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米「インフレ抑制法」から2年、気候分野にもたらした確かな変化

2024年08月27日 14時50分更新

文● Casey Crownhart

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Lukas Schulze/Getty

画像クレジット:Lukas Schulze/Getty

米インフレ抑制法が成立してから2年が経過した。巨額の補助金や税額控除の恩恵を受けた気候テック分野では、その効果が着実に現れ始めている。

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

米国が画期的なインフレ抑制法(IRA:Inflation Reduction Act)を成立させてから、2024年8月16日で2年になる。私は普段、法律制定の記念日を追いかけるようなことはしていない。だが、インフレ抑制法は例外だ。この法律は米国内外で気候変動対策テクノロジーに大きな変革をもたらしたからだ。

これまでの2年間、気候変動対策テクノロジーに資金が流れ込んでいくのを私たちは目の当たりにしてきた。流入元は、米連邦政府、気候変動対策テクノロジーに取り組もうとする民間企業、潮流に乗り遅れまいとする諸外国などさまざまだ。そして今、気候変動対策テクノロジーに流入してきた資金が変化を起こし始めている。

現在の状況について説明する前に、簡単なおさらいをしよう。2022年7月下旬、米議会は大規模な税制改革と歳出パッケージについての合意に達した。この法律により、一部の税制ルールが変更され、処方箋薬価が改革されたほか、医療機関と徴税機関への資金提供が決まった。

そして、総額数千億ドルに達する気候変動対策に関する項目がある。風力発電設備や太陽光発電設備などのテクノロジーを開発する新しい工場を建設・運営する企業を対象とした税額控除だ。さらに、電気自動車(EV)やヒート・ポンプ、太陽光パネルを購入しようとする個人を対象とした税額控除もある。加えて、新しいテクノロジーを世に送り出そうとする企業に融資するための資金も確保されている。

さて、興味深いのはここからだ。その資金は一体どこに向かうのか。

資金の一部は、EV用バッテリーやエネルギー・テクノロジーなどの国内製造を促進する名目で補助金として提供される。例えば、2022年10月の記事では、数十億ドルが電池部品を製造する企業やその原材料を生産する企業に提供されると書いた。

税額控除はインフレ抑制法のもう一つの大きな柱であり、それが企業にとってどれほど大きな意味を持つかが明らかになりつつある。米国で薄膜太陽光パネルを製造しているファースト・ソーラー(First Solar)は今年初め、約7億ドルの税額控除を受ける契約を進めていると明らかにした。

さらに、個人に対する税額控除もある。5月下旬の時点で、およそ300万世帯が2023年分のインフレ抑制法の税額控除を申請したことが明らかになった。太陽光発電パネル、バッテリー、ヒートポンプに加え、断熱材などの住宅エネルギー効率化テクノロジーを対象に、合計約80億ドルの税額控除が認められた。この税額控除は人気があり、その支出額は当初予想額のおよそ3倍に達した。

私が特に注視してきたのは、米国エネルギー省の融資プログラム局(Loan Programs Office)による資金提供である。融資プログラム局は企業に融資することで、革新的なプロジェクトを支援している。融資プログラム局はバッテリー・リサイクルに取り組んでいるレッドウッド・マテリアルズ(Redwood Materials)に20億ドルを融資している。レッドウッド・マテリアルズについては、この融資が発表される前に詳しく取り上げた記事をご覧いただきたい。また、ミシガン州にある原子力発電所の再開に向けた15億2000万ドルの融資や、亜鉛電池を後押しするための4億ドルの融資も記憶に新しいだろう。

資金を投入しているのは連邦政府だけではない。企業も追随し、新工場の設立や旧工場の拡張を発表している。サンフランシスコに本部を構えるエネルギー・気候政策シンクタンク、エナジー・イノベーション(Energy Innovation)で政策アナリストを務めるジャック・コネスによる追跡データを見ると、2022年8月のインフレ抑制法成立から2024年5月までに、さまざまな企業がEV、太陽光発電、風力発電、送電プロジェクトなど、159のプロジェクトに合計1100億ドルを投資した。

