映写室を訪問し、機材を目の当たりにする
編集部では、上映に先立ち、映像事業部 映画興行部 109シネマズプレミアム新宿 兼 運営課プロジェクションリーダーの吉川聡氏のお話を聞くことができた。
国内では2010年ごろから、デジタル上映に対応したスクリーンの数が急速に増え、今ではフィルム上映をする映画館の方が少ない状態になってしまったが、それ以前はフィルムで上映するのが当たり前であり、そのために毎日映写機を回し続けていた。フィルム上映からはしばらく離れていたため、勘を取り戻すために多少の時間が必要だったものの、上映を継続していくノウハウやそのためのスキルについては、特に問題を感じていないとのことだった。
逆に不安を感じているのが、機材やメンテナンスの部分。年に1回ほど業者を入れているほか、油を差したり、ベルトを調整したりして機器の維持に励んではいるが、機材自体は古いもので、今後ランプなど交換部品の確保が難しくなり、故障した際に修理ができるかどうかなどの課題はあるという。
映写室に設置されている2台の機材は、日本中を探し回って調達した機材。この映写機にリールや整流機などミラノ座で使用していた部品を取り付けて運用しているという。
ちなみに、映写に使用するフィルムは配給から借りるが、そのフィルムは小巻(15〜20分程度の尺)を缶に入れて搬送される。上映時にはこれを1本につなぎ合わせることになるが、古いフィルムではそのつなぎ目などに欠損が出やすいという。
また、上映時にはフィルムを映写機の側面に取り付けることもできるが、薄く作られた比較的新しいフィルムでも2時間程度の尺が限界となるため、長い作品では2台の映写機にフィルムをセットし、途中で切り替えながら使用したり、映写機の隣に水平に回る大型の円盤(プラッター)を置き、そこから映写機にフィルムを取り込み、投影した後で、また引き出して別のプラッターで巻き取ったりする仕組みになっているそうだ。
109シネマズプレミアム新宿では後者のプラッターを使った上映をしていた。なお、プラッターが3枚あると、2枚を上映中作品の引き出しと巻き取り、1枚を別の作品に割り当てられるため、2本の作品を交互に上映することが可能になる。
フィルム上映では、上映前にフィルムをセットする(必要な部分にフィルムを通し、頭出しをする)作業が発生する手間はかかるものの、映写自体は全自動で進むという。ただし、音声トラックに音飛びが発生した際に、デジタルとアナログのトラックを切り替えるなど、トラブルに対応する必要があるため、現場には映写技師が立ち合うという。このあたりプログラムした状態なら無人でも映写が進んでいくシネコンより手がかかる面もあるが、多少なり人が介在してサポートする要素があるのもアナログらしさを感じられた。
フィルムで映画を見ること自体が久々の体験だったことに加えて、あまり見る機会のない、映写機が動いている様子を見られた点も新鮮な体験だった。
また、今週末の上映スケジュールを見ると、憐れみの3章はドルビーアトモスなど別のフォーマットでの上映もされるようなので見比べてみるのも面白いかもしれない。
109プレミアムシネマズ新宿では、新作・旧作を含めてさまざまな作品の35mmフィルム上映が実施されている。その詳細は劇場のウェブサイトなどで確認してほしい。