松岡氏「AIが人間の思いつかないような科学的アイデアを生み出すのが究極的な姿」
理化学研究所 計算科学研究センター センター長の松岡聡氏は、スーパーコンピューターとAIの進化がもたらすイノベーションと、理化学研究所がどのような研究開発を行なっているのかについて講演した。
まずは、理化学研究所で開発・運用しているスーパーコンピューター「富岳」について紹介。富士通と共に開発した16万ノードのARM CPUが搭載されており、大きさは約3000m2、使用する電力は20メガワット。これを1台のスーパーコンピューターとして使用しているとのことだ。
次に、AIとHPC(High Performance Computing)が、実験解析のデータやシミュレーションのデータからリアルな世界をモデル化することが可能となり、今後科学技術を進歩させていくという見通しを語った。その具体的例として、線状降水帯の予測、300メーターサイズの巨大洋上風車を設計するためのシミュレーション、タンカーのような巨大な船の設計などを挙げた。
そのうえでさらに先の見通しとして、AIサイエンスが社会イノベーションにおよぼす貢献は、インターネットやPCよりも大きなインパクトがあり、科学と人間の科学者に対するコパイロットとなり、さらには人間の科学者を置き換え、人間が思いつかなかったような新しい科学的なアイデアを生み出すというのが究極的な姿であると述べた。
そのときには、科学者は失業するかもしれないが、そうしたら浜辺にいて、AIが科学するのを眺めることになると語り、聴衆の笑いを誘った。
北野宏明氏「いまのAIは蒸気機関の段階。AIにとっての内燃機関は5、10年後に出てくる」
最後の基調講演に登壇したのは、沖縄科学技術大学院大学 教授の北野宏明氏。氏はAIの進展とその影響について講演した。
まず、2012年のディープラーニングの登場以降、現在はジェネレーティブAIと進化してきているが、これはAIにとっての産業革命の初期段階だと述べた。前回の産業革命ではスチームエンジンから内燃機関の時代になったが、氏の認識では現在のAIはまだまだ蒸気機関の段階。AIにとっての内燃機関はこれから5年、10年経って出てくると考えていると語った。
検索の代わりに使う、APIを使ってコーディングする、文章を生成するなどのプロダクティビティーツール、また映像を作るようなクリエイティビティーも入ってきているが、その次のサイエンスディスカバリーが本質的な変化をおよぼすと考えていると述べた。
さらに、AIが科学的発見のプロセスをどのように変革しているかについて言及。AIが仮説の生成や実験の自動化を通じて、科学的発見のスピードを劇的に向上させる可能性があると述べた。
また、AIがディプロマシーゲームで人間を凌駕する能力を持つことを示すエピソードを紹介。人間の誰よりも他人を丸め込むことに成功しているAIがチャットボットで出てきたら、「ツイッター」やいろいろな場所で我々に影響をおよぼすこともあり得るという懸念も語った。
最後に、いま作ろうとしている計算機アーキテクチャーができると、我々と違うタイプのサイエンスが行なわれるし、違うタイプのインテリジェンスが出てきて、サイエンスディスカバリーの速度は圧倒的に進む。それは我々の文明のあり方を変えていくことになるだろうと語った。
AI業界全体の未来予測を知る貴重な講演を視聴しよう
本記事は基調講演のあくまでも抜粋。実際には基調講演2~4に関しては、それぞれ30分の時間が設けられており、相当濃く、興味深い内容となっている。特に基調講演3、4は、AMDが主催するイベントでありながら、AI業界全体の未来予測を知ることができる貴重な講演だ。オンデマンド配信が公開されたら、ぜひ視聴することをお勧めしたい。