遊食 ! 東日本 第3回

絵葉書の世界へようこそ! 泊まれる世界遺産 五箇山の合掌造り集落で過ごす1泊2日【南砺の旅#1―伝統産業編編】

文●風都ナツメ マップ●フジマキ容子

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 意外な名物から興味を引く観光スポットまで、東日本にはまだ知られていない魅力がたくさん。実際につなぐ旅編集部が東日本の市町村を訪れて、「ワクワクする」シーンを体験レポートします。第2回目は世界遺産を有する富山県南砺市です。

 1995年、岐阜県白川村荻町、富山県五箇山相倉、菅沼の3つの集落が「白川郷・五箇山の合掌造り集落」として世界遺産に登録されました。その五箇山があるまちが南砺市です。相倉集落には民宿がいくつかあるということで、世界遺産に宿泊してきましたよ。今回は「伝統産業編」「宿泊編」「合掌造りの歴史編」の3本立てでご紹介します。(宿泊編はこちらから、合掌造りの歴史編はこちらから)

新幹線とバスで山の中の集落へ

 南砺市の相倉集落へは、北陸新幹線新高岡駅から世界遺産バスでアクセスすることができます。最寄りは「相倉口」バス停。

普段緑色の駅名標に見慣れているので、青色だと「おっ」となる

相倉へ向かう場合は事前予約不要で乗ることができます。白川郷も含めて全部訪れる場合はバス会社へ確認を

 バスは新高岡駅から高速道路を経由し、五箇山エリアへと向かっていきます。平日の午前中の乗車客は、私を含めて3人。車内では「こきりこ」という民謡をはじめとした五箇山の観光情報がアナウンスされており、これを聞くだけでも予習になります。

「世界遺産」と書かれた案内標識がかっこいい

「本物だ!」と思ってしまう絶景

 相倉集落は、この集落全体が世界遺産。遺跡ではないので、普通に人々が日々の暮らしを営んでいます。人々の日常生活に影響が出ないよう、観光客の車は集落の奥に入ることはできません。また、観光時間も8:30から17:00と決められています(民宿宿泊客を除く)

合掌造りって本当に三角の形をしているんだなあ、とまるで有名人を生で見たときのようなことを思ってしまう

 駐車場でフォトスポットを示す看板を見つけたのでさっそく行ってみることに。息切れするほどの山道を5分くらい上ると、そこには絶景が広がっていました。

木々の隙間から合掌造りの家々が見えて、カレンダーや絵葉書にありそうな写真!

さらに進んだところにもフォトスポットがあったのでパチリ。こっちの方が絵葉書っぽい写真でしょうか

道中には熊よけの鈴があったので、安全のため昼間に行くのがおすすめです(まじで)

家内制手工業が発達した五箇山

 五箇山では縄文時代の土器などが見つかっており、狩猟や採集に適した場所だったと考えられています。平安時代末期には源平の合戦で敗れた平家の落武者が住み着いた、という伝説や口承も残されているのだとか。確かにこのあたりは山々に囲まれていて、平地からアクセスしづらい感じが「隠れ里」にぴったりに思えます。

 そんな五箇山、相倉のことを知るために、まずは「相倉伝統産業館」を訪れました。

行きのバスで流れた民謡「こきりこ」の衣装と楽器

 相倉には今でこそ田んぼがありますが、品種改良が進むまでは稲作が難しい土地でした。ヒエやアワなどの雑穀を作ってはいたものの、お金を得るためには産業が必要ということで、各家庭で塩硝作り(火薬の原料)、養蚕、和紙作りが行われるようになったそう。工場などがあったわけではなく、それぞれの家の床下で塩硝を、屋根裏で養蚕を、そして家の土間部分などで和紙を作っていたようです。「家」が「住む場所」「産業の場」という2つの意味合いを持つところが面白い。

塩硝作りの道具。年貢米の代わりに塩硝を納めていたことなどが書かれています

和紙で作った羽織も展示

 2階には養蚕の道具を再現したスペースが。ここは「2階」ではなく「屋根裏」という扱いで、1階が住居、2階(屋根裏)が養蚕の場所、というのが当時のスタンダードでした。昔話や小説に出てくる屋根裏は物置にされるなどしているので、部屋にはなりえない場所なのかも。デッドスペースを産業で有効活用しているのはすごい。

