「リアルスペースワールド」を目指す北九州市、衛星データを活用した自動運転の実証実験も
続いては、同じく産官学で宇宙ビジネスを推進する北九州市の取り組みが披露された。登壇したのは、北九州市の産業経済局 宇宙産業推進室 室長である森永健一氏。
九州の最北端にある同市は、製鉄から端を発するものづくり企業に加えて、IT企業やスタートアップが集積しており、さらには豊富な理工系人材を輩出する学術都市でもある。また、宇宙戦艦ヤマトや銀河鉄道999で知られる松本零士さんが育った地であり、宇宙をテーマにした「スペースワールド」(2017年閉園)や北九州市科学館にある西日本最大級のプラネタリウムの存在などから、宇宙が市民に近しい都市でもある。
このポテンシャルを活かして、2023年より、宇宙ビジネス振興の基盤づくりや宇宙関連スタートアップの育成、民間企業の開発支援などを展開してきた。最終的に目指すのは宇宙ビジネスの拠点となるようなサプライチェーンを構築して「リアルスペースワールド」を築くことだ。
基盤づくりにおいては、宇宙ビジネスに興味のある企業、横のつながりをつくりたい市内の企業を対象に、「北九州宇宙ビジネスネットワーク」を立ち上げている。勉強会やセミナーを定期開催して、産官学をつなぐコミュニティであり、現在会員数は75団体へと広がっている。
この産官学の学において中核となるのが、大学における衛生打ち上げ数が7年連続で世界1位である九州工業大学である。
同大学で研究・開発するのは、「CubeSat」と呼ばれる1辺10cmの立方体を1単位とする超小型衛星であり、2012年から2024年までに計29機を打ち上げてきた。この超小型衛星の試験設備である「革新的宇宙利用実証ラボラトリー」を中核に、民間企業との宇宙実証も積極的に進めている。
九州工業大学の大学院工学研究院 教授である北村健太郎氏は、「“Lean Satellite”という考え方があり、早く、そして安く作れる小さな衛星を使うことで、リスクを取れるようになり、宇宙開発利用の参入障壁を下げることができる」と説明。加えて、「企業が抱えている視点や切り口でやれることは沢山ある。宇宙の裾野を広げるために協力したい」と呼びかけた。
また北九州市は、政府・JAXA同様に技術開発の支援も手掛ける。衛星データの活用や宇宙機器の開発を推進する補助制度を開始しており、市内の企業や大学を対象に最大500万円を補助する。既に2023年は4件、2024年度には5件を採択したという。
技術開発支援においては、衛星データを活用した自動運転の実証実験にも協力している。3Dマップと高精度衛星測位技術を組み合わせて、運転手ありの自動運転システム(レベル2)を開発するというプロジェクトであり、日本独自の測位衛星「みちびき」やGPSを利用して位置を測定するGNSSアンテナが用いられた。
北九州市の森永氏は最後に、「今まさに立ちあがろうとしている宇宙産業に、果敢にチャレンジしていく必要がある。『まだ他の企業が分かっていないうちに挑戦したい』という声も地域の経営者から聞こえてきた。多くの挑戦を引き出し、大学などとつなぎ合わせて、新しいものを生み出していきたい」と意気込みを語った。