例の基幹システムを絶賛リプレース中 データ分析を身の丈に
そんなオタフクホールディングスのIT推進室はシステムデザイン課と生産システム課の大きく2つに別れる。倉庫の二階をリノベーションした広島オフィスのほか、九州や大阪からもサテライト勤務している。
もともとオタフク自体は「機械に任せられることはなるべく機械に」という志向が強く、古くからIT化が進んでいる会社だった。そんな中、販売管理、在庫購買、会計を行なう基幹システムとして2004年に導入したのが、今話題のSAP ECC6.0。2025/2027年にサポート終了が宣言されており、オタフクソースもご多分に漏れず後継であるSAP HANAへの移行を進めている最中だ。「来年の5月に切り替えの予定です。なにもニュースが出なければ、無事終わったとお考えください(笑)」という岡本氏のコメントには会場からも笑い沸き起こる。
今回のデータ分析基盤の話は、20年前にSAP ECC6.0と同時に入れたSAPのBIであるBW(SAP NetWeaver Business Warehouse)のリプレースが大きなテーマだ。このときはお金と余力の問題もあったので、販売と会計のデータのみを扱っており、一部はWebの帳票ツールに外出しして使っていた。「SAP HANAへのリプレースでBIもいっしょに入れようと思ったのだが、SAPって高い。導入も高ければ、運用も高い」とのことで、身の丈にあったものにリプレースすることにした。
従来から使っていたBWにもいろいろ課題があった。BWはExcelベースのGUIで操作できるのだが、グラフ表示するためにはユーザーの加工が必要だった。また、操作も難しいし、なによりSAPデータしか活用できていない。「ユーザービリティを上げ、データーの網羅性のある基盤を作ろうということになった」ということで選択したのが、Amazon QuickSightになる。
Amazon QuickSightを選んだ理由は、直感的な操作で帳票作成やダッシュボード作成ができるほか、社員全員の利用を前提に従量課金で利用できることが挙げられる(ちなみに当時は従量課金制だったAmazon QuickSightだが、その後固定料金制に変更されたとのこと)。さらにベンダーが伴走して、Amazon QuickSightの構想を練ってくれたのも大きかった。「これならAmazon QuickSightに移行できるという見通しが付いた」と岡本氏は語る。
帳票レイアウトは現場とヒアリング AI活用できる基盤を作りたい
Amazon QuickSightの導入は2022年頃から2つのステップを経て導入した。ステップ1はBWの課題を意識したトライアル帳票の作成。こちらはITスタッフで開発をトライアルしつつ、社内での反応を見るためのプレリリースの意味合いがあった。ステップ2は、2023年から始まったSAPマイグレーションと連携しながら、BWをAmazon QuickSightに移行している。
ステップ1で作成した帳票は、たとえば卸のデータを地図にマッピングし、どの店舗でオタフクソースの商品を販売しているかを調べる販売店検索や、本社から工場のラインごとの稼働状況を見るための帳票などがあったという。
こうした帳票を棚卸しすると、グラフで可視化され、直感的にわかりやすく表現された「ダッシュボード帳票」のほか、商品別など利用頻度の高いレイアウトを定義した「固定帳票」、行や列、集計項目を自由に選択できる「自由分析帳票」の3種類に分類できることがわかった。固定帳票に関してはBWとWeb帳票でカバーしており、37本程度。自由分析はBWから出力されたExcelをベースにした帳票が500近くあったという
実際どのような帳票レイアウトがよいかを検討するにあたっては、500近くある自由分析帳票も合わせて参照しつつ、実際に使っている経営陣や営業などのメンバーに詳しくヒアリング。まずは販売管理系の帳票からリリースし、2025年に会計系の帳簿をリリースする予定だ。
具体的にはSAPシステムやライン管理システム、社内WebアプリからのCSVファイルをAWS CLIでAmazon S3に放り込み、DWHサービスのAmazon Redshiftを介して、QuickSightでレポート化している。生データをデータレイクのS3に取り込み、DWHのRedshift、データマートのQuickSight SPICEという流れで、データの加工を進めているという流れだ。
全体のジョブ制御はAmazon StepFunction、データの編集・加工といったETL処理はAmazon Lambdaを利用。これらデータレイク、データマートなどの基盤は、ベンダーに構築を依頼しているという。コスト削減に向けても、「閲覧者」という安価なユーザーライセンスで自由分析帳簿に利用できるようにしたり、過去データの閲覧制限を設けて月額の利用制限を行なったという。岡本氏は、「来年5月になり、基幹系システムの移行が終わったら、購買や生産データも取り込んでいきたい。将来的には社内のデータを網羅し、AIを活用できるような、世代を更新できる基盤にしていきたい」と今後の抱負を語って登壇を終えた。