この影響は米国外にも波及している。欧州連合(EU)はインフレ抑制法に対抗すべく、2024年初頭にネットゼロ産業法(NZIA:Net-Zero Industry Act)案を採択した。インフレ抑制法のような大盤振る舞いとはいかないが、2030年を目標として、EU圏内で使う気候変動対策テクノロジーの40%をEUが供給するという目標が盛り込まれており、その実現に向けて新規プロジェクトの承認手続きに関するいくつかのルールが変更された。

インフレ抑制法の対象期間の終わりはまだまだ先であり、一部のプログラムは10年間にわたって支援を受けることになる。見過ごされがちだが、この1年で最も大きな変化の一つは、いくつかの主要プログラムが実際にどのように機能するのかが明確になったことだ。大まかな輪郭は法律が定めていたものの、その施行に関する詳細の一部は各機関の判断に委ねられていた。こうした詳細はしばしば些細なことのように思えるかもしれないが、どのようなプロジェクトが対象として適切であるかという判断によって、税額控除が産業界に与える影響は変わる可能性がある。

例えば2023年12月には、EV税額控除の制限が中国製部品を使用したEVに与える影響が判明した。その結果、2024年以降はフォードのマスタング・マッハEなど一部の車種が税額控除の対象外となった。フォードは、この車種が控除の対象外となった理由をはっきりとは明らかにしていない。しかし一部報道では、この車種が車載用電池の世界最大手である中国寧徳時代新能源科技(CATL)が製造するリン酸鉄リチウム電池を搭載していることが原因である可能性が指摘されている。

このようにインフレ抑制法の施行に関する細々としたことの一部は、かなり複雑な様相を呈している。水素の税額控除に関しては法廷闘争にまで発展する可能性がある。持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)の税額控除に関する規則をすべて詳細に検討すると、排出量削減にあまり貢献しない燃料にまで資金が提供される懸念が浮かぶ。重要鉱物の税額控除は、本誌のジェームズ・テンプル編集者が今年初めにミネソタ州の鉱山についての記事で詳述したように、採掘ではなく加工だけが対象となる。

インフレ抑制法の今後の運命は、今年11月の米大統領選挙の結果に左右されるだろう。インフレ抑制法法案の採決では、賛成・反対が同数となった後、民主党大統領候補のカマラ・ハリス副大統領が上院議長として決定票を投じて法案を成立させた。ハリス副大統領は法案の維持を望むだろう。一方、共和党大統領候補のドナルド・トランプ前大統領は、インフレ抑制法の条項について公然と批判している。実際に廃止するには議会の決議が必要になるとはいえ、トランプ候補が当選した場合、インフレ抑制法による税額控除の多くが危うくなってしまう可能性がある(第二次トランプ政権の誕生がインフレ抑制法に与える影響については、ジェームズ・テンプル編集者がこちらの記事で詳しく解説している)。

気候変動対策テクノロジーの世界の動きが鈍化しているわけではない。今後、注目すべき重要なパズルのピースとしては、新規プロジェクトの承認手続きが変わってしまう可能性が挙げられる。現在、許認可改革パッケージが米議会で審議されているが、その詳細や気候変動対策テクノロジーに関するさまざまな情報については、引き続き注目していきたい。

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11月に米大統領選挙を控える今、インフレ抑制法の条項の中で最もリスクにさらされているものは何かジェームズ・テンプル編集者が詳述したように、ミネソタ州のある鉱山は、数百億ドルの税額控除が受けられるかもしれない。


グリーン鉄鋼、鍵は自動車産業?

鉄鋼生産で排出する温室効果ガスの量は、世界全体の温室効果ガス排出量の約7%を占めている。排出量を抑えながら鉄鋼の生産を可能にするテクノロジーが次々と開発されているが、「高コスト」が大きなネックとなっている。

しかし、大局的に見れば、排出量の少ないグリーンスチールが、標準的な鉄鋼よりも30%高価だとしても、グリーンスチールを使って製造した新車の平均的な販売価格は、100ドルほど高くなるだけ、その上昇幅は1%にも満たないのだ。つまり、自動車産業は世界を環境に優しい鉄鋼へと導くまたとない機会を手にしていることになる。詳細はこちらの記事で確認できる

wide view of auto production at Mercedes-Benz factory

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    → 微生物を使って生ゴミや農業廃棄物をエネルギーに変えようとする企業の取り組みを紹介。(MITテクノロジーレビュー
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