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伝統工芸の世界にダイブ! NHKアナウンサーから伊勢根付職人にライフシフトして見つけた幸せ

文●杉山幸恵

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 日本の宝である伝統工芸、職人仕事がもっと多くの人に届くように発信

 独立をした現在は、個人事業主として伊勢根付の制作・販売をしている梶浦さん。ほかにもメディア取材での出演料や、伝統工芸に関する講演、ワークショップなどでも収入を得られている。しかしながら一般的に、修業中は根付制作一本で生計を立てるのは難しいという。

 「修業を始めた当時すでに結婚をしていたので、全く収入がない日々も生きてはいけましたが…ある程度、自分の作品が制作できても、多くの職人はそれだけで生計を立てるのは難しいのが現状です。私の場合、たまたまご縁に恵まれて、初期のころから気に入って買ってくださるお客様がいらっしゃったので、今は最低限の暮らしができる程度の収入はあります」

2020年に「第25回 日本の美術 全国選抜作家展」で柴山哲治賞を受賞した作品「虎穴に入らずんば虎子を得ず」

伝統工芸をテーマにした講演会やトークショーを依頼されることも多い

 そういった状況でも梶浦さんが職人を志した15年前とは伝統工芸へのイメージも大きく変化。後継者になりたい人が増えており、伊勢根付の世界でも専業の職人4人に加え、兼業や修業中の職人が12〜3人ほどいるという。それでも需要の落ち込みが大きく、収入面で後継者になりたくてもなれないのという現実も…。梶浦さんはその現状を変えようと、講演活動やワークショップなど、これまで職人が苦手としてきた人との関わりや、発信を積極的にしている。

 「私は伝統工芸を未来に残したいんです。伝統工芸、職人文化は日本の宝だと思って、この世界に入りました。そのためには、自分だけではだめで、一つの工芸だけでもだめで、さまざまな工芸の次世代の職人が輝く必要があるんです」

 そんな梶浦さんには、2つの若手職人グループを束ねるリーダーとしての顔を持つ。三重県の若手職人全員に声をかけ、2012年に結成した「常若(とこわか)」は、主に県内でワークショップなどの活動を行っている。2017年には東海3県の若手女性職人に声がけをし、尾張七宝、美濃和紙、有松鳴海絞、伊勢一刀彫、漆、伊賀組紐、伊勢型紙、豊橋筆、そして伊勢根付の9人から成る「凛九(りんく)」を結成した。

 「『凛九』では日本橋三越での展示販売から、斎宮歴史博物館での斎王にまつわる展示、海外巡回展にネットでの配信まで、さまざまな角度からこれまで日本の伝統工芸に興味のなかった人にも届くよう活動しています。私はほかの職人と違い、芸術や工芸などを学んでこの世界に入ったわけではないけれど、その分ほかの人とコミュニケーションをとったり、交渉したり、提案したりするのが好きだし、得意。そのお互いの違いを補い合えたら、もっとずっとおもしろいことができるはずと思うんです」

「同じ立場の友達を作りたい」という思いで結成した「常若」

2017年当時、20代~40歳の女性9人で結成された「凛九」

 職人としての自分だけでなく、伝統工芸を取り巻く状況も変えたいと日々奮闘する梶浦さん。「たくさんの縁に恵まれ、たくさんの人に手を差し伸べてもらい、今があるんだ」と、伝統工芸の世界に飛び込んでから現在までを振り返る。

 「導かれるかのように、ここぞという時に手を差し伸べてもらって、ああ、これが私の〝使命・宿命〟なんだなと感じています。誰かに寄り添える作品を制作させてもらえること、自分の時間を自分でコントロールできること、自分の行動が誰かの役に立つこと、歴史の中で守られてきた工芸という文化を担えること…。職人になってよかったなぁと思えることでいっぱいです」

 アナウンサーから伊勢根付職人に転身し、さらに輝きを増し続ける梶浦さんに、これからライフシフトをしたいという同年代の女性に向けてメッセージをもらった。

 「何をやっても不安はあります。時代の変化もあるし、生きるステージの変化もあるから。その中で、自分が選んだものを正解にするしかないんです。今のままでは正解ではないと思うのであればチャレンジするべきだし、そのままの生き方も悪くないと思うのであれば、今ある日々を目いっぱい楽しむ。それもまた素敵な生き方なのではないでしょうか。すべては自分次第です。私が身を置いている職人の世界に限って言えば、この生き方を選んだなら、恥ずかしいとかみっともないとか、周りの人にどう思われるかとか、そんなことに配慮している余裕なんてありません。やれることはなんだってやらなきゃいけない。動かなかったら売れずに忘れ去られてしまいます。それでも、自分で考え行動し、自分が信じたものを『こんなに素敵でしょう?』と誇って生きられるのは、最高に幸せです」

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