屋根の裏が見えて、まさに屋根裏

養蚕に使われていた棚

 ここは富山県に伝わる古代民謡「こきりこ」の発祥地で、歌に合わせて楽器「ささら」を鳴らしながら踊るのだそう。ささらは108枚のヒノキの板を組み合わせたもので、両端を持ち手首のスナップを効かせるように動かすと「シャラン!」という小気味よい音が出ます。

 私もスタッフさんに教えていただきながら、体験用のささらを鳴らしてみましたが、これが難しい! 絶望的にリズム感がないせいかうまく動かせず、全然いい音が出ない…。あと、ささらの重さと手首の動きで地味に体力を奪われます。楽器ってリズム感も体力も使うんだな、と痛感しました。

普通サイズのささらでは歯が立たず、小サイズで挑戦したら音が鳴りました!

おしゃれに丸められているものが「ささら」

相倉伝統産業館
住所:富山県南砺市相倉220
HP:http://www.g-ainokura.com/

初めての和紙漉き体験や、いかに

 相倉の産業の一つ、和紙。「五箇山和紙」と呼ばれ、越中(富山県)を収めていた加賀藩主、前田利長に贈られたという記録もあります。私も和紙を漉いてみたかったので「和紙漉き体験館」へ行くことにしました。陶芸やガラス吹きなど工芸体験系はそれなりにやってきましたが、和紙漉きは初めてです。

先にお見せしますが、私が漉いた和紙です(可愛い)

 和紙の原料は楮(コウゾ)という植物。剥いだ皮を蒸して漂白したものがメイン素材です。そこにトロロアオイという植物の根をつぶしたものと水を混ぜると、“和紙の素”が出来上がります。

 ここでは伝統工芸士の前﨑真也さんがやり方をレクチャーしてくれます。

和紙の素を作っている前﨑さん

前﨑さんが持っているのが楮の皮

体験館の前に生えている楮

 さっそく私も挑戦。簀桁(すけた)という、すのこのような器具を前後に動かしながら液をすくうだけ、とナメてはいけません。液に入っている楮の繊維が均一に広がるように簀桁を動かす必要があるんです。でも水はたぷんとあっちこっちに動いて私の思うとおりに広がらず…。簡単そうに見えたのに手漉きって難しいですね!

私が挑戦する前に、観光で訪れていたお子さんがチャレンジ。体験者が子供の場合はこうして前﨑さんが手を添えて誘導してくれます(私も誘導されました…)

 和紙はその場で乾燥させてくれるので、すぐに持ち帰ることができます。体験から持ち帰りまで10分くらいと超スピーディー。

 また、前﨑さんは某大手メーカーの縁起物の制作も手掛けているのだそう。ギフトカードと職人さんが作る縁起物のセットで、毎年完売する人気アイテムです。五箇山和紙は縁起物でもあるんですね。

タヌキ以外にもトラやヘビの和紙細工がありました

映像製作会社「ピクサー・アニメーション・スタジオ」のケルシー・マンのサインが!

和紙漉き体験館
住所:富山県南砺市相倉835
HP:http://www1.tst.ne.jp/gokawasi/
※和紙漉き体験の予約は上記サイト「(農)五箇山和紙」へ
※電話/0763-66-2016

山に囲まれた五箇山だからこその伝統産業

 五箇山の景色は本当にきれい! テレビや絵葉書で一度は見たことがあるあの光景が目の前に広がっている、今私はそれを見ている、と思うとものすごく感動しました。スマホのアルバムが間違いなく一杯になりますよ。

 そんな相倉集落では「稲が育たない」ことがきっかけでさまざまな産業が発展していました。農業が基本的に各家庭で行われるのと同じように、塩硝作りも養蚕も五箇山和紙作りも、すべて各家庭で行われていたということがとても興味深く感じられます。

 今回の旅のメインである宿泊編と、合掌造りの歴史編もぜひ読んでみてくださいね。(宿泊編はこちらから、合掌造りの歴史編はこちらから)