AIを創る・使うにおけるパートナーとの支援例、「事業化支援プログラム」も第2期に
立ち遅れる日本の生成AI活用 日本MSが“巻き返し”のポイントを指摘
2024年10月25日 07時00分更新
日本マイクロソフトは、2024年10月16日、パートナー企業による生成AI活用支援の取り組みを紹介する説明会「GenAI Partner Day」を開催した。
日本マイクロソフトの執行役員 常務 パートナー事業本部長である浅野智氏は、総務省やPwCコンサルティングの調査結果を紹介しながら、「日本の生成AI活用は、初動はすごく早かった。ただ現在は他国に抜かれてしまっている」と説明。
“生成AI活用の巻き返し”をパートナー企業と共に図るとし、その一例として、日立製作所とギブリーの支援事例が披露された。
日本企業の生成AI活用には、かみ砕いたノウハウが必要
日本マイクロソフトの浅野氏が紹介したのは、総務省の「令和6年版 情報通信白書」における国民向けアンケートの結果だ。残念ながら、日本国民の生成AIの利用経験率は9.1%と、他国(ドイツ34.6%、英国39.8%、米国46.3%、中国56.3%)と比べて著しく低い結果となっている。
PwCコンサルティングの調査を見ると、企業においても同様の傾向だ。AI導入に関与する社員に実施された「生成AIに関する実態調査2024 春 米国との比較」では、生成AIの活用効果を「期待を大きく上回っている」と回答したのが、米国が33%であるのに対して日本は9%。多くの日本企業が、生成AI活用の現状には満足していないのが実態だ。(参考記事:初動は早かったが、結局生成AI活用で後れを取る日本 理由はリスク対策・保守的な文化)
PwCコンサルティングの調査からもうひとつ引用されたのが、日本企業が生成AI活用において直面している課題だ。「必要なスキルを持った人材がいない」(64%)、「ノウハウがなく、どのように進めればよいか、進め方がわからない」(49%)、「活用のアイディアやユースケースがない」(45%)と、人材や知識の不足に起因した課題が上位に挙がっている。
浅野氏は、「本来、自然言語で回答してくれる、スキルがなくても使いこなせるのが生成AI。だが、実際に使い始めると、スキルがない、ノウハウがないという課題が出てくる。おそらく日本企業は、かみ砕いた形でノウハウを貯める必要があるのではないか」と分析する。
浅野氏がもうひとつ課題に挙げたのは、アプリケーションやデータのサイロ化だ。生成AI活用のためには、“データとセキュリティの観点で、統合的なアプローチ”が求められるという。
これらの課題を解決するには、「日本企業に長年寄り添ってきたパートナー企業の協力が必要」と浅野氏。実際のパートナーの取り組みとして、「Azure OpenAI Service」などを活用した「創るAI」によって顧客を支援する、日立製作所の取り組みが紹介された。
日立の“創るAI”支援:社内外で1000件以上の生成AIユースケースを創出
日立製作所 Generative AIセンターの吉田順氏も、日本企業の生成AIの活用の現状を説明。「2023年、日本では生成AIが大きなキーワードになって、Azure OpenAI Serviceの展開も進んだ。全業種でニーズは広がっているのは実感しているが、全社で生成AIを活用できる環境を整備しても、1、2割しか使っていないという声が非常に多い」と吉田氏。だからこそ「大事なのはユースケース作り」だと強調した。
特に、日立製作所が生成AI活用でフォーカスするのが「現場の人手不足」の解消だ。Lumada事業で蓄積してきたDXの実績や、社会インフラを支えてきた現場のノウハウを活かして、現場作業の生産性と質を向上させることに注力する。日本マイクロソフトと協力して蓄積してきた社内外のユースケース数は、実に1000件以上。その中から、今回は4つの事例を紹介した。
まずは、社内における「IT領域での生成AI活用」だ。Azure OpenAI ServiceやGithub Copilotを活用して、システム開発におけるプログラミングや単体テストを効率化しており、3割以上の生産性向上効果を得られているという。今後は、要件定義や保守を含むシステム開発工程全体への適用を計画中だ。
もうひとつの社内事例が、「コンタクトセンターの回答時間の短縮」。ミッションクリティカルなシステムに対するサポートサービス「日立サポート360」では、RAGやAIエージェントの仕組みを駆使して、対応時間を75%まで短縮できる見込みが立っているという。
顧客事例としては、「社内情報の検索効率化」のユースケースが紹介された。マニュアルや就業規則をイントラネットから検索するのに時間を要していた顧客に対して、Azure OpenAI ServiceおよびAzure AI Searchを用いて、情報収集時間の効率化を実現。定番のユースケースになるが、月50時間の収集時間を15時間に短縮するなど、着実な成果を生んでいる。
製造業の顧客事例としては、今まで熟練者が担当していた作業工程における仕様回答や見積作成を、生成AIが出力する仕組みを構築。同じくAzure OpenAI ServiceおよびAzure AI SearchでRAGを実装することで、熟練者と同等の回答精度を実現、作業時間も50%削減したという。
こういったユースケース作りを加速させるべく、人材育成も進めている。日立グループ内で、高度な生成AIスキルを持つ「GenAI Professional人財」を、2027年までに5万人以上育成する予定で、日本マイクロソフトの研修も活用する。吉田氏は、「今後は、ユースケースだけではなく業務全体のDXを推進して、人材不足という社会課題の解決にマイクロソフトと一緒に取り組んでいきたい」と締めくくった。