エンジニア魂が燃えたぎる!生成AI開発イベント「AI Challenge Day」 第4回
審査委員から見た「AI Challenge Day」
AIコンテストの優勝チームが持ち合わせていたのはデータ処理と課題設定の強み
2024年08月02日 15時30分更新
神戸と品川で開催された生成AIコンテスト「AI Challenge Day」で審査委員長を務めさせてもらった。日本マイクロソフトのパートナー10社が、RAGとマルチモーダルをテーマに観光用の生成AIボットを作るという内容だったが、まさに役得とも呼べる楽しさだった。ここでは審査員の立場から、コンテストのどこが楽しかったのか? 優勝チームがどんな「個性」を持っていたのかコメントしていきたい。
発展途上だから面白い! 審査員から見たAI Challenge Day
画像認識や機械学習での技術的なブレイクスルーから始まり、ChatGPTから勃興した生成AIブームに進み、第3次と言われるAIブームも市場に根付いてきた感がある。アプリケーションやOSに生成AIが組み込まれてきたことで、一般のビジネスマンもさほど抵抗なくAIを使うようになってきた。
しかし、機械学習ブームが訪れた7~8年前、各社から数多くのAIサービスが発表されたときには、「こんなサービスを使うようなエンジニアが、そもそも日本にはいるのだろうか?」という疑問が拭い去れなかった。オンプレミスの技術を理解しているエンジニアがクラウドに移行するというパスは描けたが、システムやアプリ開発を担当しているエンジニアが、AIを使ってサービスを作るイメージが沸かなかったのである。
その後も、「日本にAIエンジニアはいるのか?」「いるとしても、Webサービス事業者に数人レベルよね」と思っていたのだが、今年2回に渡って開催された「AI Challenge Day」に参加し、イベントでその疑念は一気に払拭された。サーバーやデータベースと同じレベルでAIサービスを操り、開発できるエンジニアがいっぱいいることを知って、とてもうれしくなった。正直言って、この数ヶ月の立ち話やミーティングで、このイベントの話をしなかったことの方が少ない。クラウド黎明期を感じさせるようなユーザーの熱気に正直すっかり当てられている。
そして、今回のAI Challenge Dayで驚いたのは、RAGやマルチモーダルといった開発手法の多彩さだ。マイクロソフトのテクノロジーを用いてRAGを構築するお題だったので、各社の発表は正直言って似か寄ると思いきやさにあらず。AI SearchやDocument Intelligence、そしてGPT-4など鉄板ツールは決まっていたものの、オーケストレーターや前処理のツール、UI/UXなどは多種多様で、処理のフローもバリエーションに富んでいた。確かに生成AIのテクノロジーは日進月歩で、まだまだ過渡期。未成熟で、完成されていないからこそ、エンジニアにとってAIは楽しいのだ。
各社の戦略もさまざま。RAGを突き詰めるチーム、新しいツールにチャレンジするチーム、UI/UXやカスタマーストーリーにフォーカスするチームなど、それぞれ個性豊かだった。限られた時間の中、どのように完成度を高めるか、さまざまな取捨選択がチームで行なわれたはずで、想像すると胸が熱くなる。
2回のコンテストで優勝したチームは、やはり優勝しに来ていた
小数点以下の単位で点数を競う国際的なスポーツイベントを見ていると、おのずとこのチームはなぜ優勝したのだろうか?という疑問が自然と湧いてくる。ことAI Challenge Dayに関しては、優勝したチームの強み、ヒロアカ風に言えば「個性」だったのは、「データ分析」と「課題設定」の2点だ。
神戸で開催された第1回目で優勝した日立製作所は、AIに強いというより、データに強いチームだった。世界的なデータ分析のコンテスト「Kaggle」の世界大会で第3位になったデータサイエンティスト 諸橋政幸氏を送り込んできたことだけで、イベントへの意気込みが伝わる。
日立製作所のチームは最初からスクリプトを動かし、算出された点数を元に、バージョンアップを重ねて、とにかく点数にこだわった。おそらく「きちんとしたデータを食わせれば、AIはきちんと答えを返してくるはず」という考え方のチームだったのだろう。検索方法の選択、読み込めないファイルへの対応に加え、他社では「ここまでいけなかった」という質問のフレーズを書き換えるリフレーズ、検索順位を一定ルールで入れ替えるリランキングまで進め、とにかくデータ処理を丁寧に行なったことが優勝につながったと言える。
関連記事:日本マイクロソフトのAIパートナー10社が神戸に集合 RAGとマルチモーダルに挑む
一方、品川で開催された第2回目で優勝したアビームコンサルティングは、コンサルティング会社という出自もあって、とにかく課題設定が秀逸だった。他の参加者が「作ること」や「技術を試すこと」にフォーカスする中、顧客課題に集中し、カスタマーストーリーを練り上げ、技術検証とアジャイルな改善を行なうという自社のワークフローにこだわった。普段から「息をするように自然にやっている」はずのPoCのフローを、AIコンテストまでに持ち込んだ結果、「お客さまのところに持って行けるレベル」の提案まで実現できたのだろう。
実際、ネットワーキングパーティの際にアビームコンサルティングのメンバーに聞くと、やはり「優勝すること」を意識しており、各自の役割分担も「勝つために」どうすべきかを基準にしていたという。スポーツ選手権のように勝つために組織されたチームで、きちんと勝ったのである。
関連記事:生成AIの熱き戦いが品川でも! GPT-4oもフル活用されたAI Challenge Day 2nd
優勝企業はブログのタイトルですら違うのか
主催者も繰り返し明言しているが、今回のAI Challenge Dayは競い合うことより、あくまでチャレンジすることを重視したイベントだ。だから参加した20社は、新しいテクノロジーに触れ、普段と異なるチームで普段と違うプロダクトを作っていく貴重な体験を得たと思っている。若手チームの育成や体験の場という意味でも、実りは多かったはずだ。
しかし、その中でも優勝したチームは確実に他社より優れたポイントがあり、そこは大いに見習うべきところがある。同じ時間、同じ条件で、できた成果物が違うという事実に対して、参加者にはあえて悔しがってほしいのだ。たとえば、記事に貼り付けた各社の技術ブログのタイトルは、おおむね「AI Challenge Dayに参加してきました」なのだが、アビームコンサルティングは「生成AI/RAGシステム業務実装の勘所 ~AIハッカソンのグランプリ受賞作から紐解く~」である。「そうか、優勝するチームはブログですら、きちんと読者を向いているのか」と、記者の私は驚いた。
20社の参加者たちが、このイベントをきっかけにどのように成長していくのか、陰ながら見守っていきたい。そして、大きな感銘と気づきを与えてくれた参加者に大きな拍手を送りたい。
大谷イビサ
ASCII.jpのクラウド・IT担当で、TECH.ASCII.jpの編集長。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、楽しく、ユーザー目線に立った情報発信を心がけている。2017年からは「ASCII TeamLeaders」を立ち上げ、SaaSの活用と働き方の理想像を追い続けている。
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