリに選んだ。
イベントの最後にProject LINKS テクニカル・ディレクター 内山氏は、今回のハッカソンの総括として、「LINKSが公開するデータは、これまで国土交通省が出してきたGISと比べてわかりにくいものが多い。このハッカソンでは、ダッシュボードによる可視化、工夫されたインタフェースの実装など、難解なデータをわかりやすくして活用していくチャレンジが多く、大きな成果があった。今回は、みなさんのおかげでさまざまな示唆があり我々も学びの多いイベントとなった」と述べた。



























































