画像クレジット:Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Envato
悪者扱いされがちな体脂肪の中でも、臓器の周囲に蓄積される内臓脂肪は、多すぎると健康に悪影響を及ぼすとされている。内臓脂肪を測定する簡単な方法として注目されているのが、「SAD」という測定法だ。
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
今週、あるオフィスでの会話は体重の話題へと向かった。太り過ぎが健康に良くないことは誰もが知っている。太り過ぎは糖尿病や心臓血管の問題など、代謝性疾患に繋がる。しかし、体重を測るだけでは病気のリスクについて必要な情報をすべて知ることはできない。
私には極めて健康なマラソンランナーの友人がいる。彼女の体は全身筋肉で引き締まっている。だが、身長と体重の測定値を相対的に表す「ボディマス指数(BMI)」で見ると、彼女は太り過ぎということになる。これは正直、馬鹿げている。
一方、私は今までそれほど筋肉をつけたことはない。私は自分の体重が健康的だと思っているが、以前、私のBMI値を根拠に、看護師からバターとドーナツをもっと食べるようにアドバイスされたことがある。そんなアドバイスを医療専門家から受けるなどとは思いもしなかった(ここで付け加えるべきは、私と前述の友人は、身長がほぼ同じで服のサイズも同じということだ)。
BMIには欠陥がある。それでは、代わりに何を使うべきだろうか。ハイテクな代替手段はいくつかあるが、仰向けに寝て実施する簡単な測定でも、体のサイズが健康にどのような影響を与えるか知ることができる。
まず、体を構成する全ての物質の中で最も悪者扱いされている脂肪について話をしよう。脂肪は脂肪組織の中に蓄えられるが、非常に重要な機能を持っている。脂肪はエネルギーを蓄え、体を温める。そして臓器を保護するクッションとしても機能する。また、食欲をコントロールするホルモンから、免疫システムの働きに影響を与える化学物質まで、様々な重要物質を生成する。
脂肪はみな同じではない。私たちの体内には白色脂肪、褐色脂肪、ベージュ脂肪がある。白色脂肪がエネルギーを蓄える一方、褐色脂肪はカロリーの燃焼を助ける。ベージュ脂肪組織にはこの2つを混ぜ合わせたものが含まれる。白色脂肪はさらに2つのカテゴリーに分類できる。皮膚の下につくタイプのもの(皮下脂肪)は、内臓を覆うタイプのもの(内臓脂肪)とは異なるものだ。
内臓脂肪は、臓器の周囲に蓄積されるタイプの脂肪だが、これが多すぎると、健康に悪影響を及ぼすと考えられている。内臓脂肪が多いほど糖尿病や心血管疾患のリスクが高まると言われている(ただし、この関係は単純なものでもない。いくつかの研究では、この「余分な」脂肪を取り除いても代謝の健康性は改善されないことが示されている)。
いずれにしても、体内にどれだけの脂肪があるのか、そしてそれがどこにあるのか正しく把握しておくことは重要だ。それにより、少なくとも代謝異常のリスクについて、ある程度知ることができるかもしれない。これを測定するには様々な方法がある。
BMIは最も広く採用されている。BMIは世界保健機関(WHO)が太り過ぎや肥満の定義に使用する公式の指標だ。BMIの良い点は、計算がとても簡単ということだ。しかし残念ながら、体内の脂肪量や、それが健康にどのように関係しているかについて、BMIからは詳しく分からない。結局のところ、体重には脂肪だけでなく、骨や筋肉、血液、その他すべてのものが含まれているのだ(だから、前述のように、善意の医療従事者が、実際には適切ではないアドバイスとして、減量や体重増加を勧めてしまうこともある)。
この点では、脂肪を具体的に測定できるスキャナーを使う方法がより有効だ。典型的なのはX線を利用したデキサ(DEXA)スキャンで、医師はこれを使って、人の体脂肪がどこに、どれくらいあるか把握することができる。CTスキャナー(同じくX 線を利用したもの)やMRI スキャナー(磁石を利用したもの)でも同様の情報が得られる。問題は、どれもそれほど手軽にできるものではないことだ。費用がかかるし、病院に行く必要もある。それだけでなく、標準的な機器では重度の肥満の人に対応できない。また、医療用インプラントを使用している一部の人は、MRIスキャナーを使用できない。より手軽で簡単な測定方法も必要だ。
ウエストの周囲を測定することで、BMIよりも有用な情報が得られると考えられている。ウエストとヒップ、ウエストと身長の比率はどちらも、過体重に関連する病気の発症リスクをより正確に示してくれる。しかし、これもまたそれほど簡単なものではない。メジャーが伸びたりずれたりすることもあるし、毎回ウエストの全く同じ部分を測定するのが難しい場合もあるかもしれない。また、この指標は女性よりも男性の健康状態を確認する場合に良い指標であるようだ。
これに代わる方法として、デンマークのオーフス大学で心臓代謝疾患を研究するエマ・ボルゲソン准教授らのチームは、SADという測定を推奨している。SADとは「腹部矢状径(Sagittal Abdominal Diameter)」の略で、腹部の背面から前面までの長さの測定値だ。
SADは、仰向けに寝て測定する。膝を90度に曲げ、背中が反らず、床と平行になっていることを確認する。次に、息を吐いたときに腹が地面からどのくらい突き出るかを測定する(最も良いのはスライド式の測径器を使って計測することだ)。
この姿勢をとると、皮膚の下の脂肪は体の側面に移動する一方、内臓脂肪はそのままの位置に留まる。そのため、SADはより「危険な」種類の脂肪がどれくらいあるのか正確に伝えてくれる。脂肪は食事と運動で減らすことができる。
この測定法は1980年代に初めて提案されたが、決して大きく取り上げられることはなかった。数カ月前にネイチャー・レビュース・エンドクリノロジー(Nature Reviews Endocrinology)誌に掲載された論文で、ボルゲソン准教授らの研究チームは、この状況を変える必要があると主張し、「SADは、ウエストとヒップを測定するよりもシンプルかつ、安価に、より簡単である。SADを幅広く活用してもらえるよう訴えたい」と述べている。
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